――たしかに、ヘンに慣れているフリはしないほうが良さそうですね。

大平「そうすれば、店員さんが味方になってくれますから。常連さんだって、一見さんが困っていたら助けてくれることのほうが多いです。物珍しそうに見られても、イヤな顔をされたことはないので、『女なんか来るなよ』とは誰も思っていないはず」

◆定食屋さん探しで楽しむ、ちょっとした非日常感

――あと、これは偏見なんですけど、ボリューム感のある定食屋さんって「汚いけどうまい店」系のイメージがあって、入りにくかったりします。

大平「お店のドアを開けてみて、本当に気になるようだったら『すいません、間違えました』って言って出てきちゃえばいいと思いますけどね。ただ、『古い』と『汚い』は違うので、つくりは古いけどきれいにしているお店もいっしょくたにしてしまうのはもったいないかな」

――その違いって、パッと見てわかるものなんですか?

大平「床を見ればわかりますよ。ベトベトしてたり、ゴミが落ちていたりするところは、ちょっと衛生的に気になりますよね。逆に、建物やショーケースのサンプルが古かったりするぶんには、味があると思って挑戦してみてほしいです」

――ちなみに、定食屋デビューにおすすめのお店をあげるとしたら、どこがいいでしょうか。

大平「東京だと、駒場東大前にある菱田屋さんですね。定食屋好きには有名な人気店で、定番中の定番なんですけど、ひとり客や女性客も多いので入りやすいと思います」

――そういった有名店をきっかけに、自分なりのお気に入りの定食屋さんを見つけられるようになったら楽しそうですね。

大平「たまたま出かけた先の知らない街で、定食屋さんを見つけて入ってみる。それって、私にとっても非日常感があるんですよ。ちょっとした気持ちの切り替えになるし、おいしい定食に出合えれば満足感も得られる。そういうふうに新しい出合いを楽しんでみるのもいいですよね」

【大平一枝】
作家・エッセイスト。長野県生まれ。 市井の生活者を描くルポルタージュ、 失くしたくないもの・コト・価値観を テーマにしたエッセイを執筆。 連載に「東京の台所2」 (朝日新聞デジタルマガジン&w)など