“作る苦労”と、こういうのでいいんだよという言葉がまとう“軽視感”との間に矛盾を感じ、それに不快感を抱いてしまう人がいてもおかしくはありませんよね。

◆こういうのでいいんだよ発言は、作り手さえも言うべきではない!?

 食事に対して“こういうのでいいんだよ”という発言は、作ってもらう側がしてしまうことで不穏なトラブルにつながることは想像がつくでしょう。

 しかし気をつけるべきは、それだけではありません。作る側がSNS上などで不特定多数に対して投稿する場合にも覚悟が必要です。さまざまな価値観のユーザーがいて当然の世界ですから、少しでも侮辱感や軽視感につながるニュアンスが潜んでいる場合、発言の影響力は計り知れず、「こういうのでいいんだよじゃないよ!」となる可能性があるのです。

 複雑な世界の中で、今回のような朝ごはんの投稿をする際の正解はなんなのでしょうか? 細かく考えていくと気をつけるべきポイントは山のようにありますし、万人が喜ぶような答はないかもしれません。

 避けたいのは、人や食べ物に対して軽視や侮辱につながるニュアンスや言葉。自虐、謙遜、卑下は誤解を生む可能性がありますから、よほどの配慮がない限り表現を慎重に検討したほうが良さそう。

 画像と言葉のバランスも重要です。どこまで気にするかの問題ではありますが、自分の家族に対して発信するニュアンスが、不特定多数にも同じ意図で伝わることはないという認識は有効でしょう。

◆じゃあどんな朝ごはんがいいの?

 安心する朝ごはん、喜ぶ朝ごはんはヒトや家庭によってさまざまで良いと思います。

 隣の家庭の正解が、自分にとって脅威になる可能性もあります。重要なのは、他家庭から学ぶことは良いけれど、無闇に比べないこと。あくまでも自分の家庭において作り手が無理をし過ぎることなく、食べる側にも喜びや感謝が生まれるほどよいバランスを、一度家庭の中で確認してみるのが良いと思います。

「玉子焼きは作るのが大変だから、卵かけごはんにしよう」や、「シリアルなら食べる人が各々で作れるしラクだよね!」という感じです。いずれにしてもどちらも心ある人間ですから、手抜きあり文句ありが健全。

 その中でお互いが、少しでも喜びやありがとうを発見していけたらよいのではないでしょうか。

<文・撮影/食文化研究家 スギアカツキ>

【スギアカツキ】
食文化研究家、長寿美容食研究家。東京大学農学部卒業後、同大学院医学系研究科に進学。基礎医学、栄養学、発酵学、微生物学などを学ぶ。現在、世界中の食文化を研究しながら、各メディアで活躍している。女子SPA!連載から生まれた海外向け電子書籍『Healthy Japanese Home Cooking』(英語版)好評発売中。著書『やせるパスタ31皿』(日本実業出版社)が発売中。Instagram:@sugiakatsuki/Twitter:@sugiakatsuki12