全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。4つの県が独自のカラーを競う四国は、県ごとの喫茶文化にも個性を発揮。気鋭のロースターやバリスタが、各地で新たなコーヒーカルチャーを生み出している。そんな四国で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが推す店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

【写真】ドライオレンジとアーモンドを合わせたアフォガード。ビターなエスプレッソとオレンジの甘酸っぱい余韻が相まって、ぐっと華やかな味わいに

「NEEK COFFEE SUPPLY」


四国編の第46回は、高知県高知市の「NEEK COFFEE SUPPLY」。店主の西森達也さんは、気鋭の映画監督にして、自他とも認めるコーヒーフリーク。コーヒーへの探求心が高じて、夫婦でコーヒー店をオープンしたユニークな経歴の持ち主だ。生来の凝り性も手伝って、手回し焙煎によるコーヒーからスイーツまで、オリジナリティを追求したメニューで厚い支持を得ている。ただ、西森さんが店を構えたのは、衰退する地元の商店街を再生したいとの思いも大きな理由。二足の草鞋を履くクリエイターの発想が、街のコミュニティを再びつなぎ始めている。

店主の西森さん夫妻


Profile|西森達也 (にしもり・たつや)

1980(昭和55)年、高知県生まれ。アパレル関連の仕事を経て、デザイン会社を立ち上げ、グラフィックデザイナーとして活動。その後、デザイン・映像制作の傍ら、コーヒー好きが高じて独学で抽出・焙煎を追究し、2022年に「NEEK COFFEE SUPPLY」をオープン。2023年には初監督作品「山ノ上の農園で。」で注目を集め、映像作家とコーヒー店主、二足の草鞋を履いて活躍の場を広げている。

■気鋭の映画監督がコーヒー店を始めるまで

コンクリートの空間に古い木製家具が映える空間は、半年かけてほぼDIYで改装


「いろんなことをやってみたいというのが積み上がった結果としてできたのが、この店。本業はあるけど、モノ作りが好きで、コーヒーもその一つで、自分の衝動の一つとして、店を作ってみたいというのが根底にありました」。そう話す店主の西森さんの本業とは、映画監督。元々はデザインの仕事に就いて、PR映像などの動画撮影も手掛けるようになり、2023年に初の自主製作映画『山ノ上の農園で。』を発表。地元の映画祭で上映されたのを機に、注目を集める気鋭の監督だ。

ベリー系の芳醇な甘味が後を引く、コロンビア・シドラ・ナチュラル700円。発酵なしの生地でクリスピーな食感を生かしたドーナツ・プレーン250円


意外な二足の草鞋に思えるが、実は西森さんは自他とも認めるコーヒーフリーク。生来の多趣味で凝り性な気質も手伝って、コーヒーの深みにはまったのが、ことの発端だった。「知人が開いたコーヒー店を訪ねたのがきっかけで、浅煎りの風味がすごいと感じました。それまで焙煎度を意識してなかったんですが、それ以来、抽出や焙煎なども独学で始めて、5〜6年ほど家で毎日のように飲んでいました」と振り返る。その間、高知県内はもとより徳島、香川などにも足を伸ばして店を巡り、時にレクチャーを受けたり、業務用焙煎機も見せてもらったり。さらにイベントを訪れた際は、各店で1杯、参加店を網羅するように飲んでいたという。

もはやコーヒーは一日中、欠かせないものになり、やがて「うちがコーヒー店なら、毎日おいしいコーヒーが飲めるのでは」と想像を広げるまでに。そこから一念発起した西森さんの行動は早かった。店舗兼住宅を探し出し、知人の伝手を頼って、半年がかりでDIYで改装。その間、奥様は経験ゼロからドリップ、エスプレッソと抽出の練習をスタート。「1万杯以上は淹れたはず(笑)」と振り返る。あれよあれよという間に形になった、店の屋号は「NEEK」。その名の由来は、内向的に特定分野の深い知識を追究する人を指す“ナード”と、積極的に新しい技術の理解や実践に熱中する人を指す“ギーク”、2つのスラングの組み合わせ。すなわち、西森さん自身のキャラクターを表したものだ。

手回し焙煎機で焼く豆は少量多品種で幅広い銘柄を提案


■手回し焙煎で生み出す浅煎りのユニークな味わい

店の奥にはテーブル席もあり、ゆったりくつろげる


メニューには中深煎りから浅煎りまで焙煎度は幅広くラインナップ。なかでも、浅煎りのコーヒーの醍醐味を広く紹介したいとの思いから、手回し焙煎機で試行錯誤を繰り返してきた。「当初から、とにかく浅煎りをうまく焼くことに集中しました。手回しでは難しいというイメージですが、今では、タイミングさえつかめればできるという手応えがあります」。少量焙煎ゆえ、微調整がしやすいメリットを生かし、特色ある豆は多品種を入れ替えながら提案する。

カスタード・ドーナツ350円。イースト発酵の生地は、サクッと軽やかな食感と、じゅわっとしみ出すコクがクセになる


リミテッドと銘打った豆は、ブドウのような芳醇な甘味が広がるコロンビア・シドラ・ナチュラル、トロピカルフルーツの明るい酸味が鮮やかなエチオピア・アロ・アナエロビックなど、個性的な風味を出しながら、直火焙煎ならではの香味やまろやかさも併せ持つ。「単に浅く煎ればいいというものでもない。自分の好みとしてはアタックが弱いとコーヒー飲んだ感じがしないから、一般的な浅煎りよりは深いかもしれない。でも、それを“ニークの味がする”と言ってもらえるのが、一番うれしい誉め言葉。今まで積み重ねてきた店の魅力が浸透してきたと実感できます」と西森さん。メニューには常時17〜18種が並ぶが、「今後も焼いてみたい豆はまだまだ多い、焙煎の回数は増やしていきたい」と興味は尽きない。

西森さんの夢を形にしたカスタード・ドーナツは、割るとクリームがあふれんばかりに


コーヒースタンドだけに、コーヒーのお供は気軽なドーナツをメインに。なかでも人気なのが、カスタード・ドーナツだ。「前々から抱いていた、“カスタードクリームを飲んでみたい”、という欲望を形にしました(笑)」。その言葉通り、生地を割ると、クリームがあふれんばかりにぎっしりと。口いっぱいにあふれ出す、まろやかな甘味がクセになる。さらに、可憐なアフォガートや週末限定のパフェなど、盛り付けも華やかな一品で、多くのファンを虜にしている。

■子供連れも歓迎、街の暮らしと共にある場に

ドライオレンジとアーモンドを合わせたアフォガード。ビターなエスプレッソとオレンジの甘酸っぱい余韻が相まって、ぐっと華やかな味わいに


開店の動機は一見、衝動的に思えるが、実は開店の背景には、もう一つの理由がある。「本業の映画監督でも、地域おこしの思いが強い。商店街が年々衰退している意識はあって、若者を呼び込むというだけでなく、自分も地域に溶け込める新しい力になれないかと思った。小さなコミュニティの力を取り戻せるのではと」。西森さん自身は、元々高知市内での生活が長いが、店の立地は中心地をわざわざ外した場所。かつて高知の市街地は南北の各筋に商店街があり、店の界隈もその一つだったが、開店時には数店しか残ってなかった。ただ、「NEEK」ができたことが呼び水となり、界隈に移ってくる人も増え、近年は新しい店もでき始めたという。

「ここに居を構え、商売をするのが、地域のためになるのではと思っていたので、その先鞭はつけられたかなと思います。何よりも、ここは街の生活と共にある場所。昔の駄菓子屋のように、上に住んで、下で店番しているおばあちゃん、みたいな感覚でいます」と西森さん。実際、学校が近く、小学生以下は子供用のドリンク3種を無料で提供している。「自身が子育て世代なので、子供に理解のある店が助かるのを実感できるから、お子さん優先。できるだけ自分で注文してもらうように促している。意志を示す経験をしてほしい」と、地域のサポート、店の人とのコミュニケーションの機会も担っている。

「ここに店を構え、商売をすることで、地域の小さなコミュニティの力を取り戻せるのではと思っていました」と西森さん


ところで、店に立つ際は、2人は黒猫、白猫という呼び名を設定し、いまや街なかで声をかけられるほど定着してきてる。「店=舞台、演出的な視点で捕えているとこもあって、自分たちのアイデアをどう見せるか、どう提案するかは、映画製作にも通じる部分はあるかも」と西森さん。映画監督であり、週末はコーヒー店主として中の人になる。クリエイターとしてのアウトプットに必要な場所であり、街の暮らしにも欠かせない場になる。コーヒー好きの猫が発揮する好奇心と遊び心が、街のコミュニティを再びつなぎ始めている。

豆のパッケージには、西森さん夫妻がそれぞれ手掛けた猫のイラストが


■西森さんレコメンドのコーヒーショップは「Royal Niboshi coffee stand」。

次回、紹介するのは、高知県香美市の「Royal Niboshi coffee stand」。

「香美市の商店街にあって、お客としてよく訪ねていたお店で、高知県内のコーヒースタンドとしては先駆け的な存在です。香美市は移住の方が多いエリアですが、店主の島崎さんはいち早く地域に根付いた店作りをされています。また、界隈では数少ない本格的なエスプレッソが主役の店で、自分のコーヒーの方向性を見なおせる場所でもあります」(西森さん)

【NEEK COFFEE SUPPLYのコーヒーデータ】

●焙煎機/手回し焙煎機 (1キロ)

●抽出/ハンドドリップ(ハリオ・カリタ)、エスプレッソマシン(ロケット)

●焙煎度合い/浅〜深煎り

●テイクアウト/あり(500円〜)

●豆の販売/ブレンド1種、シングルオリジン17〜18種。100グラム1100円〜

取材・文/田中慶一

撮影/直江泰治

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