写真提供:NHK
お笑い芸人は芝居がうまい。その説が最近、急速に広まっている。きっかけのひとつは大河ドラマ『光る君へ』(NHK日曜総合20時ほか放送)だ。

ロバート秋山、はんにゃ.金田、矢部太郎の3人がよくあるピンポイント出演ではなく、主要な役で起用されて注目された。

◆『光る君へ』でのロバート秋山・はんにゃ.金田・矢部太郎

紫式部が大作家になる前のお話『光る君へ』で秋山が演じているのは平安時代の貴族の歴史資料としても重要な『小右記』を書き残した藤原実資。高い知性を持ち、いまの政治に不満を抱く良識派の役をくすっと笑えるキャラに仕上げている。

はんにゃ.金田は、見目麗しく家柄もいい貴族のひとり藤原斉信を演じている。イケメンの誉も高い町田啓太(藤原公任役)と並んでも遜色(そんしょく)なく、ハマり過ぎて、「はんにゃ.金田だったの?」とあとで気づくくらいの貴族っぷりだ。

ファーストサマーウイカ演じる清少納言との恋の駆け引きはややコントみたいだったがそれもまたいとおかし。

矢部は紫式部ことまひろ(吉高由里子)の従者・乙丸役で、貴族ではない庶民役。華奢(きゃしゃ)で小柄で、強面の人にすぐ暴力でのされてしまうような頼りなさだが、忠実な人物を丁寧に演じている。

◆カラテカ矢部のお笑い芸人としての歴史を感じた

光る君へ』がはじまったとき、秋山と金田の貴族っぷりが話題にされていたが、ここのところ、乙丸の株が上がっている。彼の場合、『大家さんと僕』という大ベストセラーを持つ漫画家というイメージが強いが、直近の第17回では、カラテカ矢部のお笑い芸人としての歴史を感じた。

「殿様も仰(おお)せにならないことを私がお伝えするのはいけないことかもしれませぬが……」と逡巡(しゅんじゅん)しながらも、ダッとまひろの前に走り込みひざまづいたときのメリハリや、その前にまひろに声をかけられ「とんでもないことでございます」と主人と目を合わせられない謙虚さと、でもまひろの病が全快した喜びを全身で伝える動作などが最たるもの。疫病で死んだ人を見つめる表情には情感が溢れていた。

基本、猫背気味で伏し目がちで、なにごともおぼつかなさそうだが、必要な型は的確に再現するし、動作と動作に変わるキレがよく、ふとした瞬間に鋭さが垣間見える。

◆お笑い芸人が芝居が巧いと言われる理由

お笑い芸人がなぜ芝居が巧いと言われるのか。それは言葉と身体表現を駆使して、情報を明確に伝えることに長けているからだ。

芸人たちは自身の発想したおもしろいことを観客に正確に、明瞭に、絶妙の間合いで伝える。それで多くの人たちが笑うのだ。冴えた発想は凡人には真似できないが、“伝える技術”や“プレゼン”などのノウハウは彼らに学べるところがきっとある。

明確さで言うと、実はむしろ俳優のほうが、漠然(ばくぜん)とした感情にリアリティを求めたり、人の数だけ感じ方が違うことを目指すあまり、表現をわかりにくくしてしまったりする場合もある。その点、お笑いの場合、ゴールはただひとつ笑いなので、明快なのだ。

◆芸人から俳優に転身した安井順平が語った、芝居の作り方の違い

お笑い芸人から俳優に転身し、いまや名バイプレイヤーとして欠かせない安井順平に取材したとき、こんな話を聞いた。

お笑い芸人と役者の芝居の作り方の違いを、医者を演じるときを例にして、役者はまず医者とはどういう仕事か、あらかじめ文献を調べたり、あるいはその現場を見て学習したり、所作を何度も練習し、いかに自然にできるようになるかというような練習も行うものだが、芸人だった安井は、「『その人に見えちゃえばいい』という考え方なんですよね」と言った。