毎日のように行動を共にするパリの恋人たちでも、関係は安心できません。いくら至近距離でも、相手の心の中までは目に見えないから。今回は、「もしも他の男性に心がうばわれたら?」のケースです。

別の人に心が揺れるのを「かき消さない」

着実な交際を続けているにもかかわらず、不意に他の誰かに意識が向いてしまうこともあります。今の彼への情が勝って、封印するか、ごまかすか、忘れるか……。とする人は多いのではないでしょうか。

これまでの連載でもパリジェンヌの「直感に従う」行動や「アバンチュール」を見てきましたが、「自分の気持ちに正直」なのがパリジェンヌだと私は思います。

2000人のパリ市民にとったアンケートから「パリ特有の『都市型自由な恋愛観』がうかがえる」との記事を目にしました。そのアンケートでは、50%のパリジェンヌが、「つかのま」の関係を容認しています。もちろん皆が皆、実行しないにせよ、そうしない人も、そうする人を否定しません。なぜなら人は、理性で解決できない場合もある、とわかっているから。

ダブりはダメなこと?

「誠実さ」はこの際置いておいて、「複数」の好きな相手がいる時期もあってよいのかも。ずっと続いたら困るけれど……! 私がそんな考えに行き着いたのは、友人たちが幸せな結婚をしたからです。

日本人の友人Aちゃんは20代後半。日本にフィアンセがいて、パリ留学をしました。フィアンセは、いわゆる「ハイスペック」な男性。2年後に結婚することも約束していました。

ある日のパーティーで、フランス人からアプローチがあったと語るAちゃん。私には報告だけで、相談はありません。「だってフィアンセがいるのだからノンに決まってる!」

しかしその後も彼に誘われ、ちょくちょく会っていると伝えられました。あくまで「友人」と言う彼女の心が揺れ動いているのは表情で一目瞭然。困るどころか、笑みが思わずこぼれてしまっていたのです。さあ、もう隠せない!

何事も自分の軸で決める

私がどんな言葉を返したのかは忘れました。彼女の長年の夢であった結婚のために「やめたら」とは言えなかったのは事実。

でも、私も彼女もお互い、住んでみてはっきりしたのが、第一に自分が軸となるパリの考え方でした。心配はあっても本人次第。静観し、近いうちに彼女がどちらかを選ぶかと思っていたら、選ぶ事自体していませんでした。

一時帰国の流れで、日本で彼に、フランスで彼に、どちらとも会い、関係はそのまま。そうこうするうちにパリの部屋の契約期限が迫り、物件探しをしていたときにフランス人の彼から「『ウチに住めば?』と言われ、『はい、喜んで!』と答えた自分の心に従った」結果、フィアンセに別れを告げたそう。

そもそも天秤にかけられない

Aちゃんの話を聞いてイメージしたのは「ふたまた愛」。しかし、双方の魅力は別モノで、天秤にかけるのは無理。彼女は単に自分の心に嘘をつかなかっただけ。自然の流れに任せ、来るべき時に来た「答え」に従っただけ。そう思いました。結果、ときめく彼の方を選んだのです。

私自身、パリでは「自分に正直」でないと、かえって関係をこじらせることもあると学びました。まわりからの見られ方を優先し、とかく自分を抑えがちな日本の女性。日本人の美徳でもありますが、少しだけ自分の内なる声に耳をすませてはいかがでしょうか? 気持ちの上では、決して無理はしないでほしいと思います。

Aちゃんの「ドラマ」を知った同時期に、結婚生活10年以上の別の友人からも「フランス人の夫とパリで知り合ったとき、実は日本にフィアンセがいたの」と聞いて、驚いた私。

フィアンセがいると聞いてもあきらめない国民!?

そうですよね、まだ結婚していないのだから……。と、私の思考回路が慌ただしくなったパリの幸せカップルの話でした。

(米澤よう子)