【インタビュー】尾野真千子「過酷な状況も全部ひっくるめて楽しんでいました」

世界的大ベストセラー夢枕獏原作の「神々の山嶺」が映画化。山岳カメラマン深町を岡田准一さんが演じ、彼が追う孤高のクライマー羽生を阿部寛さんが熱演。男達の山に懸ける熱い思いの中、羽生に人生を翻弄されながらも愛し続ける涼子を尾野真千子さんが熱演。実際にエベレストまで行き、標高5,200メートルの場所で役とひとつになった尾野さんに、現地での撮影のことをたっぷりとお聞きしました。


『過酷な状況も全部ひっくるめて楽しんでいました』


――本作の出演を決め「これからエベレストに登るんだ」ということに躊躇はありませんでしたか?

尾野:今回のお話を頂いた時に「ひとつお伝えしておくことがありまして…エベレストに登っていただきます。それ前提のお話です。」と言われたんです。もうそれ聞いた瞬間に「やりたい!」と即決しました。自分も山育ちなので通ずるものが何かあるんじゃないか、自分が生きてきた中で表現できるものがあるんじゃないか、となんか運命を感じたんです。出演を決めた後に台本を読んだんですけど、本当に素晴らしい内容でした。

――エベレストに対して不安とか恐怖といったものはなかったのでしょうか?

尾野:あまりなかったんですよね。酸素が薄いだろうなとは想像していましたけれど。ただ、少し怖いなと思ったのが高山病でした。エベレストに登るのはいいけれど、もし高山病になった時に涼子という役は私しかいないし、代わりがいない。「私がもし高山病になってしまったらどうなるんだろう」という心配はありました。なのでこれはちゃんとトレーニングしていかなきゃいけないなと思いましたね。

――どのようなトレーニングをされたのですか。

尾野:低酸素運動を重点的にやりました。部屋の中で酸素を半分に減らしていきながらその中で運動をしたり、仮眠をとって、その間にどれくらいの酸素濃度があるか、どういう状態になるかというのを自覚していく作業をしました。

――アスリート的な感じがしますね。

尾野:そうですね(笑)。でもそうやっていることがすごく気持ちいいんですよね。トレーニングしている自分を「今私頑張ってる!」って思えるのがいい(笑)。「目標に向かって頑張ってるんや!」っていう気持ち良さがありました。

――実際に行ってみてからはいかがでしたか?

尾野:過酷でした。10日間くらいかけて登るわけで。その10日間の中でも1日に1キロも登らないこともあったし、登ったかと思うと下るとか。「こんだけ登ったのにまた下るの!?」と思ったこともありましたね(笑)。

――過酷な状況の中、せっかくここまで来たのに…。

尾野:もどかしい、歯がゆいと感じたことも正直ありましたけど、それは体調のためで、高山病にならないようにスケジュールを組んでくれているんです。酸素が半分くらいになってくると3歩歩いただけでゼーゼーしてくるので過酷は過酷でしたけど、でもやっぱり私は楽しかったという気持ちが大きかったですね。

――プレスを見たら監督が、「尾野さんが一番タフで元気だった」と書いてありました(笑)。

尾野:確かに元気でした(笑)。ご飯もおいしく頂きましたし、お風呂に入れなくて嫌だなとか、トイレがなくて嫌だなとか、そういう苦はなかったですね。それも全部ひっくるめて楽しんでいたというか。

――尾野さんはそういう過酷な状況も楽しめるタイプなんですね。

尾野:そうですね。過酷であるほど楽しめてくるんですよね。それが良いのか悪いのかわからないですけど(笑)。なんか過酷であればあるほど頑張ってる感ってスゴイじゃないですか。そういうのってすごいアガってくるんですよ(笑)。「私は今頑張ってるんや!」って思うと、「あぁ、なんかいい物ができるんじゃないかな」ってすごいアガるんです。


『“挑戦”という第一歩を踏み出すことが、自分を変えていくんだなって』


――そんな尾野さんと、演じられた涼子というキャラクター、芯が強い所などは共通するなと思ったのですが、尾野さんご自身はどんなキャラクターと捉えて演じていましたか。

尾野:とにかく「待つ女性」だと心に決めて挑みました。人生の中でいろんなことを待った女性。身内が亡くなる時もきっと待ったでしょうし、(風間俊介さん演じる)兄が帰ってこない時もずっと待っていた。すべてを待っている心強い女性だと思って演じていました。

――エベレストに命を懸ける(阿部寛さん演じる)羽生にも、(岡田准一さん演じる)深町にも登ることを止めようとすることもなく、見守る役ですよね。

尾野:私だったら止めると思うんですけどね(笑)。でも、エベレストを生で見た時には、確かに「行きたい」っていう気持ちもわかるし、何かを感じたいって思う気持ちもわかったんですよ。だから、涼子は“山を知らない女性ではない”んだなって。山を知っているからこそ待てるし、本心は嫌だとは思うけど「いってらっしゃい」と言える女性なのかなと思いました。

――演じる上で涼子に共感する部分はありましたか?

尾野:山に怒るシーンがあるんですけど、あそこはとても共感できました。「なんで大切な人達を奪っていくんや」って。あんだけ素晴らしい景色を見せておきながら、どうしてっていう気持ちは本当に共感できました。

――では逆に、ここはちょっと私は涼子にはなれないという部分はありましたか?

尾野:共感できないのは…尾野真千子だったら、岡田(准一)さんが登るって言ったら「いや、やめといた方がいい」「それはやめといた方がいい」ってなりますね(笑)。でもさっきも言った通り、本当にあの景色を見ると「確かに上まで行きたいよな」ってなるんですよね。私は5,200メートルまでしか行ってないので、やっぱり8,000メートルまで行ってみたかったなっていうモヤモヤしたものはまだ残っています。

――5,200メートルまで登って、ご自身の中で変わった部分はありましたか?

尾野:「挑戦」ですね。エベレストに行くということ自体を、オファーが来る前の私だったら「無理だ」と思ってたと思うんですけど、それがこうやって叶って、行けて、そして楽しめている。そういう第一歩を踏み出すことがどんどん自分を変えていくんだなって思いました。見ただけでは決めつけない、とか、ちゃんと触れて、自分で決めていかなきゃいけないなっていう気持ちを改めて思いましたね。


『岡田さんが音楽をかけてくれて皆で歌ったりしながら登っていました』


――共演された岡田准一さんや阿部寛さんの印象はいかがでしたか?

尾野:岡田さんは部屋に戻ってから無理のない程度のトレーニングをされていたみたいで「エベレストは(酸素も薄いし)過酷だからトレーニングしない」とかではなく、ずっと継続して自分に合ったペースでやられていると聞いた時には、「すごいな」って思いましたね。私だったらやらない。「死ぬの嫌やし」(笑)。
言われたからやめるんじゃなくて、自分にちゃんと問いかけてからどうするかを決めようということを岡田さんを見て思いましたね。

――阿部寛さんはどんな方でしたか?

尾野:阿部(寛)さんはめっちゃ楽しかったです。面白かったです。寡黙そうだし、どんな方なんだろうと思っていましたけど、撮影以外の時は本当にユニークな方。「鼻うがい」を丁寧に教えてくれました(笑)。エベレストに登っている時もたまに面白いことをバーッって言ったりしてくれて。だから3人で本当に楽しく登っていました。岡田さんがたまに音楽をかけてくれたり、歌ったり、みんなでそういうことをして登っていました。

――エベレストという偉大なる山があるからこそ、チームとしての一体感が生まれたという感じはありますか。

尾野:やっぱり生死が関わっていますからね。どの作品でも生死は関わっているんでしょうけど、今回は真隣といいますか、酸素が半分だし、ちょっとしたことで何が起こるかわからなかったのでみんなで助け合いながら、声掛け合いながらやっていました。血中酸素とか毎朝計って体調はどうやとかみんなで確かめ合いながらやっていたので、そういうところっていいなって思いましたね。

――必死で登ってるというよりは、自然に楽しんで登っている。だからこそ尾野さんにいろんな役を任せてみたくなるのもしれないですね。

尾野:私もよくわからないんですけどね。来たお仕事、やりたいと思った仕事は楽しんでやれればいいなとは思いますよね。嫌なこともありますけど、でもそれがいつか…終わった後でもいいから「楽しかったね」って言えるようにはしたいなとは思っています。


尾野真千子が見る、“お芝居の向こう側”とは…


――尾野さんは以前、「山ではお芝居の向こう側が見えた」とおっしゃっていましたが、向こう側には何がありましたか。

尾野:難しいこと聞くねぇ(笑)。お芝居の向こう側って誰にもわからないんですよ。見えたっていうのは結局、確かなものが見えたのではなくて、なんかこう漠然としたもの。超える瞬間の気持ちよさってわかりますかね(笑)。お芝居と自然体が混ざった時の…「あ、これは自分なのか、涼子なのか…?」っていう「めっちゃ気持ちいい」って時があるんです(笑)。

――今回はどのシーンでぐっと涼子に近づいたんでしょう?

尾野:山に叫ぶシーンとかはそうですね。演じる前は正直山に叫ぶということ自体が、ちょっとクサイというか、「こんなこと言えないんじゃないか?本当に言えるんかな」っていうがあったんだけど、ずっと登ってきて、自分でいろんなことが感じられてエベレストを目の前にして叫ぶとなった時に、本当に素直に言えたというか。その時の自分の気持ちは涼子とひとつになれた瞬間で本当に気持ちいい瞬間でした。

――監督からのアドバイスで印象に残っていることはありますか?

尾野:深町との関係性を最後までどうするか、LOVEかLIKEどうしたらいいんだろうって監督はずっと悩まれていていたんです。LOVEにした方がいいって声もありながら、監督の中でこれはLOVEにしない方がいいんじゃないかとか。それはずっと問いかけていましたね。

――それは尾野さんと岡田さんのお芝居ですごく伝わってきました。

尾野:「あっ、これが恋愛なの?」「これって恋かも」ってなる瞬間の一歩手前くらいの感じで演じる側としてはやっていました。

――羽生の存在が大きすぎるんですよね。

尾野:そうなんです。羽生さんの存在も大きいし。みんな抱えているものがすごい大きすぎて。心の大きな涼子でさえも、その大きさに潰されそうになるみたいなところはありましたね。

――セリフにも「足がダメなら手で歩け」「手がダメなら指で歩け」など、インパクトもすごく強いですよね。

尾野:そうですね。台本を「読んでいる」時って、意外とそういうとこちょっと鼻で笑ってしまうところがあったんですよね。でもやっぱり少しでもその世界に踏み入れたら「そっか…」って納得してしまう。ひと言ひと言が演じてみて感動する言葉でしたね。読んだだけではわからなかったですね。


『自分が思う“男”というものになってみたい(笑)』


――今後新たに挑みたいことってありますか。

尾野:う〜ん、それぞれにありすぎて、「これ!」って言うのが難しいですね。「挑みたいってなんですか」みたいな(笑)。日々挑まなければいけないなと思うし、なれるものなら男になりたいなって思うし。

――男になりたい?

尾野:男役っていうのもそれぞれいろいろあるじゃないですか。自分の思う男というものになってみたいんです。私の望んでる男ってなれないんですよ、女性は(笑)。心から男にはなれないじゃないですか。

――もしなれたとしたら1回なってみたいですか?

尾野:なってみたいです。何か自分が変わるようなことはしたいなと思いますね。

――確かに、今回の作品に登場する男性達を見たら、男になってみたいって思ったりしますよね。こんなふうに生きてみたいって気もちょっとします。

尾野:ねぇ(笑)。うん。男になりたい。

――最後にPeachyとはハッピーとかゴキゲンという意味なのですが、今回の現場で、これが癒やしになったというものはありましたか。

尾野:現地の人。ネパール人の方が癒しでした。言葉はネパール語だったけど…。

――なにもわからない状態で。

尾野:そう。でも何か教えようとしてくれるし、わかろうとしてくれてるし。そのわからない、言葉が通じないのを分かってながらにもコミュニケーションを取ろうとしてくれているそういう機会に癒やされて、元気が出ていました。


『エヴェレスト 神々の山嶺』は3月12日(土)ロードショー。
公式サイト:http://everest-movie.jp/

撮影:祭貴義道
取材・文:木村友美
制作・編集:iD inc.