2023年6月に夫が悪性リンパ腫を患った新田恵利さん。以前から夫婦仲はよかったものの、夫が目の前からいなくなる恐怖を目の当たりにし、物事の見方が大きく変わります。(全5回中の2回) 

【写真】抗がん剤治療中に夫が好きなものを一緒食べたら「ひと夏で5キロ太った(笑)」という新田恵利さん(全15枚)

「太ったのはあなたのせい!」と文句を言っています(笑)

旦那さんと

── 2023年6月に旦那さんの悪性リンパ腫を患ってから約1年経ちました。現在の体調はいかがですか?

新田さん:昨年の秋に、主治医の先生から「寛解」という言葉をいただきました。今はだいぶ体調がよくなって、以前の生活に戻りつつあります。ただ、今後3年くらいは再発の可能性が高いということなので、定期的に病院に通って検査を続けています。

闘病中、抗がん剤の影響で髪の毛が抜けてしまったのですが、私も夫もあまり見た目を気にするタイプではないので、とくに帽子もかぶらず、出かけるたびに写真を撮っていたんです。ようやく当時の写真を見ながら、「なかなか迫力があるね」なんて笑って話せるようになりました。ただ療養中に好きなだけ食べていたら、体が緩みっぱなしのプヨプヨなおじさんになっちゃったので(笑)。普通のおじさんに戻るべく、この4月から夫の体力回復と私のダイエットを兼ねて、一緒にピラティスに通い始めました。

── 夫婦で一緒にピラティスとは、いいですね。

新田さん:夫は、病気になる前は、ジムに通って運動していたのですが、まだそこまでハードに運動するのは体力的にキツイかなと、30分でできるサーキット形式の手軽なジムを選びました。ピラティスなので、周りは女性ばかりかなと思っていましたが、意外と同年代の男性もいるんです。私は運動が大嫌いなので、夫に「行くよ」と連れて行ってもらうことで、なんとか通えているという感じです(笑)。

── 病気療養中は、痩せてしまう人が多いのかと思います。逆に太るというのは、珍しいパターンな気がしますが。

新田さん:3週間ごとに6回の抗がん剤治療を行ったのですが、投与が始まると、最初の1週間から10日くらいはひどい吐き気が続き、食べられる状態ではなくなってしまうんです。その後はケロッとして、また抗がん剤が始まると体調が悪くなる、の繰り返し。とにかく食べられる状態のときに好きなものを食べさせたいと思っていて。夫に「何が食べたい?」と聞くと、決まって「カレー」と「あんみつ」そして「絞ったグアバジュース」と答えるんです。ハイカロリーなものばかりですが、エネルギーを摂取するにはいいかなと。私自身は、甘いモノがそれほど好きではないのですが、夫につき合って毎回一緒に完食していたら、ひと夏で5キロも太っちゃって。

── 一緒に食べ続けていれば、そうなるでしょうね…。

新田さん:「はい、食べて」と言われるよりも、一緒に食べたほうが食欲がわくし、おいしいかなと思って、頑張ったんですよ。でも、その代償は大きかったですね。年齢的なものなのか、なにをやっても体重が落ちなくて。さすがにこのままではまずいと思って、重い腰を上げた感じです。「太ったのはあなたのせい!」と、夫に文句を言っています(笑)。

初めて死を目の当たりにした夫

台湾にて

── 病気を経て、夫婦関係になにか変化はありましたか?

新田さん:以前と同じようにケンカもしますが、引きずらなくなったのは違うところかな。もともとよくしゃべるし、出かけるときには手も繋ぎます。夫婦仲はすごくいいと思うのですが、それでも以前はケンカをすると「いざとなれば離婚という選択肢もある!まだ50代だしね」なんて思っていたんです。

でも、夫が病気になって、私の前からいなくなってしまうかもしれないという怖さをリアルに感じ、彼がどれだけ大切な存在なのかを思い知りました。だから、たとえケンカをしたり、イラっとしても、「隣にいてくれるだけで、まあいいか」という気持ちに行き着き、怒りが持続することがなくなりました。怒っている時間がもったいない。どうせなら、笑って過ごしたいですしね。彼も大病を経験したことで、物事の見方や人生観が大きく変わったようです。

── たとえばどんなことでしょう?

新田さん:初めて死というものを目の当たりにして「人生は有限」だと痛感し、残りの時間をどう有意義に過ごすか、真剣に考えたみたいです。ダラダラとゲームをして過ごすことはなくなりました。頻繁に行っていた趣味のダイビングも控えて、私との時間をできるだけたくさん作ろうとしてくれていることがわかります。この間は、夫婦でベーコンとハムを作ったんですよ。

物事の感じ方にも変化があったようです。私はもともと、道端に花が咲いているのを見るだけでも「ああ幸せ~」と思えるタイプなのですが、夫はそういう性格ではなかったんですね。でも、病気をしてからは、自然界の色彩や匂いといったものを色濃く感じるようになったのだそう。病はときに、いろんなことを学ばせてくれるのだなと実感します。

PROFILE 新田恵利さん

にった・えり。1968年生まれ。埼玉県出身。1985年、「おニャン子クラブ」の会員番号4番としてデビューし、人気者に。1986年、「冬のオペラグラス」でソロデビュー。著書に、『悔いなし介護』(主婦の友社)など。2023年、淑徳大学総合福祉学部の客員教授に就任。介護についての講演活動も精力的に行っている。

取材・文/西尾英子 画像提供/新田恵利