女子は、見た目で友達を選ぶ。仲良しグループの顔レベルが同じだと『好都合』という女の本音
東京の女性は、忙しい。
仕事、恋愛、家庭、子育て、友人関係…。
2023年を走り抜けたばかりなのに、また走り出す。
そんな「お疲れさま」な彼女たちにも、春が来る。
温かくポジティブな風に背中を押されて、彼女たちはようやく頬をゆるめるのだ――。
▶前回:「高年収の男との別れってつらい…」高級ホテルやレストランに慣れっこになっていた29歳女は…
薫(26) 一緒にいるの、しんどいかも…
3月末、昼過ぎの東京駅八重洲口。
薫は、スーツケースを転がしながら歩いている。
自分と、実家で暮らす両親へのお土産だ。缶同士が小さくぶつかり、カタカタと音を立てる。
― ハワイに比べたら、東京はだいぶ涼しいなあ。
3時間前に日本に戻ってきたばかりの薫の腕は、こんがりと焼けている。ブラウンの長い髪が、春風に吹かれてなびいた。
「あー楽しかった」
あえて声に出して言ってみたが、薫は自分の声の薄っぺらさに笑えてしまう。
― いや…楽しい瞬間もあったけど、それ以上に疲れちゃったな…。
“いつメン”の同期女子6人での、ハワイ旅行。
年末恒例のクリスマス会で急遽決定し、勢いのままその場で予約した。そのときから、薫は正直気乗りしていなかった。
― 無理やり彼女たちに合わせて、海外旅行なんて行かなきゃよかったな。
薫が勤務する大手広告代理店には、入社当時、同期が100人近くいた。うち女子は40人ほど。
女子は、無意識レベルで「自分と見た目レベルの近い子」に近寄る習性がある。
薫は、昔から美人だと言われることが多かったし、華やかな雰囲気を醸し出していることは自覚してる
入社してすぐ、選りすぐりの同期美女が近づいてきて“いつメン”になった。
ミスコン優勝者、人気俳優の次女、キー局女子アナ選考面接落ち、人気インフルエンサー、元子役。
最初はよかったが、最近は彼女たちと一緒にいて違和感を感じるようになってきた。
― 馴染んでいるのは、見た目だけだよね、きっと。
出会って3年、抱え続けてきた違和感が、今回のハワイ旅行で露呈したように思える。
ハワイに到着してすぐのこと。
移動中の車内で、みんな押し黙ってスマホを見ているので、薫は驚いた。
― 仕事かな。
そう思ってなんとなく覗き込んだら、みんな一様にInstagramを見ているのだった。
開け放した窓からは、青い海と赤い太陽が見えている。
「ねえ、夕日きれいだよ」
薫が言うと、みんな顔を上げて一瞥し、次の瞬間スマホで撮影を始める。
「んー上手く撮れない」
「夕日ってきれいに撮れないよね」
そして、スマホに視線を戻してしまう。
― え、そんなにSNSが大事?目の前の景色を、どうして自分の目でじっくり見ないの。
…そんな説教くさいことをみんなに言うほど、薫は空気が読めないわけではない。
しかし、何でもかんでもSNSに上げたがる必死さに閉口してしまった。
それから、食事中。
ようやくスマホをしまって話がはずむと思えば、ここにいない人の品評会が始まる。
「先輩の誰々が結婚したけれどあの旦那は浮気しそう」だとか。
「あの子は美人な割に付き合っている相手がパッとしない」だとか。
― こういう話は毎度のことだけれど…。ハワイに来てまでこんな話になるのか。
初めて密に過ごした5日間は終始こんな調子で、SNSのために写真を撮るか、誰かの批評をするかに尽きた。だから薫はヘトヘトになってしまったのだ。
― 高くないお金を払って、疲労を買ったみたい。
重いスーツケースが、よりずっしりと感じられる。
― 気分転換に、皇居の桜でも見に行こうかな。
薫は、丸の内駅舎の方に向かった。
誘いを断って、みんなと距離を置けたらどんなに楽だろうと思う。
― でも、私にはそんなことできない。
薫は、孤独になることを恐れていた。
入社して数年は「同期会」なるものが定期的に開催され、飲んだり、騒いだり、大勢でざっくばらんに楽しんだ。
その同期会も4年目の今、頻度は大きく減って、年々疎遠になるばかり。
― 今や、気軽に連絡できるのは結局あの子たちだけだし。
同期とつながっていると、社内の人脈などで困ったときにすぐに頼れるなどの実利がある。簡単に手放すわけにもいかないのだ。
そのとき、目の前のカップルの会話に耳が向く。
なにやら険悪なムードだ。薫は、ガラガラと音を立てていたスーツケースを優しく引いて、気配を消した。
「…ねえ、晃汰。結婚について正直どう思ってる?」
「あのさ、こんなこと言ったら悪いかもしれないけれど。…僕と瑠衣、本当に合うのかな」
本音をぶつけ合う2人を見て、思う。
― 私もああやって、言えたらいいな。
合わないかも、という違和感を伝える。それは人生を守るために大事なことだ。
― 私、ちゃんと距離を置こう。
ふとLINEをチェックすると、例のグループの通知が5件。
「旅行楽しかったね!ところで合コンのお知らせです!」
ミスコン優勝者の子が、人脈を駆使してイケメン医師を集めるという。金曜、20時から、表参道。
速攻で「行きます」と返事をしているみんなをよそに、薫は「ごめん、その日は行けない」と返した。
メッセージを送った途端に、距離を置くって簡単なことだったのかも、と薫は感じた。
◆
金曜、仕事を終えた19時半。
帰って何を食べようかと考えながら、薫は会社のロビーを歩く。すると、グループの5人が揃って立っていた。
きらびやかな服に身を包んで、とても楽しそうだ。
― ああ。これから食事会に行くのか。
忘れていた。時間をずらして退社すればよかったと、薫はにわかに後悔する。
みんなも薫を見つけ、気まずそうに「あ」と言い、顔を見合わせて苦笑いした。
「あ…また誘うね!」
ぎこちないセリフに、薫も苦笑いをして去っていく。
妙な距離感。
― きっと、次の誘いも断ったら、やんわりとグループから外されていくんだろう。
女子の仲良しグループでは、3回も誘いを断り続ければ変な空気が生じる。
「あの子、実は私たちのこと嫌いなんじゃない?」という話になって、気をつかわれ、誘われなくなる。
― それでいいや。
友人を失うのは痛いことのはずだが、想像しても、薫の中に寂しさはない。
「ふう」
薫は地下鉄の駅に下りて、滑り込んできた電車に乗り込んだ。
― よし。
勢いで、LINEグループを抜けてみる。それから、あれこれ考えなくていいように、Instagramのアカウントも消してみた。
― みんな、放っといてくれればいいけど。
しかし10分後にさっそく、社内チャットで連絡がきた。
「LINE、乗っ取られた?」「Instagramも消えてるけど、大丈夫?」
薫は、苦々しい思いでメッセージを打つ。
「ごめん、ちょっと離れようと思って」
どう返したらいいか困っているのか、返事は一切こなかった。ただ、泣いている絵文字のリアクションだけが返ってくる。
― 大丈夫、これでいい。
地下鉄の黒い窓にうつる自分は、思った以上に晴れやかな顔をしていると薫は思う。
スマホから目をそらして見上げた広告には、箱根の温泉の写真が載っていた。
― いいなあ。ひとり旅にでも行くか。
薫は目を細める。
― 誰かに見せるためではない、自分のための旅行をしよう。
想像すると気持ちが軽くなる。
薫はルンルン気分で、予約サイトを開いた。
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