読書感想文をAIに頼る中学生の盲点。加速する「表現力の画一化」と受験の壁
家庭学習時に生成AIを使う子どもは約4割、中学生は5割以上--。これは令和7年度の東京都調査結果。SNSや動画が浸透し、読書感想文をAIに書かせる子もいる現在ですが、実はAI普及以前から子どもたちの「表現力の画一化」は進んでいるといいます。いまの子どもたちの「国語力」の実情について、長年多くの小中学生の答案や作文に触れ、その変化を最前線で見てきた大手塾の先生に聞きました。
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空気を読むのは上手。でも表現力は画一化
生成AIを使った文章作成が日常的に行われ、表現の自由に対して世間の厳しい指摘が飛び交う昨今。そんな今を生きる小中学生の国語力をどう感じるかを聞くと、両塾とも「はっきりと『国語力が落ちた』と言えないが、気になる部分はある」と話します。
「特に気になるのは、表現力が画一化してきている、ということです。中学生に文章を書かせると、模範的で整ってはいるものの、個性が控えめになっている印象を受けることが増えました。受験用の自己PR文を添削していても『高校でも勉強と部活を両方とも頑張りたいです』『何事も全力で取り組みたいです』といった、定型文のような文章をつくる子がとても多いのです。AIを使わず自力で書いているのにもかかわらず、です」(湘南ゼミナール・中河内先生)。
つまり、AIに頼る以前から、子どもたちの文章はすでに画一化の傾向にあったというのです。その理由として「今の子は『空気を読む』ことが上手だから」だと指摘します。
「たとえば、意見が違う相手に対しても、いかに傷つけずに伝えるかを非常に気遣いますし、差別発言やコンプライアンス的にNGな表現にもとても敏感です。ただ、そうした他者への優しさが、結果として『枠からはみ出した表現は避けよう』という無意識のストッパーになっているようにも見えます。実際、『もっと自分の体験や内面の思いを、そのまま書いていいんだよ』と声をかけると、豊かな発想がいろいろと出てくるのです。掘り下げればあふれる思いを持っているのに、普段はあえて『正解』や『無難な表現』を選択してしまう傾向があるようです」(湘南ゼミナール・中河内先生)。
「目で文字を追うだけで頭に入っていない子も」
読解力についても、気になる傾向が。たとえば、文章を読ませたあとに本を閉じて書いてあった内容を説明するようにうながしても、説明できない子が増えたというのです。これは、目で文字を追っていても「意味を持った言葉」として頭に入っていないということ。特に、風景描写のように文字を頭の中で映像化する力が弱い子が目立つといいます。
「いちばんの原因は、動画が日常に深く浸透したためでしょう。動画は視覚情報として脳にすぐ入りますが、文章を理解するには、まず文字情報を取り込み、さらに情景を脳内に描く2つの作業が必要です。ショート動画など次々と脳を刺激するコンテンツに慣れた結果、文字の映像化を負担に感じる子が増えたように感じます」(湘南ゼミナール・中河内先生)。
また、読解力を問う選択問題で戸惑う子も多いそう。「『AではなくB』と『AだけでなくB』の違いがわからない。音読させると気づくのですが、テストは黙読なので読み飛ばしがちです。今はSNSで短文慣れした時代といわれますが、実際は短文さえ正確に読めていなかったりします」(湘南ゼミナール・中河内先生)。
説明力もダウン「主語がなく思いつきで話す」
他教科を担当する先生からも、子どもと会話中に違和感を覚えるという声が。たとえば、子どもたちから質問を受ける際に、主語や前提がいっさいなく、その場で思いついた単語だけをポンポン言ってくるので、何が聞きたいのか理解できないことがあるといいます。この現象について、国語科の先生たちは、大人との関わりの少なさやデジタル化などの社会的要因も大きいとみています。
「普段話すのが親と友達ばかりだと、身内だけで通じる話し方や略語ばかり使いがち。できるだけ異世代の人と話すことが、TPOに合った話し方や語彙を身につける近道です」(栄光ゼミナール・松田先生)。
「親世代には、たとえば電話口で自分の名前の漢字の書き方を伝えるなど、言葉だけで説明する機会があったはずですが、今はメールや画面の入力で完結するやりとりが多い。『ていねいに説明しないと相手に伝わらない』という体験をしにくいのだと思います」(湘南ゼミナール・中河内先生)。
AIに読書感想文を書かせるのは「論外」
東京都の令和7年度の調査では、家庭学習時に生成AIを使ったことがある子どもは38%、中学生に絞ると51%となり、どちらも前年度比で2倍以上増加しました。AIは子どもたちにも急速に浸透し、学習での使用にも抵抗感が少ないようです。しかし、栄光ゼミナールの松田先生は「安易に使うものではない」と警鐘を鳴らします。
「たしかにAIは便利ですが、夏休みの読書感想文をAIに作らせたとしても、その意味が薄れてしまいます。AIの文章をコピペのように写し書きしても、自分の考えを筋道立てて説明するといった思考がほとんど働きません。AIを学習に使う際に大切なのは『自分のフィルターを通すこと』。作文でいえば、自分のなかからうまい表現が出てこないときだけAIに聞き、吟味したうえで使うのがいいのでは。そのまま使ったとしても、自分の力にはなりません」(栄光ゼミナール・松田先生)。
国語が苦手なら「暗記もの」を固めて
では、国語力を上げるには何から始めればよいのでしょう。両塾とも「覚えれば確実に点が取れる問題を極めること」だと言います。
「国語の問題は、語彙、文法、古典、長文読解の4つでできています。このうち、最初の3つは暗記である程度点数が取れます。語彙なら漢字やことわざ、熟語。文法なら教科書や便覧の文法事項。古典は古文と漢文の読み方のルールですね」(栄光ゼミナール・松田先生)。
「漢字は眺めるだけでは覚えられません。字形、読み、意味、送りがなや例文などが結びついて、初めて脳に定着します。書く練習だけでなく、どういう場面で使うのかまで調べてほしいですね」(湘南ゼミナール・中河内先生)。
もうひとつ両塾がすすめるのは「文章をきちんと読むこと」。栄光ゼミナールの松田先生は「国語嫌いな子ほど、早く読みたがる」と指摘します。「早読みは読み飛ばしが多く、設問を読んでから問題文を再読することになり効率が悪い。まずはゆっくりでいいので、普段から1回の読みでしっかり文意を読み取る訓練をしてください。読みながら『この文は何を言いたいのか』を考えて『次はどういう展開になりそうか』を予想する。これだけでもだいぶ変わるはずです」。
湘南ゼミナールの中河内先生が特に重視するのは「音読」です。「言語の基本は発声。人間は文字よりも先に『音』で言葉を理解してきました。子どもたちは年齢が上がるにつれ、文章は黙って読むものと思いがちですが、意味をきちんと理解するには音が大きな助けになります。家ではぜひ、声に出して文章を読んでください。次に、言葉を頭で映像にしてみて、抽象的な言葉なら『具体的にはこういうことかな』と想像する。この積み重ねが大切です」。
国語力が伸びれば、他教科も伸びていく
最近の入試全体において、国語力が与える影響は特に大きいとの指摘も。全教科共通の傾向として「長文化・複雑化」しているので、国語力が低いと他科目の点数にも大きく影響するというのです。
「なかでも、『読解力』は全教科において必須です。正しい読み取りができないと、他教科でも失点の大きな原因になってしまいます」(栄光ゼミナール・松田先生)。
たとえば、数学の問題文で条件を読み飛ばす、理科や社会科でグラフや表の読み取りを間違う、英語で「正答と間違い」どちらを選ぶかを間違う…こういったミスは、国語力を上げることで防げるものだといいます。
「受験という観点では、国語力がその子の『天井』、つまり点数を取れる上限を決めていると思います。ですから、母国語である国語よりも他教科の成績が伸び続けるとしたら、本質的には不自然な状態。国語を伸ばせばその子の伸びしろが広がり、他教科も含め全体の成績が上がるはずです」(湘南ゼミナール・中河内先生)。
「読んで、理解して、自分の言葉にする」。地味だけれど欠かせない力を育てることが、子どもの学力を伸ばすいちばんの近道と言えるのかもしれません。
今回お話を伺った方
湘南ゼミナール 教材開発部 国語科責任者・中河内孝先生。
栄光ゼミナール 高校入試責任者・松田裕太郎先生。
取材・文:前島環夏 参考:東京都教育委員会「令和7年度 児童・生徒のインターネット利用状況調査」

