みなさん、こんにちは。ファイナンシャルプランナーの高山一恵です。一昔前の時代とは違い、いまの若い世代の方で、就職したら一つの会社で定年まで働くという方は少ないのではないでしょうか。転職したり、または退職してフリーランスになったりという場合、これまで加入していた年金制度が変わる可能性があります。そこで今回は、転職、退職時に忘れがちな年金の手続きについてお話します。

働き方により加入する公的年金は異なる!

年金の手続きについてお話しする前に、まずは、公的年金の基本の仕組みについて理解しておきましょう。

公的年金は国が運営する制度で、20歳以上60歳未満の全国民に加入が義務付けられています。原則として20歳から60歳までの40年間、年金保険料を納め続ける必要があります。また、働き方によって種類が異なり、それぞれ「第1号被保険者」「第2号被保険者」「第3号被保険者」という呼び方をします。

日本の公的年金制度はわかりやすくいうと、「3階建て」になっています。基本となる1階部分が、すべての人に共通する「国民年金(老齢基礎年金)」です。
「第1号被保険者」であるフリーランスや自営業などの個人事業主、学生などは基本的にこの部分にのみ加入します。

「第2号被保険者」である会社員や公務員には国民年金に上乗せされる2階部分として、厚生年金が用意されています。保険料は会社と折半になり、毎月給与から天引きされます。「手取りが少なくなるし、将来いくらもらえるかわからないから、保険料を払うのをやめたい」なんていう声をたまに聞きますが、会社員や公務員は、実はとても恵まれています。なぜなら、2階部分は、フリーランスや自営業の人たちにはない部分ですし、なんといっても会社が半分負担してくれる保険料の分を、将来のために貯めることができるからです。

そして、「第3号被保険者」は第2号被保険者に扶養されている配偶者を指します。第3号被保険者は、1階部分の国民年金に加入しますが、自分自身で保険料を負担する必要はありません。これは、配偶者である厚生年金に加入する第2号被保険者の保険者が集めた保険料などの一部を基礎年金拠出金として毎年負担しているためです。

3階の部分にあたるのが、公的年金に上乗せできる「私的年金」です。今までは代表的な私的年金といえば企業年金でしたが、今後は、2017年より現役世代はほぼ誰でも入れるようになった「個人型確定拠出年金(iDeCo)」が代表的な存在になるでしょう。

このように、日本の公的年金は働き方によって加入する年金が異なります。ですから、会社を退職して無職になったり、結婚して夫の扶養に入ったりした場合には、加入する年金の種別を変更する必要があるというわけです。

ケース別、年金の手続きはどうなる?

では、ケース別にどのような手続きが必要になるのかを見てみましょう。

・第2号被保険者から第1号被保険者へ変更するケース
正社員で働いていた会社を退職し、無職になるというケースでは、第2号被保険者から第1号被保険者になりますので、厚生年金から国民年金へ変更することになります。

退職した翌日から14日以内に、必要書類を揃えて居住地の市区役所または町村役場の国民年金窓口で手続きをします。

必要な書類は「退職した日がわかる書類(退職証明書、資格喪失証明書など)」、「年金手帳」もしくは「基礎年金番号通知書」、「身分証明書」、「印鑑」、「通帳やクレジットカード」などです。

国民年金の保険料は毎月自分で支払う必要があります。

・第2号被保険者から第3号被保険者へ変更するケース
結婚をきっかけに正社員で勤務していた会社を退職し、専業主婦になるケースもあるでしょう。この場合、仕事を辞めて、会社員の夫の扶養に入るので、第2号被保険者から第3号被保険者になります。この場合は、厚生年金から国民年金へ変更することになります。

退職後1年間の見込み年収が130万円未満であれば、厚生年金に加入している配偶者(第2号被保険者)の扶養に入ることができます。

手続きは、夫の勤務先で行います。妻が退職した翌日から14日以内に、必要書類を揃えて夫が勤務先の担当部署に提出します。

必要な書類は「第3号被保険者関係届」「退職した日がわかる書類(退職証明書、資格喪失証明書など)、「年金手帳」もしくは「基礎年金番号通知書」などです。勤務先ごとに提出する書類は異なることがあるので勤務先に確認をしましょう。

第3号被保険者の場合、自分自身で国民年金の保険料を支払う必要はありません。

・第2号被保険者から転職後も第2号被保険者になるケース
正社員で働いていた会社を退職し、別の会社に正社員として転職するケースは、第2号保険者で変わらず、厚生年金への加入が継続します。

このケースのように転職先が法人で離職期間がなくすぐに転職をする場合には、自分で手続きをする必要はありません。厚生年金の手続きは転職先の企業が行うため、マイナンバーもしくは基礎年金番号を転職先の企業に伝えるだけで手続きは完了します。

退職の翌日に厚生年金保険は資格喪失になりますが、その月のうちに転職して厚生年金保険の資格を取得すると、年金に加入していない状態は生じません。

ただし、入社日が退職日の翌月以降になる場合は、厚生年金保険が継続されず、一時的に国民年金に切り替える必要があります。例えば、退職から転職まで月末をはさんで期間が空く場合に厚生年金保険の被保険者期間に空白ができるので、この期間は自分自身で手続きをして国民年金の被保険者になる必要があります。

手続きを忘れてしまった場合は?

基本的に年金変更の手続きは、自分で行う必要がありますが、万が一、手続きを忘れてしまったらどうなるのでしょうか?

基本的に、退職後に変更の手続きを忘れてしまった場合は、後日、国民年金加入についての案内が届きます。ですから、そこできちんと対応すれば問題はないのですが、放置して国民年金の保険料が未納の状態になってしまうと、将来の年金の金額が少なくなってしまうだけでなく、障害年金や遺族年金を受け取れなかったり、iDeCoに加入できなかったりします。

収入の状況などが変わって、国民年金の保険料を支払えないという場合には、保険料免除制度や保険料納付猶予制度を利用すれば、保険料を支払っていない状態でも、「受給資格期間」にはカウントされます。お住まいの市区町村役場の窓口で申請することができます。

年度末で転職や退職を考えている人は要チェック!

■プロフィール

マネーの賢人 高山一惠

ファイナンシャル・プランナー(CFP)/(株)Money&You取締役。2005年に女性向けFPオフィス、株式会社エフピーウーマンを創業、10年間取締役を務め退任。その後、株式会社Money&Youの取締役へ就任。お金の総合相談サイト『FP Cafe』や女性向けマネーメディア「Mocha」を運営。全国で講演活動、多くのメディアで執筆活動、相談業務を行ない、女性の人生に不可欠なお金の知識を伝えている。明るく親しみやすい性格を活かした解説や講演には定評がある。著書は『はじめての資産運用』(宝島社)、『やってみたらこんなにおトク!税制優遇のおいしいいただき方』(きんざい)、『「経済的自由」を最速で手に入れる! ぴったりの投資プランが最速で見つかる! マンガと図解 はじめてのFIRE 』(宝島社)、『パートナーに左右されない自分軸足マネープラン』(日本法令)など多数。株式会社Money&You:https://moneyandyou.jp/ FP Cafe:https://fpcafe.jp/ Mocha:https://fpcafe.jp/mocha   マネラジ。:https://fpcafe.jp/mocha/features/radio     Money&You TV:https://fpcafe.jp/mocha/features/mytv