健康常識アップデート2023年版 運動編 ウォーキングの運動効率がもっとも高い時間帯は？【専門医に聞く】
「その健康常識、間違っているかも」とメディアでよく耳にしますが、医学は日進月歩、古い情報やイメージが混在しているかもしれません。そこで、近ごろアップデートされた健康情報について、連載で紹介しています。
第1回「『イライラはカルシウム不足』は本当？」、第2回「甘いものを食べると疲れがとれる？」に続き、今回は運動についてのエビデンスに基づいた情報について、糖尿病専門医・臨床内科専門医で『糖尿病は「腹やせ」で治せ！』などの著書がある福田正博医師に尋ねます。
福田正博医師
Q1：「有酸素運動は20分以上続けないと体脂肪が燃焼されない」は本当？
A1： 間違いです。ウォーキングやジョギング、水泳、自転車などの有酸素運動を開始してから約20分後までは、主に糖質をエネルギーとして使います。次に20分を過ぎたあたりからは糖質よりも脂肪を燃焼する割合が増えます。
いずれにしろ、糖質も脂肪も燃焼したほうが血糖値（血液中のブドウ糖の濃度）の安定にとってよいので、数分でも運動することには意味があります。
つまり、例え3分や5分の運動でも、糖質や脂肪を燃焼しています。そのため、「20分も運動を続けられないので、しても無駄だ」「10分歩くのが精いっぱいだから運動にならない」などというのは思い違いです。
「1日に5分✕4回の細切れウォーキング」でも運動効果があるということを覚えておき、無理なく継続していきましょう。
Q2：「ウォーキングやジョギングは、朝食前の空腹時にするとダイエット効果が高い」は本当？
A2: 間違いです。起床後すぐの空腹の状態で、水だけを飲んでウォーキングやジョギング、ランニングをすると脂肪が燃焼しやすいという説があるようです。
しかし、アスリートが健康管理のもとで一時的に必要な減量をするならともかく、一般の人が空腹時に有酸素運動を続けると、そもそもエネルギー代謝に必要な糖質や脂質が不足しているので、燃焼ができずに代謝アップは望めません。
さらに、体が目覚めていない朝に強い運動をすると心臓への負担が強く、とくに高血圧、糖尿病、脂質異常症、肥満などの基礎疾患がある人は注意が必要で、狭心症や心筋梗塞（こうそく）、脳卒中を引き起こす可能性もあります。早朝ゴルフや早朝マラソンで倒れるケースは、これが理由であることが多いのです。
有酸素運動による脂肪燃焼の効率がよい時間帯やタイミングは、血糖値が1日の間でもっとも上昇する朝食後の30分〜2時間の間です。
血糖値が上昇すると、すい臓から分泌されるインスリンというホルモンが内臓や筋肉の細胞に血糖を取り込むように働きます。これが「代謝」です。
血糖値はその後、食事ごとに上昇と下降をくり返しますが、1日の最初の食事である朝食後に低く抑えられた場合は、その後の昼食前後、夕食前後とも低くなります。この動きから、朝食後の30分〜2時間の間にウォーキングをして血糖値を抑えておくことが、1日中の代謝効率にとって有用になることが医学的にわかっています。
また、エネルギーの代謝には、自律神経の働きも関係します。運動時には交感神経が優位に働いて代謝を促進しますが、1日のうちでもっとも交感神経が活発になるのは朝食後です。つまり、血糖値や自律神経の観点から、朝食後の30分〜2時間以内に有酸素運動をすることがもっとも代謝効率が良いといえるのです。
ちょうど朝の通勤時間にあたるので、朝食をおいしくとった後、ひと駅分を多めに歩くとよいでしょう。
Q3：「腹やせしたければ、腹筋運動をくり返そう」は本当？
A3： 間違いです。仰向きに寝て上半身を持ち上げる腹筋運動は、腰に大きな負担がかかること、苦しいわりに腹筋が鍛えられないことがわかっています。安全性への疑問と、運動効率が悪いということです。
昔は「腹筋50回。さらにもう10回！」などと、学校の授業や運動部でくり返されていました。とくにいまの中年世代以降は、学生時代のその記憶からか、「毎日腹筋運動をしている」という人は多いようですが、勧められません。
そこで、糖尿病の運動療法のひとつの腹やせ運動には、腹筋ではなく「スクワット」を勧めています。スクワットは、1回の動作で使う筋肉が、おなか、背中、おしり、ふとももと広い範囲に及び、運動効率が高くなります。しかも、ポジション次第で運動強度を高くも低くも調整ができること、アレンジができて飽きないなど、メリットが多くあります。
とくに、運動嫌いだけれどお腹やせをしたいという人や、高血圧や糖尿病、肥満などの患者さんに実践してもらっているのは、「かるくてゆるいスクワット＝かるゆるスクワット」です。
「椅子の背もたれや壁に両方の手か片方の手を添えて、足を腰幅か肩幅ぐらいに広げて立つ→ひざを曲げながらゆっくりと腰を降ろす（ひざは、つま先と同じ方向になるように）」だけです。これをゆっくりと、自分のペースでくり返します。ゆるい動きでも、おなかやふとももに効いていることに気づくでしょう。
スクワットなどの筋トレも、A2で回答した「朝食後30分〜２時間の間」に実践することがもっとも運動効果が高いといえます。ただし、多忙なときに無理をして運動するよりは、マイペースで毎日少しずつ楽しく実践することが、ストレスなく継続できるコツといえるでしょう。
聞き手によるまとめ
1回につき、たとえ5分のウォーキングでも糖質と脂肪の燃焼効果があること、1日のうちでもっともウォーキングなどの運動効率が高いのは朝食後の30分〜2時間まで、腹やせには腹筋運動よりスクワットのほうが有用だということです。どれもマイペースで楽しく継続するためのモチベーションとなる情報でした。さっそく実践していきます。
（構成・文 阪河朝美 ／ ユンブル）
