萱野茂二風谷アイヌ資料館では、故・萱野茂さんが1950年ごろから約半世紀をかけてアイヌ民具を展示

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北海道・平取町は新千歳空港から車で1時間ほどの距離にあり、沙流(さる)川沿いの豊かな自然を背景にアイヌの人々が数多く暮らしている地域です。中でも二風谷エリアは「二風谷イタ(お盆)」と「二風谷アットウシ(樹皮から作った糸を使った織物)」が、北海道で初めて伝統的工芸品に指定されるなどアイヌ工芸のさかんな地域。その二風谷の工芸品を満喫できる「匠の道」へ行ってきました。

萱野茂二風谷アイヌ資料館の庭で

匠の道は「萱野茂二風谷アイヌ資料館」と町内の遺跡で発掘されたものなどを展示する「沙流川歴史館」に挟まれた約450m。4軒の工房と、木彫りや刺繍をしている様子を見ることができるアイヌの伝統的家屋、そして二風谷民芸組合の工芸家の作品を購入できる場所もあります。

まずは匠の道の一番山側にある萱野茂二風谷アイヌ資料館へ。二風谷出身の故・萱野茂さんは1950年ころから約半世紀をかけてアイヌ民具を集め、アイヌ語を残すため年配の人の元を訪れ伝承されてきた物語などをテープに録音していきました。萱野さんの収集した初期のものは平取町立二風谷アイヌ文化博物館で展示されています。

資料館には、それ以降の収集品と萱野さん自身が再現した民具を展示しています。茂さん自身が交渉して購入したものばかりなので、ほとんどのものがどこの誰が使用していたものか来歴がわかっています。

庭には茂さんの遊び心から作られた、こんな撮影スポットもあります。

資料館を出て坂を下ると右手に高野民芸と藤谷(ふじや)民芸店が見えてきます。まずは手前の高野民芸へ。店主であり木彫の職人である高野繁廣さんは東京都生まれ。旅の途中で二風谷に立ち寄り、このままではアイヌ民具がなくなってしまう、この技術を次の世代に伝えなければ!と、22歳から本格的に木彫りのアイヌ民具を作りはじめました。アイヌの楽器、トンコリを二風谷で作れるのは高野さんだけです。

ちなみにお店で人気がある商品はマキリ(小刀)とメノコイタ(まな板とお皿が一体化したアイヌの便利グッズ)。「メノコイタはパンをテーブルで切ってそのまま盛り付けて出せるので便利ですよ」と同じく東京都出身でいまは木の皮を材料とする編み物などアイヌ女性の手仕事の職人として活躍している妻の啓子さんが普段使いのバリエーションを教えてくれました。

美しくかつ実用性が高いなんて! でもさぞやお値段が張るのでは…と恐る恐る値段を聞いてみると、サイズにもよりますが8000円から。うん、手の届かないほどでもないかも。というか、ていねいな仕事ぶりを考えると相当安いのでは…。ちなみにマキリ(写真)は7万5600円で女性用の小ぶりなメノコマキリは5万4000円だそう。

「何年も考えてから買う方もいるので、値段をあげられなくて…」と啓子さん。現在は、各商品ともに完成待ちの状態となっており、希望のものが手に入るまでは少し時間がかかりそう。ですが、高野さん夫妻とアイヌの民具を自分の生活でどうやって生かすか相談しながら注文するのも楽しいひと時かもしれません。

すぐお隣の藤谷民芸店はアットウシ職人、藤谷るみ子さんのお店。この日は刺繍の作業を進めていました。その精緻で揃っていることと言ったら。本当にきれいで、思わずため息。「だってこれでお金もらってるんだもん」と笑いますが、さすがです。

アイヌ文様を刺繍することが布の強度につながっていることやモレウノカ(渦巻きの形)やアイウシノカ(トゲの形)などの伝統文様を組み合わせるといくらでもオリジナリティが出せること。とにかく織物と刺繍が好きという藤谷さんが、奥深いアットウシの世界を楽しそうに教えてくれます。時間があれば糸つみ(オヒョウの内皮を割いてひも状にする)体験とコースターにアイヌ刺繍を施す体験(各2000円)にトライするのにっ!と後ろ髪を引かれる思いで店を後に…。

(後編に続く)

※文中のアットウシの「ウシ」、アイウシノカの「シ」はアイヌ語表記では小文字になります。

萱野茂二風谷アイヌ資料館 ■住所:平取町二風谷79-4 ■電話:01457・2・3215 ■時間:9:00〜17:00 ■料金:高校生以上400円 中学生以下150円 乳幼児無料 ■休み:なし

高野民芸 ■住所:平取町二風谷 ■電話:01457・2・3397/01457・2・3585 ■時間:9:00〜17:00 ■休み:不定休

藤谷民芸店 ■住所:平取町二風谷 ■電話:01457・2・3408(店舗には電話なし。連絡はこの番号へ) ■時間:9:00〜17:00ころ ■休み:不定休(11〜4月は要事前連絡) (北海道ウォーカー・市村雅代)