ムロツヨシ「辛い顔をしても辛さは減らない」 理不尽に耐える父親を熱演

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妻が他界してから男手ひとつで育ててきた娘が、じつは自分の実の娘ではなかったことが発覚したとしたら。しかもその娘が白血病に侵され、血縁者を探すことが娘を助けるための一番の近道だとしたら。映画『マイ・ダディ』で、そんな辛い運命を背負うことになった父親・一男を演じたのがムロツヨシさん。

名バイプレイヤーの初主演映画は、親子愛を描く感動作。

「これまで僕は、どの作品でも『役作りはしてません』と言ってきましたが、とはいえ多少はしてきてたんですね(笑)。でも今回は、演じるということに関して、いままでの経験や記憶、過去のデータといったものに一切頼らずに臨ませていただきました。僕は父親になったことがないですが、この親子愛が軸にある作品で“父親のフリ”はいらなくて、物語世界の中に、僕という人間から生まれてくるもので父親として生きていなければと思ったんです」

それはムロさんにとって新しい取り組みで、それだけ強い想いで臨んだ役だったということ。しかも今作においては、作品自体にも俳優として以上の関わり方をしているそうだ。

「プロデューサーや監督が、折に触れて僕に聞いてくださったこともあり、台本作りの段階で結構意見を言わせていただきました。一度、当初のプロットから大幅に話が変更しそうになったことがありましたが、その時には、主演をお引き受けした立場からは受け入れ難いとお伝えしたりも。この物語はもちろん“作りもの”ではあるけれど、その変更で“より作られたいい話”になっていたんです。それまでまるで本物のように見えた景色が急に作りものになった気がしてしまったんですよね。あともうひとつ、娘役がオーディションだと伺っていたので、そこに立ち会わせていただき僕なりの意見を言わせていただきました」

結果的に、ムロさんも推した新人の中田乃愛さんが決定した。

「技術的なことを言ったら、彼女が一番不器用だったかもしれない。でも、どうしたらこの物語の中で生きられるだろうと必死になっている姿が良かったんですよね」

牧師である一男は、自身に降りかかった理不尽にも、じっと堪え笑顔で呑み込もうとする男。しかし、だからこそ哀しく切なく、胸に迫る。その一男の姿に、ムロさん自身が重なる。幼い頃から理不尽な環境に身を置きながらも明るく、サービス精神旺盛で周囲を笑わせてきた人だ。

「呑み込んできたものは、たくさんあったと思います。人によっては、表面的だと言うかもしれないけれど、みんなにわかるように辛い顔をしても辛さは減らないんですよ。きっと一男も同じことを考えた気がします。あと僕の場合は、辛い顔の自分と仕事をしたいとか一緒にいたいと思う人なんてそういないと、20代で知ってしまったのもあると思います。そういう意味では自分とリンクする部分が多い役なのかもしれない。これまで役者として培ったものを捨てて臨んだのは、そういう部分もあったからなのかもしれませんね」

『マイ・ダディ』 「TSUTAYA CREATORS’ PROGRAM FILM 2016」で準グランプリを受賞した作品の映画化。監督/金井純一 脚本/及川真実、金井純一 9月23日より全国ロードショー。©2021「マイ・ダディ」製作委員会

ムロツヨシ 1976年1月23 日生まれ、神奈川県出身。硬軟自在な俳優として活躍しており、今作が映画初主演。近作にドラマ『ハコヅメ〜たたかう!交番女子〜』など。

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※『anan』2021年9月22日号より。写真・小笠原真紀 スタイリスト・森川雅代(FACTORY1994) ヘア&メイク・池田真希 インタビュー、文・望月リサ

(by anan編集部)