スリルを追うのは男性が多い―ドーパミンの量が女性よりも男性の方が豊富

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朝晩の冷え込みが厳しく、本格的な冬の到来を感じるようになった。登山家にとっては、そろそろ冬山にチャレンジしたくなる時期だろう。なぜヒトは、寒くてつらくて雪崩もコワい冬山に、命を懸けて挑もうとするのだろう。

「そこに山があるから」では片づけられないほどに、頂上での景色は素晴らしいものなのだろうか。

命知らずなチャレンジャーは男性に多いのはなぜか?性別を決めるY染色体が過剰なドーパミンをもたらすので、男は構造上やんちゃなのだが、なかにはドーパミンが受け取れず、ひたすら危険を求めるT型人格も存在するのだ。

■男性は危険が好物?

多くの人々は安全で快適な生活を求めているが、危険なスポーツにのめりこむ人も少なくない。自らを逆境に追い込むことで、生きる充実を感じているのだ。人は命の危険を感じると、感覚は研ぎ澄まされ、神経が高ぶり、脳は至福の快感で満たされるという。

命知らずな人の脳は、単なる興味だけではなく、危険によってもたらされる快感への依存症状態なのだ。

自分の命すらかえりみずに趣味やスポーツにチャレンジする人たちは「新奇(しんき)性追求者」と呼ばれ、アルコールや薬物、ギャンブルなどにのめりこむ人たちと同様に、依存症のグループと呼べる。しかし、冒険家などは社会に悪影響を及ぼすものではなく、むしろ人類の歴史を塗り替えることもある。

そのため、彼らの研究は後回しとなり、他の新奇性追求者と同じようにアドレナリン中毒者だと思われ、研究対象となったのは最近のことだ。

テンプル大学のフランク・ファレイ教授は、危険なスポーツにのめりこみ、新奇性とスリルを求める人々をスリル(thrill)の頭文字をとって「T型人格」と定義した。かつては危険なスポーツにハマる理由はアドレナリン中毒とされていたのだが、研究が進むにつれて、恋愛においても一役かっているドーパミンも原因だとわかったのである。

「T型人格」には男性が圧倒的に多いのはなぜか?原因は性別をきめるY染色体により、ドーパミンの量が女性よりも豊富だからだ。これは、原始のむかしから、男性はより良い住まいを探し、安全な食糧を調達しなければならず、普段から生命の危険に面することも多く、乗り越えるためには大量の興奮伝達物質が必要だった。

そうした暮らしを続けるうちにエスカレートし、多少のドーパミンでは興奮=満足できなくなったのだ。

■受け皿こそが重要

ドーパミンは量よりも、受けとめる受容体が重要で、ヒトにはD1〜D5までのドーパミン受容体があるのだが、「T型人格」の場合D2とD4がうまく作用せず、ドーパミンを受け取れなくなっているケースが多い。5つのうち2つが働かないだけで4割引き状態なのに加え、本来のD2/D4は吐き気を催す作用をして「もうできませんっ!」という状態を作り、ドーパミン放出にブレーキをかける役割も果たしている。

しかしこれらが働かないと、ただでさえ刺激好きな男性が満足できないだけでなく、ブレーキまで効かないのだから手に負えない状態に陥る。

そのためドーパミンが特盛りで分泌されても、さらなるドーパミンを要求し暴走状態となる。ドーパミンが欲しい→興奮が欲しい→危険が欲しいがループし、恐怖=満足と錯覚し、命の危険をかえりみず極限状態に刺激を求めるようになっていくのだ。

原始の時代であれば、危険をかえりみない行動も家族を守るためには必要であっただろう。簡単にひるまず前に進む気持ちがなければ、生き抜くことは難しかったに違いない。しかし、恵まれた現代において、そこまでの無謀さを求める気持ちは、残念ながら新奇追求者、つまり傾奇(かぶき)者と映ってしまうのだろう。

■まとめ

ドーパミンは報酬系の物質であり、俗に言う「やる気スイッチ」だ。一度オンになるとなかオフにはならない。

スリルを楽しむのは良いが、命あってのスリルであることを忘れてはいけない。引くときは引くのも勇気だから、くれぐれも「ヒモ無しバンジージャンプ」にならないよう、冷静さを忘れずに。

(関口 寿/ガリレオワークス)