男と女は全く別の生き物だ。それゆえに、スレ違いは生まれるもの。

出会い、デート、交際、そして夫婦に至るまで…この世に男と女がいる限り、スレ違いはいつだって起こりうるのだ。

-あの時、彼(彼女)は何を思っていたの…?

誰にも聞けなかった謎を、紐解いていこう。

さて、今週の質問【Q】は?

▶前回:初デートは、三茶で焼き鳥。順調だったのに三宿のバーで会った後、女の態度が急変したワケ




「やっと終わった…」

小学校の入学式を終え、僕はよく晴れた青空を仰いだ。

長かった受験戦争を乗り越え、娘の葵は第一志望だった私学の小中高一貫の女子校へ無事合格した。葵は、小さな体でよく頑張ったと思う。

「葵、本当によく頑張ったよね」
「そうだね」

隣にいる妻の玲奈を見ると、彼女も感慨深そうな顔をしている。

しかし「この幸せの瞬間のために頑張ったんだな」なんて思っていると、友達と話に行った葵を見つめたまま、玲奈の声のトーンが急に下がった。

「ところで智さん」
「ん?」
「私、あなたと離婚したいの」
「…え??」

あまりにも突然の発言に、さっきまで晴れ渡っていたはずの僕の脳内は急に曇天となった。

「あなたは、何もわかってない」

そんなトドメの言葉を、僕は呆然としながら聞いていた。


Q1:結婚当初から妻が夫に対して思っていたことは?


妻の玲奈と出会ったのは、食事会だった。綺麗な顔立ちをしていた玲奈は目を引いたけれど、それ以上にその食事会では、とても静かだった。

逆に彼女のことをもっと知りたくなったので、僕からデートに誘った。何度かデートを重ね、交際に発展。週末には、外食したり、お互いの家を行き来したりする至って普通の恋人となった。

そして、交際2年目の夏に、子どもができたことが発覚。

「智さん…私、妊娠したかも」

そう玲奈から告げられた時のことを、今でもはっきり覚えている。

「えぇ、本当に!?」

突然のことだったので、それしか言えなかった。しかし、交際も2年目に入り、僕も35歳で玲奈はちょうど29歳。

結婚には、良いタイミングだと思った。だからそのまま籍をいれ、僕たちは家族になった。




そして葵も生まれ、何もかもが順調だった。それに、僕は自分で言うのもなんだけれど良い夫だったと思う。

子どもが生まれ忙しそうにしている玲奈のために、家事も手伝っていた。

「玲奈、何かすることある?」
「ごめん、夕飯の洗い物頼んでいい?」
「もちろん。というか、食洗機使っちゃおうか。他には?」
「そしたら…葵をお風呂入れてもらえる?」
「OK」

仕事で疲れて帰ってきても、文句も言わずに手伝っていたし、葵のお風呂は僕のほうがよく入れていたと思う。

それに、僕は結構綺麗好きなので、掃除は自発的にしていた。




「玲奈、この辺りの荷物、捨ててもいい?」
「それなんだっけ?」
「なんだろうこれ…化粧品とかじゃない?」

玲奈は出産前にはOLをしていたのだけれど、そこそこフォロワーがおり、いわゆるインフルエンサーでもあるらしい。

よってSNSで商品を投稿するPR案件も多く、(企業からプレゼントや商品を貰うこともあることを、結婚してから初めて知ったのだけれど)、家にはそういった商品や「投稿してください」と送られてくる物があった。

「それ、まだ投稿してないから置いておいてもらっていい?」
「わかった。こっちは?」

未開封の段ボール箱を見ながら、僕はテキパキと仕分けをしていく。

玲奈は葵の世話で忙しそうだったので、手が空いている僕が掃除をしたほうが早かったし、何より僕は家が汚いのが嫌だった。

「智さんってさ…本当に綺麗好きだよね」
「そう?普通だよ」
「適当でいいのに」
「玲奈の普通は汚いからな(笑)。それに玲奈は子育てで忙しいだろうし、せめて僕は掃除くらいするからさ」
「ありがとう」

玲奈に「掃除しろ」と言ったことはない。

夫婦間の喧嘩も少なく、葵は可愛らしく、すくすくと成長していってくれた。

しかし、どこの夫婦もそうかもしれないけれど、葵が受験をすることになり喧嘩が増えていく…。


Q2:受験をする際に夫婦喧嘩が増えた。それが原因?


葵が3歳になる頃。僕たちは葵の受験をどうするかを真剣に考えることにした。

「僕は、私立の一貫校に入れたいと思ってる」
「そうだよね…智さんのお母様も東洋英和だしね」

僕の家系は、父親も僕も弟も全員慶應出身。そして母も東洋英和出身の一家だ。

一方で、玲奈は埼玉の公立出身で、女子大卒。

考え方の違いもあるのは、結婚当初からわかっていた。だから僕は、小学校受験がマストだとは思っていなかったし、玲奈の負担にならないようにちゃんと伝えていたと思う。




「葵を小学校から私学に入れてあげたい気持ちは正直、すごくある。でも、もし玲奈が嫌なら、受験しなくてもいいよ」
「本当に?」
「うん。そこは玲奈に無理強いすることじゃないと思っているから」

たしかに僕の親はうるさいかもしれないが、僕は典型的な受験に熱心な親ではない。だから、玲奈や葵の気持ちを尊重したいと思っていた。

だが、最終的に玲奈が小学校受験をさせると決めたのだ。

「智さん。葵のために頑張ろう。夫婦一丸となって。私も頑張る」

こうして僕たちは小学校受験へ向けて動き始めた。もちろん、その過程で衝突もあった。




実際に受験が近づいてくるにつれ、玲奈はピリピリとし始めた。それは仕方のないことだと思うけれど、玲奈の苛立ちが葵に伝わるのが心配だった。

「玲奈、落ち着いて。母親が動揺してどうするの」
「わかってるけど…逆になんでそんな冷静なの?」
「受験、したくなくなったの?ここまで来たのに」
「そんなこと言ってないでしょ、一言も!」

こんな言い争いを何度しただろうか。それでも僕たちは同じ目標に向かって一緒に歩んでいる同士だ。

「葵、本当に受かるかな…」
「大丈夫だよ、僕たちの娘なんだし」
「塾もついていけるのかどうか心配で。せっかく入れた所だけど、他に何かできることがあるのかなと思って」
「そこは玲奈に任せるよ」

僕は平日仕事があるため、幼稚園や塾の送り迎えは玲奈の担当だった。そこで妻と娘で、僕の知らない話もたくさんしているだろう。

それに普段玲奈に任せている分、僕は受験のことに口を出さないようにしていた。

何もわかっていない僕がとやかく言わないほうがいいと思い、わきまえていたつもりだった。

「智さんって、意外に子どものことに口出さないよね」
「うん、そこは玲奈の領域かなと思って。出しゃばらないようにしてる」
「そうなんだ…」

こんなふうに、僕たちは大変な小学校受験を乗り越えた。

その結果、合格でき一息ついた時。心底、肩の荷が下りた気がして安堵した。

しかしその矢先、急に妻から「離婚したい」と言われた僕。

果たして、僕は何を見落としていたのだろうか…。

▶前回:初デートは、三茶で焼き鳥。順調だったのに三宿のバーで会った後、女の態度が急変したワケ

▶1話目はこちら:「あなたとだったらいいよ♡」と言っていたのに。彼女が男を拒んだ理由

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妻が離婚を決意した深い理由は