1973年に女子テニスの世界チャンピオンで29歳のビリー・ジーン・キングと、元男子チャンピオンで55歳のボビー・リッグスが真剣勝負に挑む。それは女子の優勝賞金が男子の1/8であることに抗議したビリー・ジーンの、男性優位主義社会への挑戦状だった――。実話を基にした映画『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』のヴァレリー・ファリス&ジョナサン・デイトン監督が来日。二人に、夫婦だからこそ感じる映画づくりの楽しさや、仕事でもプライベートでも“相棒”として深い絆を築くコツを聞きました。

ヴァレリー・ファリス(左)&ジョナサン・デイトン監督(右)。『リトル・ミス・サンシャイン』で長編映画監督としてデビュー、その他『ルビー・スパークス』も撮ったオシャれ〜な実力派。

『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』 (c)2018 Twentieth Century Fox

『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』
(配給:20世紀フォックス映画)
●監督:ヴァレリー・ファリス&ジョナサン・デイトン ●出演:エマ・ストーン、スティーブ・カレル、アンドレア・ライズブロー、ビル・プルマン、アラン・カミング ほか ●7月6日より全国公開

(あらすじ)
男女平等を訴える運動が盛り上がりを見せる1973年、全米女子テニスチャンピオンのビリー・ジーン・キング(エマ・ストーン)は全米テニス協会を脱退し、仲間と女子テニス協会を立ち上げる。私生活では優しい夫がいたものの、同性の美容師であるマリリンと恋に落ちるビリー。ある日、元世界チャンピオンのボビー・リッグス(スティーブ・カレル)から、驚くべき試合を持ち込まれる。それは賭け事で負債を抱え、妻(エリザベス・シュー)との関係が悪化したボビーの一発逆転を狙う作戦だった……。

男女平等がいまどのような状況なのか?

今回の『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』のオファーが来たときは、どう思いましたか?

ヴァレリー・ファリス(以下、ヴァレリー)「お話をもらった2015年はアメリカ大統領選挙戦に突入するころ。ヒラリー・クリントンが立候補することはすでにわかっていて、その対立候補はたぶん男だろうと。すると女vs男という図式になり、男女平等がいまどのような状況なのか?確認するのにちょうどいいタイミングだなと」

ジョナサン・デイトン(以下、ジョナサン)「と同時に、かなり多くの人が知らないビリー・ジーン・キングのセクシャリティー(性的志向)についても描けると思ったんです」

ビリー・ジーン・キングvsボビー・リッグスの試合を、リアルタイムで観ていましたか?

ヴァレリー「若いころ?観てないわ」

ジョナサン「ニュースでたくさん目にしたけどね。でもこの映画を撮るにあたって研究しまくりました」

女性と男性の視点を持つことが出来るという意味で、この題材はお2人にピッタリですよね。映画をつくりながら、そこは意識を?

ジョナサン「基本的に2人で話し合いながらつくるので、僕は自然と男の視点から意見を言いますよね。すると過去の人生経験が反映されるはずで、特に男性を代表して!と考えていたわけではありません。でも今回のストーリーは特に女性にとって共感する部分が大きいでしょうね。まあ僕たち夫婦の戦いも、だいたい彼女が勝つんだけど」

ヴァレリー「そうよ!だって私はいつだって正しいんだもの(笑)」

“ASMR”を研究して、誘惑シーンを演出

エマ・ストーンとスティーブ・カレルは、事前にどのような準備をしていましたか?

ヴァレリー「エマは撮影前、ビリー・ジーン本人に会ってたくさん話を聞いていました。それで29歳のビリーを演じるため、当時の映像をかなり研究したようです。スティーブもボビーの映像をたくさん観ていましたが、大事なのはモノマネをすることではなく、その精神を取り入れて役になりきることで」

ジョナサン「スティーブは遊び心のある楽しい人で演技も上手ですよね。彼はボビーの当時のトレーナー――彼の親友でもあって70代を迎えているんだけど――に3か月ほどついて学んでいました。一方のエマは努力家の完璧主義者で、規律を重んじる精神がビリー・ジーンに似ています」

ビリー・ジーンが同性のマリリンと出会い、惹かれていくシーンが印象的でしたが?

ジョナサン「すごく重要なシーンで撮影の仕方や音響にも気を配りました。ビリーが誘惑され、彼女が同性への恋に目ざめるのです」

ヴァレリー「あのシーンのために“ASMR(=Autonomous Sensory Meridian Responseの略) ”を研究しました。布がすれる音、雨の音、焚火の音など、脳がとろけるように気持ち良くなる現象を引き起こす引き金になるもので、そうした音を集めた動画が youtubeなどで話題になっていますよね。 ビリーの相手は美容師だったので、耳元に小声で囁いたり髪に触れたりすることでぞくぞくっとさせる。ビリーの中にあった同性への欲望が目覚める、その瞬間を描くためにそうした音の力を使ったわけです」

まるで時が止まったようで、世界に2人だけしかいないようでもあって、観ていて色気を感じました。

ジョナサン「その通り!あのとき部屋の音を全部消して、マリリンの声だけが響くようにしたんです」

ヴァレリー「私自身、お気に入りのシーンのひとつです。観客に、あのときビリーがなにを感じたかを体験してほしかったんです」

“ASMR”を意図的に使って、意中の男性を振り向かせることもできるのでしょうか?

ヴァレリー「そうした音への反応は人によって異なるので、必ずしもセクシャルな効果があるわけではありません。実際に私の娘は、眠れないときにそうした動画をよく聴いています。ストレスを解消して、リラックスさせてくれるから」

ジョナサン「男にとっては魅力を感じるんだよ」

ヴァレリー「女にとってもそうよ。子どものころにお母さんが髪をとかしてくれるとすご〜く落ち着く、そんな気持ちになるからね」

ビリー・ジーン(右)は美容師のマリリンと出会い、恋に落ちる。エマ・ストーンはテニス経験ゼロだったのに、体つきまでテニス選手として説得力があるからさすが。

この映画のメインテーマは男女間のギャップとセクシャリティー!?さらに、監督たちに日本の働く女性に向けて、会社につぶされないための闘い方のアドバイスが!〜その2〜に続きます。