「細胞から考える」をコンセプトに掲げ、最先端の研究をベースにスキンケアアイテムやサプリメントなどを展開する「fracora(フラコラ)」。同ブランドが運営するYouTube番組「生命科学アカデミー」では、最先端の生命科学の知識を紹介しています。

高齢化が進むいま、「老化」は現代医学の大きな課題の一つであり、「老いなき体」を目指して世界中で様々な研究が進められています。

「生命科学アカデミー」では今回、愛媛大学大学院抗加齢医学(新田ゼラチン)講座の伊賀瀬道也(いがせ・みちや)教授をゲストに迎え、最新の老化研究や、実践したい対策法について直撃。第7回目は、日常生活に見られる「7つの老化のサイン」を紹介。聞き手は生命科学アカデミーのHIROCO学長です。

老化のサイン1:握力が低下する

--日常生活の中には、自分で気づける「7つの老化のサイン」があるそうですね。1つ目は「握力」。年齢とともに握力が低下していく理由と、その対策について教えてください。

伊賀瀬:男性の握力は、一般的に、20代から30代がピークで、50kg弱程度からだんだん下がっていく傾向が見られます。一方、女性の場合は男性よりもやや遅く、40歳頃がピークで、30kg程度から下がっていく傾向にあります。

加齢にともない、握力が下がっていくことは仕方がありませんが、最近の研究で、一般的なピークより早く握力が下がるというのは、実は寿命と非常に関連が深いことがわかってきました。

--握力は、どこを基準に下がったと判断すればいいのでしょうか。

伊賀瀬:大雑把ですが、男性の場合は大体30kg、女性の場合は20kgを切ってくると、握力が低下していると考えられます。一般的なピークより早めに握力が落ちたら、体が老化しているサインだと考えた方がいいですね。

世界中の十数万人を長期的に追いかける研究を見てみると、握力が数kgずつ落ちていくことによって、死亡率が高くなったり、心筋梗塞や脳卒中が増えたりすることがわかります。

--「握力を調べてください」と相談すれば、測っていただけますか。

伊賀瀬:いまは、デジタル握力計で簡単に測定できますからね。一度、測ってみるといいかもしれません。

--握力を落とさないための対策法はありますか?

伊賀瀬:握力に関しては、やはり手をしっかり使うことが大事です。私もこれまで、色々なことを試してみました。例えば、ボクササイズをすることによって、握力が強くなるかもしれないと思い、たくさんの方に試していただいたことも。ところが、見事に握力が上がらなくて……。これは失敗でしたね。

握力が明らかに上がると言われているのは、しっかり握る動作を繰り返すこと。ゴムボールを握ったり、新聞や雑誌をねじったり、雑巾を絞ったりするような動作は、握力を維持するのに非常に良いと言われています。

--テニスとかゴルフはどうですか?

伊賀瀬:いいと思います。グリップを握ってしっかりとボールを捉えるので、握力が自然と鍛えられるのではないでしょうか。

老化のサイン2:身長が急に縮む

--「身長が縮む」ことも老化のサインの一つだとか。身長が3〜4cm以上低くなったら、要注意ですか?

伊賀瀬:そうですね。3〜4cmドーンと縮んだときは、老化のサインと見ていいでしょう。身長というのは、普通は少しずつ縮むんですが、年を重ねると、3〜4cm以上ドンッと縮むことがある。そういう場合は、背骨や腰の骨が圧迫骨折して潰れている可能性があるので、一度検査した方がいいと言われていますね。

--痛みはあるのでしょうか?

伊賀瀬:痛みが出る場合が多いです。ただ、痛みが全く出ない方も結構いらっしゃるので、個人差があるようですね。身長が急に小さくなったと感じた方は、一度、検査してみるといいかなと思います。

--検査の際には、どの科にかかるべきですか?

伊賀瀬:整形外科のほか、内科でも、ある程度の対応はしてもらえると思いますよ。

老化のサイン3:エイジングサインが増える

--3つ目は「顔のシミ」ですね。エイジングサインが急に増えてきた場合、実は動脈硬化の危険性があるとか。 

伊賀瀬:シミの一番の要因は、やはり紫外線だと思います。ただ、その次の要因として、血管が元気かどうかが大事だと最近言われ始めていますね。シミが急に増えてきた場合、毛細血管が傷んでいる可能性も考えた方がいいのかなと思っています。

--第2回で、ゴースト血管について教えていただきましたが、毛細血管は全身の血管の99%を占めるそうですね。この毛細血管に血液が回らなくなってくると、アラートとしてシミが出てくるということでしょうか。

伊賀瀬:その可能性もあるということですね。

--「この年齢だから仕方ない」と思わず、一度、しっかりと検査をしてもいいかもしれませんね。

老化のサイン4:声が出にくくなる

--4つ目は「声の老化」。声帯や呼吸筋も、加齢によって衰えていくんですね。

伊賀瀬:会社で働かれているような年代の方は、自然と、声を出す機会が増えると思います。ところが、高齢になって家からあまり出なくなった方は、声を出す機会が少ないんですよね。そうすると、声帯や腹筋、背筋が衰えて、肺活量も下がってしまいます。そういうことが相まって、声が出にくくなるといった現象が起きてくるんですね。

--対策としては、1人カラオケがおすすめですか?

伊賀瀬:カラオケはいいですね。1人でも複数人でもいいので、声を出す習慣を持つとベストかなと思います。

--高齢の方は、1日誰とも話さずに終わることもありそうですね。

伊賀瀬:最近、外来の患者さんから、そのようなお話を聞くことが多いですね。高齢の方には、なるべく1日1回は外に出て、買い物をしたり誰かとしゃべったりしましょうとお伝えしています。いまは、介護保険によってデイサービスが使えるので、そういうものも活用して、なるべくたくさんの人としゃべっていただくのがいいと思います。

--そこでまたコミュニケーションが生まれると、心も元気になりますよね。

老化のサイン5:歯周病など歯の疾患

--5つ目は「歯を失う」。歯が老化する原因の筆頭は、歯周病でしょうか?

伊賀瀬:そうですね。多かれ少なかれ、皆さん年を重ねると、歯周病になると言われています。歯周病が進んでいくと、口内に歯周菌や細菌、ばい菌がどんどん増えていき、体中にそのばい菌が回っていくことにもつながります。

また、歯周病は、動脈硬化など血管の老化の原因にもなると言われているんです。8020運動とよく言われますが、80歳まで20本の歯を保つことは、健康に長く生きる上ですごく大事なんですね。

--歯科検診を定期的に受けようとよく言われますが、どのくらいの頻度で検診に行けば良いですか?

伊賀瀬:私もそこは専門外なので、はっきりとしたことは言えませんが……。最低でも、1年に1回は検診を受けられるといいのかなと思います。いま、国を挙げてそういう取り組みがされるようになってきたという話も聞いていますので、これからは「年に1回は歯科検診をしよう」というのがスタンダードになるのではないでしょうか。

老化のサイン6:難聴の進行

--6つ目は「耳の老化」です。久しぶりに実家に帰ると、両親の見ているテレビの音が大きくてびっくりすることがありますよね。これは難聴に近くなっていると考えられますか?

伊賀瀬:加齢性の難聴というのは、避けて通れないところがありまして。最近の研究では、難聴が認知症になる原因の8%を占めると言われています。その理由は、耳からの情報が入ってこなくなり、コミュニケーションがうまく取れなくなるから。とはいえ、難聴は、どちらかといえば改善可能な部類の加齢性疾患なので、補聴器をうまく使って対策していきたいですね。

--難聴を防ぐことはできるのでしょうか?

伊賀瀬:難聴になるかどうかは、どのくらい騒音を浴びたかによって決まるそうです。若いうちから気をつけておきたいのは、イヤホンとかヘッドホンなどの使いすぎですね。それ以外にも、私たちの研究では、動脈硬化に気をつけることが、難聴予防のために大事だということがわかっています。

--騒音というのは、例えばどういった種類の音を指しますか?

伊賀瀬:例えば、工事現場の音です。そこまで大きくなくても、私たちの耳は、生活の中で様々な雑音を拾っています。なので、たまには音のない静かな空間で過ごすことも大事かなと思いますね。

--騒音環境を意図的に切り離すことが大事なんですね。

老化のサイン7:ド忘れが多くなる

--老化のサイン7つ目は「ド忘れ」です。ド忘れと認知症の違いはあるのでしょうか?

伊賀瀬:患者さんから「テレビに出てくる俳優さんの名前がわからない。これは認知症ですか?」とよく聞かれるんですが、これは認知症ではなく、単なるド忘れです。水戸黄門を見ているのに、画面に映っているのが水戸黄門かどうかわからなくなると、それはちょっと怪しいですが……。

人の名前が出てこないというのは、基本的にはド忘れです。ただ、ド忘れしてしまったときは、放置しない方が良い。できるだけ、思い出す訓練をした方がいいと思っています。

家族や友だちと一緒にいるなら、ワイワイガヤガヤ話しながら名前を思い出すとか。ネットが使えるなら、キーワード検索をすれば情報が出てきますよね。最終的に答えまで行き着いて、「そうだった」という安心感を得ることが大事かなと思っています。

--検索してもいいんですね。

伊賀瀬:どうしても思い出せなければ、最後は検索でいいと思います。その前に、自分の頭の中で色々なキーワードを引っ張り出して、思い出す努力をすることが必要ですけどね。

--ありがとうございます。ここまで、7つの老化のサインについて、駆け足で伺ってきました。自分で気づける範囲のこともありますし、身内や周りの方にこういったサインが出てきたときは、少しずつ老化ケアを進めていくことが大事ですね。

伊賀瀬:そうですね。認知症の検査というと、嫌がる方も多いので、いまは軽度認知障害といって、正常よりやや下がった状態を捉えるような検査も増えてきています。ご両親の行動を見ていて、ちょっと心配かなと思ったときは「頭の健康チェックを受けてみる?」と勧めてみるといいかもしれません。

(完)

■この回を動画で見る