魅入ってしまう…学芸員イチオシ! 女子必見のモロー作品3つ

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現在、東京のパナソニック汐留美術館で『ギュスターヴ・モロー展 サロメと宿命の女たち』が開かれています。19世紀後半のパリで活躍した画家、ギュスターヴ・モローの作品や人物像について、学芸員の萩原敦子さんにお話を聞いてきました!

どんな展覧会?

【女子的アートナビ】vol. 150

『ギュスターヴ・モロー展 サロメと宿命の女たち』では、フランス出身の画家、ギュスターヴ・モロー(1826〜1898)の油彩画を中心に、水彩・素描など約70点を紹介。パリのギュスターヴ・モロー美術館から、超有名な作品《出現》をはじめ、多くの名作が来日中です!

今展のテーマは“女性”。そこで、担当学芸員の萩原敦子さんに、女子必見の作品やモロー芸術の楽しみ方について、聞いてきました!

モローの素顔は…?

――まず、モローとはどんな人だったのですか? 

萩原さん モローの性格については、外に出ることをあまり好まず、ごく親しい人しか彼の生活については知らなかったようですが、この展覧会では作品とともに彼の素顔にも迫っています。

裕福な家庭に生まれたブルジョワジーです。父親は行政の仕事を請け負う建築家で、母親は裕福な家庭の出身で教養もありました。

モローは幼いころから芸術を好み、両親も芸術の道に進むことに反対はせず、好きな道を歩ませました。ただ、大学入学資格はとるようにと古典教養をしっかりと身につけさせてから、国立美術学校への進学を許可したのです。

――では、あまりお金の心配をすることなく自分の好きな道に進めたのですね?

萩原さん そうですね。両親は早い段階でパリに一軒家(現在は改装してモローの美術館になっている)を息子名義で買い、自分たちも一緒に住んでいました。間貸しもし、家賃収入もあったのです。

モローは、画家として確固とした地位を築くためにサロン(官展)に出品し、次第に評価され、コレクターが作品を買うようにもなりました。晩年は国立美術学校の教授になり、ルオーのような若い芸術家も育てました。

母親を溺愛…気になる女性関係は?

――モローは母親との関係が濃厚だったようですね。

萩原さん モローの妹が早くに亡くなり、一人息子に愛情が集中したという点もあるようです。彼の画業を支えて生活の面倒をみて、生涯亡くなるまで一緒に暮らしました。モロー自身、母親に認められ、理解してもらうことで心が安定していたのかもしれないですね。

――モローが愛したといわれる女性、アレクサンドリーヌの肖像画も会場に展示されています。彼女とは結婚しなかったのですか?

萩原さん モローとアレクサンドリーヌは、お互いに大事な存在でもあったと思います。ただ、結婚という概念自体が今とは違い、結婚してしまうことで、芸術家の自由な発想が失われるという考え方もあった時代でした。物理的に同居したり籍を入れたりはしなかったのですが、彼女は30年近く寄り添った心の支えとなる友だち、恋人であり、大事なパートナーだったのでしょう。

かわいーっ!学芸員さんイチオシの作品

――では、女子にオススメの必見作品をご紹介いただけますか?

萩原さん まずは、モローの秘めた部分が垣間見えるような作品をご紹介します。アレクサンドリーヌとモローが天国の雲の上を歩いている戯画です。亡くなったあとも、魂が一緒に天国にいるというようなイメージなのだと思います。普段コワモテな印象のモローが、こんなにかわいい絵を描いていたのは驚きですよね。夢見る男の子みたいなモローの姿が伝わります。

モローは、亡くなるときにはアレクサンドリーヌ以外の看病は受けないと希望したりして、自分の死後のつながりを彼女に感じていました。女性との関係は、物理的なもの以上に精神的なつながりを求めたのかなと思います。

誰が見てもスゴイ作品!

――続いてのオススメ作品を教えてください。

萩原さん 次は、サロメと洗礼者ヨハネを描いた《出現》です。これは、男女問わず誰が見ても圧倒されるような神秘性を湛えた作品と思います。踊るサロメの前に、これから処刑がなされる、いわば未来のヨハネの首が出現して、彼女を上から凝視しているのです。

とても神々しい表現なのですが、首からは血がしたたり、下には血だまりも描かれています。今まで誰も見たことがないような独創的な図像をモローは描いています。

――なぜ、こんなに首が光っているのですか?

萩原さん ヨハネはキリストに洗礼をほどこした人物で、キリストの先駆者としても位置づけられる特別な聖性をもった聖人です。聖なる存在であることを示すため、頭の背後に円光が描かれ、そこから神々しい光が放たれています。

そんな聖人のヨハネをサロメが死に追いやるのです。サロメがもつ残虐性を糾弾するかのような強い光が、この絵をより特異なものにしています。

――このサロメの特徴について、教えてください。

萩原さん この《出現》のサロメは、モローが描いたほかのサロメ像のなかでも力強さを感じさせます。両脚で立ち、神々しい光にも負けずにヨハネを見返し、強靭な精神をもった女性に見えます。

魅入られてしまう…!

――最後のオススメ作品を教えてください。

萩原さん やはり《一角獣》ですね。女性なら誰しもその豊かな色彩と多様な装飾性に魅入られてしまう作品ではないでしょうか。

緑や青の使い方が複雑で、さまざまな階調の色が組み合わされ、色彩の持つ美しさがいかんなく発揮されています。現実と離れた夢幻的世界が描かれ、見ていて飽きることがありません。ぜひぜひ実物を見てほしいですね。

――女性たちの描き方がとても美しいですね。

萩原さん 「一角獣」は純潔の乙女だけが捕獲できる幻獣ですが、彼女たちはそれを手なずけています。冷たいほど美しく、触れてはいけないような気高さもあるけれど、底知れぬ力を持った女性にも見えます。

モローの描く女性はファム・ファタル(宿命の女、男を破滅に陥れる女)が多く、ときに心を奪うほどの美しさと威光をもち、それゆえ男性を死へ至らしめる存在であったりもします。しかし、モローが描くファム・ファタルは、必ずしも妖艶さやエロスが強調されたものではありません。

たとえ彼女たちが裸体で描かれたとしても、彼女たちには崇高さや聖性、気高い美しさがあり、ある意味力強さを感じ取ることができます。そんなモローが描く女性像は、現代の我々女性が見ても、興味が尽きません。

絵を見る喜びを感じて!

――本当に、モローの女性像は美しいですね。ただ、神話や聖書をテーマにした作品が多く、またモローは“象徴主義”の画家といわれ、ちょっと難しそうにも感じます。神話とかを知らなくても楽しめますか?

萩原さん はい、十分楽しめます。色彩の持つ喚起力や装飾性もあり、絵を見る喜びというものを感じられる作品が多いですよ。

モローは神話や聖書を主題にはしていますが、忠実に原典の場面描写をしていたのではなく、目に見えないものや夢想の世界を描こうとしました。

目に見えない概念や観念、情念、男女の相克といった感情を、神話などの主題を通して、そこに浮き上がらせていたのです。目には見えないものを造形という言語を通して語り、造形に象徴させる、だから象徴主義といわれています。

――お話をうかがい、モロー芸術のことをとてもよく理解できました。ご解説いただき、ありがとうございました!

展覧会は6月23日まで開催。

ぜひぜひモロー作品の実物を見に足を運んでみてくださいね!

Information

会期:〜6月23日(日)時間:10:00〜18:00(入館は午後5時30分まで)休館日:水曜日(ただし、6月19日は開館)入館料:一般:\1,000、65歳以上:\900、大学生:\700、中・高校生:\500 小学生以下無料会場:パナソニック汐留美術館