「龍が如く」シリーズのリアルな街づくりの裏側に迫る!登場する飲食店のメニューは調理師学生が作っている?
株式会社セガが展開する、人気ゲームの「龍が如く」シリーズをご存知だろうか。人間ドラマの奥深さで数多くのユーザーを魅了する同シリーズでは、芸能人をキャラクターモデルに起用するなど数々のチャレンジを行っている。
【龍が如く8画像】実際に料理を作り、撮影した素材を使っているとは驚きだ
なかでも、ゲーム内でリアルに再現された日本の繁華街をモデルにした街並みは、たびたび注目を集めており、実際にそのモデルとなった街へ聖地巡礼をするファンもいるそうだ。
シリーズ最新作「龍が如く8」では「ハワイ」が舞台となったが、コロナの影響で開発チームはリモートワークを中心に進めたりと、いくつかの難題に直面したのだとか。2024年5月7日に「新作出演者オーディション」が行われ、次回作への期待がすでに高まっている同シリーズの街づくりの裏側とは?
今回は、「龍が如くスタジオ」の伊東豊さん、小田正志さん、三嶽信明さん、鳩山路彦さん、保田健太さんに、街づくりのプロセスやその裏側に迫った。
■リアルとおもしろさを両立させる街づくりの極意とは
――まず、実際の街をモチーフにすることに決めた背景について教えてください。
【三嶽信明】もともと「龍が如く」シリーズの第1作目では、現代社会を鮮明に描き出すため、裏社会の実態を反映することに重点を置き、東京・新宿の歓楽街をモチーフにした「神室町」という架空の街を制作しました。このとき実際の街へ足を運び、徹底的な取材を行いました。
とはいえ、実際の街をそのままゲームに取り入れても、必ずしもおもしろいわけではありません。例えば、神室町には巨大な風俗店「桃源郷」や地下闘技場など、ゲームをおもしろくするための独自の要素を加えています。
【伊東豊】実在の街をゲーム内で完全に再現してしまうと、移動だけで5分ほどかかってしまい、ゲームとしてのテンポが損なわれてしまいます。「龍が如く7 光と闇の行方」(以下、「龍が如く7」)の舞台である「横浜・伊勢佐木異人町」(以下、異人町)も、実際よりも街の密度を高めて設計しています。
――異人町が神室町の3倍の広さであると伺いました。広がりすぎると、先ほど触れた街の密度が低くなる問題があるかと思いますが、この点についてどのような工夫をしていますか?
【鳩山路彦】まず「龍が如く7」はライブコマンドRPGスタイルを採用しました。この変更により、以前にはなかった新しい要素を多数取り入れる必要がありました。
【伊東豊】例えば「ドラゴンクエスト」のように、エリアごとに敵の強さが異なるという要素を取り入れたかったのですが、これを実現するには「広いマップ」が不可欠だったんです。
【三嶽信明】「龍が如く7」の場合、職安街エリアの「どん底の街」からスタートし、徐々に遠くのエリアへと進んで行きます。このエリアは、RPGでいう「始まりの村」に相当し、物語が進むにつれて、プレイヤーは遠く離れた中華街エリアなど、より危険な地域へと足を踏み入れていきます。この徐々に難易度を上げていくという点は、「RPGのセオリー」に則っています。
ただ「龍が如く」ならではのアレンジを加え、現代を舞台にしたことで、従来のRPGと一線を画することができました。それに加え、横浜の有名なスポットを実際よりも密集させた結果、エリアの意識を持たせつつ、神室町の3倍の広さのマップが完成したわけですね。
【伊東豊】一方、マップが広くなったことで新たな問題点も浮かび上がりました。「龍が如く8」では、ハワイというシリーズ最大の街を実装したことで、データ容量が想定を大きく上回ってしまい、全てのデータをディスクに収めるのにとても苦労しました。また、通行人や車の数も大幅に増えたため、処理速度やメモリに余裕がなくなり、スムーズに動作させるためにリリース直前までチューニングを行っていました。
昔の話になりますが、シリーズ1作目は神室町を細かいステージに区切って、画面の端に到達すると切り替えていただけだったので、当時に比べれば技術的な難易度は飛躍的に上がりましたね(笑)。
■「龍が如く8」はリモートで街づくり!リアルを追求するゆえの苦労
――これまでの「龍が如く」シリーズでは、東京や大阪をはじめ、さまざまな都市を舞台にしてきましたが、街づくりにあたって特に心掛けている点をお聞かせください。
【鳩山路彦】前述のとおり、私たちは街をリアルに再現するため、現地取材を欠かさず行っています。バトルを中心としたゲームプレイだけでなく、街歩きを楽しみにしている方々の期待に応えられるよう、リアルな街並みを大切にしています。特にガイドブックには載っていない細かな路地や個性的な店舗など、現地に足を運ばなければわからない情報を大切にしています。
【三嶽信明】その土地の日常生活や、偶然立ち寄った店で耳にする地元の話題など、ゲームにすべて取り入れるかどうかはさておき、そのような情報が街づくりに大きく影響していると感じています。
――最近の作品「龍が如く7外伝 名を消した男」(以下「龍が如く7外伝」)で、大阪と横浜。「龍が如く8」では、東京、横浜、ハワイが舞台になっていますが、これらの制作秘話をお聞かせいただけますか?
【伊東豊】神室町や大阪の蒼天堀など、シリーズを通して登場する街は、作品をリリースするごとにクオリティを上げる努力をしてきました。特に「龍が如く7外伝」での蒼天堀は、これまでにないほどに美しいグラフィックになっていると思います。ちなみに、RPGとアクションゲームでは要求される街の構造が違うので、「龍が如く7」と「龍が如く7外伝」の蒼天堀は、同じ街でもいろいろなところに修正が入っていて、内部的にはまったく別のデータになっています。
また、時間が経つにつれ実際の街も変わっていくため、以前の作品に登場した店がなくなっていることもありますし、新しい店が登場することもあります。その変化に合わせて街を再構築する必要があるので、デザイナーは本当に大変だなといつも思います(笑)。
【鳩山路彦】あと消費税の変更に伴い、看板に表示される価格を更新するなど、細かい部分にも気を配っています。「龍が如く0 誓いの場所」では、1988年の設定で消費税導入前だったため、特に注意が必要でした。さらに、当時は携帯電話が普及していなかったため、「090」で始まる電話番号の看板も一新しましたね。平成から令和への改元時も、さまざまな箇所を見直しました。
【小田正志】電柱に記載された街の名前や、車のナンバープレートにも「神室町」や「蒼天堀」などの名前を入れるなど、ディテールにもこだわっていますね。
――「龍が如く8」の制作はコロナ禍の中で行われ、ハワイの街をリモートで取材したと聞きましたが、その過程で苦労した点はありましたか?
【鳩山路彦】最も大きな課題は時差でした。ハワイは日本よりも5時間早いため、現地の映像を共有してもらう際に、時差の影響を強く感じていました。日本では朝6時に作業を開始し、現地では19時に1日の仕事を終えるため、日本はまだ午後2時という状況でした。まるで日本にいながら時差を体験しているようで(笑)。
そしてコロナが落ち着いた後、答え合わせのような形で現地に行きました。通常は現地調査後に街づくりを行うのですが、今回はその逆で、まるで聖地巡礼をしているような感覚で、とてもよい経験ができましたね。
【鳩山路彦】一方で、実際に現地を訪れてみなければわからなかったのが「街のスケール感」です。いつも物の大きさを、メジャーやレーザーポインターで測定するのですが、ハワイではヤシの木を1つひとつ測定していきましたね。
――最も苦労したと感じるポイントはどこでしたか?
【鳩山路彦】「日本の雰囲気をなくすこと」でした。日本で使用していた素材をそのまま利用すると作品の雰囲気が損なわれるため、一から作り直す必要がありました。文化や人種の違いもあるため、そうした部分も新たに作り直しました。
【小田正志】街を歩く人々の髪の色や肌の色、体型など、さまざまなバリエーションを設けました。服装も地域によってはシャツとパンツの人もいれば、水着姿の人もいます。またエリアの拡大に伴い、人々の数も増えました。
――たしかに、ハワイにはいろいろな人種の方がいますもんね。
【鳩山路彦】加えて、ハワイは東京や横浜とは違い、簡単に行ける場所ではないため、一度の取材の際に予定を詰め込みました。タイアップ先の取材では、素材の取り逃がしがないよう、無理を聞いていただくこともありましたね。これはハワイに限らずですが、店舗取材では営業開始前の忙しい時間に撮影するため、緊張感のあるなかでカメラを回し続けることもあります。
――とてもタイトなスケジュールであったことが、ひしひしと感じられます...。
【小田正志】「龍が如く」では、現代を切り取ることをコンセプトに置いているので、作業のスピード感を重視していて、発売時期が遅れないよう徹底しています。そのため、街づくりと同時にミニゲームの制作も行っているのですが、計画していたルートに突然電柱が現れるなどのアクシデントもありましたよ(笑)。
■調理学生手作りの飲食店のメニュー!?デザインへの熱いこだわり
――そんな「龍が如く」に登場する街の看板や写真など、細部まで丁寧に作り込まれていますが、これらの制作プロセスについて教えてください。
【保田健太】建物やビルの担当者がいて、彼らが一生懸命にアイデアを出しています。すべて架空の名前でありながら、かつパロディにならないよう心掛け、常に新しいアイデアを模索しています。特に「龍が如く」シリーズでは、初期から企業とのタイアップがあり、似た業種で名前が類似していると、タイアップと誤認されてしまう恐れがあるんです。
【鳩山路彦】看板には営業時間や電話番号、メニューなども細かく記載するので、ビル一棟一棟の看板制作には膨大な時間がかかるんです。
【保田健太】例えば、雑居ビルに入るスナックの名前を20個以上考えることもあります。ただし、冗談が過ぎると「やり過ぎでは?」と指摘されることもあるため、バランスを取るのが難しいです。
【鳩山路彦】こだわりを持って制作しているので、スタッフの個性が反映された看板をユーザーの方々が見つけてSNSで共有してくれると、とてもうれしいですね。
――人や物の写真もとても精巧ですが、こちらはどのように制作しているのでしょうか?
【伊東豊】過去のシリーズでは、ホストの看板にスタッフの顔を使っていたこともありましたし、実は私の顔も看板になったことがあります(笑)。ですが、最近の作品ではプロの方を起用するなど、細部にもこだわっていますし、コンプライアンスや法令などにも細心の注意を払いながら制作しています。
【保田健太】開発スタッフも慎重に作業を進めていますが、一般名称だと思っていたものが実は商標登録されていたりと、思わぬところでミスをしてしまうこともあります。そのため、定期的にチーム全員でチェックを行っていますね。
【三嶽信明】飲食店のメニューに載せる料理の写真についても、開発段階で「この店ではこれが注文できる」という指示がありますが、必要な画像が素材集にない場合は、スタッフが実際に料理を作り、写真撮影をします。
【保田健太】例えば、作中でプレイヤーが利用できる飲食店「スマイルバーガー」の惣菜パンの写真は、メニューに合わせて具を変え、開発スタッフが一眼レフカメラで撮影しました。ドリンクメニューも同様に撮影しています。
【三嶽信明】シリーズが進むにつれ、メニューの種類が増えてきたため、最近は調理学校の協力を得て、生徒さんが作った料理の写真撮影することが増えましたね。おそらく、この話をメディアで話すのは初めてですよ(笑)。
――そうだったのですね!ありがとうございます。
■世界中のファンが聖地巡礼!今後は「街にあるすべてのお店に入れるようにしたい」
――SNSを見ていると、聖地巡礼をしているファンの方が多くいますよね。
【伊東豊】聖地巡礼をする際に、キャラクターグッズやアクリルスタンドといっしょに写真を撮っている方も多いようですね。また、海外のファンの方が新宿を訪れて「これが『龍が如く』の舞台なんだ!」と喜んでくださっているのを目にしたり、さまざまな言語でコメントが寄せられているのを見ると、「龍が如く」もインターナショナルになったんだなと実感します。
【鳩山路彦】あと、ゲーム内の街と現実の街を比較する動画を作成してくれる方もいます。彼らが細部にまで目を配ってくれていることに驚かされますし、そうした熱心なファンの存在が本当にうれしいですね。
――最後に、今後の街づくりで挑戦していきたいことはありますか?
【三嶽信明】私たちは街の広さだけでなく、密度のある街を再現することが強みだと思っていますので、街の解像度を高めるような方向性を目指しています。例えば、街にあるすべてのお店に入れるようにするのもひとつですね。もちろん、シナリオで広さを求められれば応えていきますが(笑)。
また、繁華街にある雀荘など、訪れたことのない人にも、訪れた人にも新たな体験を提供できるような街づくりを大切にしています。現実だと入りにくいような裏路地のお店に入れるような体験が、街全体でできればとてもワクワクしますよね。
【伊東豊】「街歩き」の要素はとても大切にしています。シナリオと直接関係なくても、食事を楽しんだり、カジノで遊んだり、サブストーリーを発見したりできるのが「龍が如く」のよさだと思うので、これからもこだわっていきたいですね。
取材・文=西脇章太(にげば企画)
【龍が如く8画像】実際に料理を作り、撮影した素材を使っているとは驚きだ
なかでも、ゲーム内でリアルに再現された日本の繁華街をモデルにした街並みは、たびたび注目を集めており、実際にそのモデルとなった街へ聖地巡礼をするファンもいるそうだ。
シリーズ最新作「龍が如く8」では「ハワイ」が舞台となったが、コロナの影響で開発チームはリモートワークを中心に進めたりと、いくつかの難題に直面したのだとか。2024年5月7日に「新作出演者オーディション」が行われ、次回作への期待がすでに高まっている同シリーズの街づくりの裏側とは?
■リアルとおもしろさを両立させる街づくりの極意とは
――まず、実際の街をモチーフにすることに決めた背景について教えてください。
【三嶽信明】もともと「龍が如く」シリーズの第1作目では、現代社会を鮮明に描き出すため、裏社会の実態を反映することに重点を置き、東京・新宿の歓楽街をモチーフにした「神室町」という架空の街を制作しました。このとき実際の街へ足を運び、徹底的な取材を行いました。
とはいえ、実際の街をそのままゲームに取り入れても、必ずしもおもしろいわけではありません。例えば、神室町には巨大な風俗店「桃源郷」や地下闘技場など、ゲームをおもしろくするための独自の要素を加えています。
【伊東豊】実在の街をゲーム内で完全に再現してしまうと、移動だけで5分ほどかかってしまい、ゲームとしてのテンポが損なわれてしまいます。「龍が如く7 光と闇の行方」(以下、「龍が如く7」)の舞台である「横浜・伊勢佐木異人町」(以下、異人町)も、実際よりも街の密度を高めて設計しています。
――異人町が神室町の3倍の広さであると伺いました。広がりすぎると、先ほど触れた街の密度が低くなる問題があるかと思いますが、この点についてどのような工夫をしていますか?
【鳩山路彦】まず「龍が如く7」はライブコマンドRPGスタイルを採用しました。この変更により、以前にはなかった新しい要素を多数取り入れる必要がありました。
【伊東豊】例えば「ドラゴンクエスト」のように、エリアごとに敵の強さが異なるという要素を取り入れたかったのですが、これを実現するには「広いマップ」が不可欠だったんです。
【三嶽信明】「龍が如く7」の場合、職安街エリアの「どん底の街」からスタートし、徐々に遠くのエリアへと進んで行きます。このエリアは、RPGでいう「始まりの村」に相当し、物語が進むにつれて、プレイヤーは遠く離れた中華街エリアなど、より危険な地域へと足を踏み入れていきます。この徐々に難易度を上げていくという点は、「RPGのセオリー」に則っています。
ただ「龍が如く」ならではのアレンジを加え、現代を舞台にしたことで、従来のRPGと一線を画することができました。それに加え、横浜の有名なスポットを実際よりも密集させた結果、エリアの意識を持たせつつ、神室町の3倍の広さのマップが完成したわけですね。
【伊東豊】一方、マップが広くなったことで新たな問題点も浮かび上がりました。「龍が如く8」では、ハワイというシリーズ最大の街を実装したことで、データ容量が想定を大きく上回ってしまい、全てのデータをディスクに収めるのにとても苦労しました。また、通行人や車の数も大幅に増えたため、処理速度やメモリに余裕がなくなり、スムーズに動作させるためにリリース直前までチューニングを行っていました。
昔の話になりますが、シリーズ1作目は神室町を細かいステージに区切って、画面の端に到達すると切り替えていただけだったので、当時に比べれば技術的な難易度は飛躍的に上がりましたね(笑)。
■「龍が如く8」はリモートで街づくり!リアルを追求するゆえの苦労
――これまでの「龍が如く」シリーズでは、東京や大阪をはじめ、さまざまな都市を舞台にしてきましたが、街づくりにあたって特に心掛けている点をお聞かせください。
【鳩山路彦】前述のとおり、私たちは街をリアルに再現するため、現地取材を欠かさず行っています。バトルを中心としたゲームプレイだけでなく、街歩きを楽しみにしている方々の期待に応えられるよう、リアルな街並みを大切にしています。特にガイドブックには載っていない細かな路地や個性的な店舗など、現地に足を運ばなければわからない情報を大切にしています。
【三嶽信明】その土地の日常生活や、偶然立ち寄った店で耳にする地元の話題など、ゲームにすべて取り入れるかどうかはさておき、そのような情報が街づくりに大きく影響していると感じています。
――最近の作品「龍が如く7外伝 名を消した男」(以下「龍が如く7外伝」)で、大阪と横浜。「龍が如く8」では、東京、横浜、ハワイが舞台になっていますが、これらの制作秘話をお聞かせいただけますか?
【伊東豊】神室町や大阪の蒼天堀など、シリーズを通して登場する街は、作品をリリースするごとにクオリティを上げる努力をしてきました。特に「龍が如く7外伝」での蒼天堀は、これまでにないほどに美しいグラフィックになっていると思います。ちなみに、RPGとアクションゲームでは要求される街の構造が違うので、「龍が如く7」と「龍が如く7外伝」の蒼天堀は、同じ街でもいろいろなところに修正が入っていて、内部的にはまったく別のデータになっています。
また、時間が経つにつれ実際の街も変わっていくため、以前の作品に登場した店がなくなっていることもありますし、新しい店が登場することもあります。その変化に合わせて街を再構築する必要があるので、デザイナーは本当に大変だなといつも思います(笑)。
【鳩山路彦】あと消費税の変更に伴い、看板に表示される価格を更新するなど、細かい部分にも気を配っています。「龍が如く0 誓いの場所」では、1988年の設定で消費税導入前だったため、特に注意が必要でした。さらに、当時は携帯電話が普及していなかったため、「090」で始まる電話番号の看板も一新しましたね。平成から令和への改元時も、さまざまな箇所を見直しました。
【小田正志】電柱に記載された街の名前や、車のナンバープレートにも「神室町」や「蒼天堀」などの名前を入れるなど、ディテールにもこだわっていますね。
――「龍が如く8」の制作はコロナ禍の中で行われ、ハワイの街をリモートで取材したと聞きましたが、その過程で苦労した点はありましたか?
【鳩山路彦】最も大きな課題は時差でした。ハワイは日本よりも5時間早いため、現地の映像を共有してもらう際に、時差の影響を強く感じていました。日本では朝6時に作業を開始し、現地では19時に1日の仕事を終えるため、日本はまだ午後2時という状況でした。まるで日本にいながら時差を体験しているようで(笑)。
そしてコロナが落ち着いた後、答え合わせのような形で現地に行きました。通常は現地調査後に街づくりを行うのですが、今回はその逆で、まるで聖地巡礼をしているような感覚で、とてもよい経験ができましたね。
【鳩山路彦】一方で、実際に現地を訪れてみなければわからなかったのが「街のスケール感」です。いつも物の大きさを、メジャーやレーザーポインターで測定するのですが、ハワイではヤシの木を1つひとつ測定していきましたね。
――最も苦労したと感じるポイントはどこでしたか?
【鳩山路彦】「日本の雰囲気をなくすこと」でした。日本で使用していた素材をそのまま利用すると作品の雰囲気が損なわれるため、一から作り直す必要がありました。文化や人種の違いもあるため、そうした部分も新たに作り直しました。
【小田正志】街を歩く人々の髪の色や肌の色、体型など、さまざまなバリエーションを設けました。服装も地域によってはシャツとパンツの人もいれば、水着姿の人もいます。またエリアの拡大に伴い、人々の数も増えました。
――たしかに、ハワイにはいろいろな人種の方がいますもんね。
【鳩山路彦】加えて、ハワイは東京や横浜とは違い、簡単に行ける場所ではないため、一度の取材の際に予定を詰め込みました。タイアップ先の取材では、素材の取り逃がしがないよう、無理を聞いていただくこともありましたね。これはハワイに限らずですが、店舗取材では営業開始前の忙しい時間に撮影するため、緊張感のあるなかでカメラを回し続けることもあります。
――とてもタイトなスケジュールであったことが、ひしひしと感じられます...。
【小田正志】「龍が如く」では、現代を切り取ることをコンセプトに置いているので、作業のスピード感を重視していて、発売時期が遅れないよう徹底しています。そのため、街づくりと同時にミニゲームの制作も行っているのですが、計画していたルートに突然電柱が現れるなどのアクシデントもありましたよ(笑)。
■調理学生手作りの飲食店のメニュー!?デザインへの熱いこだわり
――そんな「龍が如く」に登場する街の看板や写真など、細部まで丁寧に作り込まれていますが、これらの制作プロセスについて教えてください。
【保田健太】建物やビルの担当者がいて、彼らが一生懸命にアイデアを出しています。すべて架空の名前でありながら、かつパロディにならないよう心掛け、常に新しいアイデアを模索しています。特に「龍が如く」シリーズでは、初期から企業とのタイアップがあり、似た業種で名前が類似していると、タイアップと誤認されてしまう恐れがあるんです。
【鳩山路彦】看板には営業時間や電話番号、メニューなども細かく記載するので、ビル一棟一棟の看板制作には膨大な時間がかかるんです。
【保田健太】例えば、雑居ビルに入るスナックの名前を20個以上考えることもあります。ただし、冗談が過ぎると「やり過ぎでは?」と指摘されることもあるため、バランスを取るのが難しいです。
【鳩山路彦】こだわりを持って制作しているので、スタッフの個性が反映された看板をユーザーの方々が見つけてSNSで共有してくれると、とてもうれしいですね。
――人や物の写真もとても精巧ですが、こちらはどのように制作しているのでしょうか?
【伊東豊】過去のシリーズでは、ホストの看板にスタッフの顔を使っていたこともありましたし、実は私の顔も看板になったことがあります(笑)。ですが、最近の作品ではプロの方を起用するなど、細部にもこだわっていますし、コンプライアンスや法令などにも細心の注意を払いながら制作しています。
【保田健太】開発スタッフも慎重に作業を進めていますが、一般名称だと思っていたものが実は商標登録されていたりと、思わぬところでミスをしてしまうこともあります。そのため、定期的にチーム全員でチェックを行っていますね。
【三嶽信明】飲食店のメニューに載せる料理の写真についても、開発段階で「この店ではこれが注文できる」という指示がありますが、必要な画像が素材集にない場合は、スタッフが実際に料理を作り、写真撮影をします。
【保田健太】例えば、作中でプレイヤーが利用できる飲食店「スマイルバーガー」の惣菜パンの写真は、メニューに合わせて具を変え、開発スタッフが一眼レフカメラで撮影しました。ドリンクメニューも同様に撮影しています。
【三嶽信明】シリーズが進むにつれ、メニューの種類が増えてきたため、最近は調理学校の協力を得て、生徒さんが作った料理の写真撮影することが増えましたね。おそらく、この話をメディアで話すのは初めてですよ(笑)。
――そうだったのですね!ありがとうございます。
■世界中のファンが聖地巡礼!今後は「街にあるすべてのお店に入れるようにしたい」
――SNSを見ていると、聖地巡礼をしているファンの方が多くいますよね。
【伊東豊】聖地巡礼をする際に、キャラクターグッズやアクリルスタンドといっしょに写真を撮っている方も多いようですね。また、海外のファンの方が新宿を訪れて「これが『龍が如く』の舞台なんだ!」と喜んでくださっているのを目にしたり、さまざまな言語でコメントが寄せられているのを見ると、「龍が如く」もインターナショナルになったんだなと実感します。
【鳩山路彦】あと、ゲーム内の街と現実の街を比較する動画を作成してくれる方もいます。彼らが細部にまで目を配ってくれていることに驚かされますし、そうした熱心なファンの存在が本当にうれしいですね。
――最後に、今後の街づくりで挑戦していきたいことはありますか?
【三嶽信明】私たちは街の広さだけでなく、密度のある街を再現することが強みだと思っていますので、街の解像度を高めるような方向性を目指しています。例えば、街にあるすべてのお店に入れるようにするのもひとつですね。もちろん、シナリオで広さを求められれば応えていきますが(笑)。
また、繁華街にある雀荘など、訪れたことのない人にも、訪れた人にも新たな体験を提供できるような街づくりを大切にしています。現実だと入りにくいような裏路地のお店に入れるような体験が、街全体でできればとてもワクワクしますよね。
【伊東豊】「街歩き」の要素はとても大切にしています。シナリオと直接関係なくても、食事を楽しんだり、カジノで遊んだり、サブストーリーを発見したりできるのが「龍が如く」のよさだと思うので、これからもこだわっていきたいですね。
取材・文=西脇章太(にげば企画)