「丸の内OLなら簡単に落とせる」ついに訪れたモテ期。28歳で逆転する、男女の市場価値
−女なんて、どうせ金を持ってる男が好きなんだろ−
そんな風に思うようになったのは、いつからだっただろう。
慶應義塾大学入学とともに東京に住み始めた翔太は、晴れて慶應ボーイとなるも庶民とセレブの壁に撃沈。
さらには付き合い始めた1歳年上の女子大生・花純が、お金持ちのおじさんに群がるいわゆるビッチだったことが判明。
その悔しさを就職活動に向け大手総合商社の内定を勝ち取るが、若手のうちは結局下積み。「商社マンはモテる」というのは幻想だったことを思い知る。
(c)Hayato Oishi
28歳の男女は、まるで蟻とキリギリス
蟻とキリギリスの話、ご存知ですよね。
一日中歌ったり遊んだりしてばかりのキリギリスは、せっせと食べ物を集め働いてばかりいる蟻をせせら笑っていた。でもやがて寒い冬が来て食べ物が失くなってしまうと…というイソップ童話。
28歳になった僕は、この話ってまるで東京の男と女の事なんじゃないかと感じていました。
20代前半、蝶よ花よと持て囃され身の丈に合わぬ贅沢を享受していた女たちは、下積みに耐え、必死で働く同世代の男たちのことなんて見向きもしなかった
しかし20代も後半になり、彼女たちの最大の武器である“若さ”と“美貌”に陰りが見え始めると…可哀想に。キリギリスは、蟻を頼る他なくなるのです。
28歳になった途端、同世代の女たちが急に焦り始める様子を、僕は非常に興味深く眺めていました。
急に目の色を変え、金持ちおじさんから“適齢期”の男に狙いをシフトチェンジ。一斉に結婚、結婚と躍起になる女たちの現金さといったら...。
大した学歴もキャリアも持っていない女の子たちに至っては、それはもう必死の形相です。まあ、彼女たちにとってみれば死活問題ですからね。
会社同期の男たちの間でも“彼女からの結婚圧力”ネタはよく話題に上がっていました。
彼女の部屋に突如ウェディング雑誌が現れたとか、友達のプロポーズ話を延々聞かされたとか、結婚した友人夫妻の新居に半ば強制的に連行されたとか…それはもう色々。
共通の友人を使って「あの子、お見合いさせられるらしいよ」というでっち上げの情報操作までされたツワモノもいましたからね。
数々の被害報告は途切れることを知らず、大いに笑わせてもらっていたわけですが、しかしそんな僕自身も他人事では済まされませんでした。
モテ期を謳歌する商社マン・翔太を襲った修羅場とは
里香って覚えてますか?
25歳のときに付き合い始めた損保OLの里香です。
誕生日の“アッピア事件”は僕の記憶に染み付いているものの、なんだかんだで付き合いが続いていました。
男って、彼女の外見が好みだと他は色々許せるものなんですよ。
それに、里香に会ったことのある同期も全員、彼女を絶賛してくれました。やっぱり嬉しいものです。自分の彼女のことを「めちゃくちゃ可愛くね?」なんて褒められるのは。
だから別れるつもりなんてなかったんです。…まさかの奇襲攻撃を受けるまでは。
僕が28歳、彼女が26歳だった年のGWのことです。
ふたりでセブ旅行に出かけて、成田に戻り、高速バスのチケットを買いに行こうと歩き出した、その時。
「ね、実はママが迎えに来てくれてるの。翔太も一緒に乗ってかない?」
−…これは!
僕は即座に察知しました。これは間違いなくアレです。数々の同期たちが被害に遭ってきたという結婚圧力。
「どうせ通り道だし」などとさりげなさを装ってきましたが、僕は騙されませんでした。
「いい、俺は大丈夫。じゃあここで…」
長居は無用。僕は早口でこたえると、そそくさとその場を離れようとしたんです。しかし踵を返そうとしたその時、スーツケースを引く腕をぐっと掴み戻されました。
「…待ってよ。逃げる気?」
…逃げる、とは?
僕はただ、同乗の申し出を断っただけです。しかし「逃げるって、何が」と呟く僕の声は彼女に届いていないようでした。
スイッチの入った彼女は、低い声で詰め寄ってきました。
「私たちはもう3年も付き合っている」
「そろそろ母親に会ってくれてもいいはずだ」
「私との将来を一体どう考えているのか」
どうにかうまく切り抜けようと試みるも、さすがに母親を成田まで呼んだ彼女の決意は固いようで隙を与えてくれない。
さすがに結婚は考えられなかったので、火に油を注ぐ覚悟でもう正直に言ったんです。そうしたら…。
「最低。私の一番いい時期を返してよ!泥棒!」
泥棒って…。正直、開いた口が塞がりませんでした。
この3年間、僕は僕なりに里香のことを大切に扱ってきた。ワガママも聞いたし、ブランド志向の彼女のためにプレゼントだって奮発してきた。そもそも今回のセブ旅行だって、フライト代以外は全て僕が支払っているのです。
それなのにこの僕が、泥棒?
さすがにカチンと来て、僕は勢いのまま口にしてしまいました。
「わかった。これ以上、里香の時間を盗むわけにいかない。別れよう」
−…映画のセリフかよ。
言いながら、心の中で突っ込んだ記憶があります。
妙に冷静だったのは、この時はまだ現実味がなかったからでしょう。
突如奇襲攻撃をかけられ、暴言を吐かれ、勢いのままに別れてしまった僕は、さすがにこのあと後悔したんですよ。
日常のふとした瞬間に空虚を感じ、寂しさから再び連絡を取ろうとしたこともあります。
里香と別れて間もなく目黒から麻布十番に引越しをしたのは、そんな自分の女々しさを断ち切ろうとしたことがきっかけでもあったんです。
麻布十番に引っ越し、ついに港区住民に。翔太にもついにモテ期が訪れる!?
ついに…モテ期到来!?
しかし里香と別れたことも、麻布十番への引越しも、結果的に正解でした。
何かを失えば別の何かを得るというのは真実かもしれない。というのも、ついにこの僕にも“モテ期”なるものが到来したのです。
里香と別れた僕は、3年ぶりにオフィシャルに(笑)戦線復帰したわけですが、女の子たちの僕を見る目が以前と違っていることに気がつきました。
うまく言葉にできないのですが、瞳に光が宿っているとでもいいましょうか。
当時、僕の年収は800万円強。一部のエースクラスはすでに1,000万円を超えているらしいですが、まあ、同世代の平均として悪くはないはずです。
同期の中でもいち早くプロジェクトリーダーに抜擢されたりして、仕事にやりがいを感じられるようになっていた僕は、少しずつ男としての自信を身につけていきました。
自信とか余裕って、表に滲み出るものですよね。男の魅力を育てるのは、経験値以外ないのかもしれません。
以前は一人の女を口説くのも四苦八苦だったのに、自分でも驚くほど自然な振る舞いができるようになっていました。
「丸の内OLなら、簡単に落とせる」
調子に乗っていた僕はこの頃、そんなセリフまで吐いて同期の笑いを取っていました。
…痛いって?(笑)わかってますよ、自分でも。
けれど20代後半、そのくらいまさに仕事も遊びも絶好調だったんです。
そんなわけで、僕は似たような同期たちとともに、ようやく訪れた栄華を存分に堪能していました。
ところがそんな僕らを横目に、全くブレず、動じず、ひたすら仕事に邁進している男がいました。
僕と同じ部署にいる、同期のコジマです。
コジマは大学で鉄道研究会に所属していたとかで、オタク気質で地道にコツコツ、つまり僕とは相容れない男。
まったく面白みに欠ける男で、食事会に誘っても全然乗ってこないし、皆が女ネタで盛り上がってても素知らぬ顔。
コジマを見てると「お前、なんで商社マンになったんだ?」と言ってやりたくなります。つまり僕の中でコジマは、到底評価に値するような人物ではなかった。
それが、ある日。
同期との雑談の中で、聞き捨てならない噂を耳にしたんです。
「なぁ知ってるか。俺ら同期の中で、コジマが出世レースの先頭だって話」
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