お金に苦労せず、幸せに生きていくことを目指すこの連載。今回は、前回に引き続き山本弓枝さん(仮名・40歳 ・広告関連会社勤務)の相続税についての相談から。どんなものが相続財産にあたるのか、そしてその評価方法についての基本を紹介します。

山本さんの相談:「両親の健康状態が不安定なこともあり、弟と会うと、相続の話がよくでるようになってきました。両親は5年前に新築で家を建てて住んでいます。両親がどのくらい財産をもっているのかはわからないのですが、株取引もしているようです。これらを整理するのは大変だなと思っていて、手順くらいは把握しておきたいと思っています。

両親の家についても、相続した場合の相続税が払えるか心配です。最寄り駅から15分程度の住宅街にある一戸建てで、私ひとりで住むには広すぎるのですが、売るのももったいないと思ったり、でも相続税が高かったら売るしかないのかなと思ったり……。いくらくらいになるのでしょうか。また、相続税について、いつまでに払わなければいけないとか、節税の方法があるのかなども知りたいです。弟は結婚していて子供がいるので、孫に生前贈与してもらうのがいいのではと言うのですが、私は独身。親が他界するのも寂しくて考えたくないですが、それ以降の自分の人生はさらに心配です」

森井じゅんさんに伺ってみましょう。

☆☆☆

相続人が故人のすべての財産を引き継げるわけではない

相続とは、亡くなった方の財産を相続人が引き継ぐことです。しかし、相続人がすべての財産を引き継ぐことができるわけではありません。

相続人であっても、基本的に契約上の地位や立場、資格といったものは引き継ぐことができません。例えば、亡くなった方がある企業の部長だったとして、相続としてその配偶者や子どもがその職や地位につくものではありません。また、年金や福祉の受給権についても、受給者本人が亡くなればそこで権利は消滅します。公認会計士や税理士などの資格を故人が取得していたとしても、相続人は引き継ぐことができません。

故人が持っ ていなかっ た生前財産で、相続人が受け取ることができる 「みな し相続財産」  

一方、亡くなった方が生前財産として持っていなかったもので、亡くなった事実に起因して相続人が受け取ることができる財産を「みなし相続財産」と言います。厳密にいうと相続財産ではないけれど、相続財産とみなして取り扱います、ということです。

みなし財産の代表例として、  死亡保険金と死亡退職金があります。

被相続人が亡くなった後、死亡保険金は保険会社から、死亡退職金は被相続人が勤めていた会社から受け取るものであり、亡くなった方が生前に持っていた財産ではありません。そのため、その他の相続財産とは取り扱いが異なります。これらのみなし財産は、通常受取人が決まっています。そのため、受取人固有の財産と考えられ遺産分割の対象とはならないのです。そして相続放棄をしても、受け取ることができる点も特殊と言えるでしょう。

しかし、すべてが非課税となるわけではありません。 相続税の扱いについては、前回お話したように、一定額の非課税枠があり、それぞれ500万円×法定相続人の数については相続税の計算の対象外です。そして非課税枠を超えた部分については、そのほかの相続財産と合算し、基礎控除を超えた部分については相続税がかかります。

相続税の対象となる相続財産は?

それでは、相続できる財産の中でも相続税の対象となる相続財産とは、どのようなものでしょうか。国税庁の言葉を借りれば「金銭に見積もることができる経済的価値のあるすべてのもの」です。

これは亡くなった方の全ての財産で、プラスの財産、マイナスの財産を含みます。

プラスの財産としては、現金や預貯金のほか、株式や出資金、マンションや居宅、借地権などの不動産のほか、自動車や貴金属、美術品といった動産などが含まれます。マイナスの財産としては、住宅ローンや借金、未払いの税金などが代表的です。

これらプラスの財産とマイナスの財産を合算し、そこから葬式費用を差し引いて相続税の計算をすることになります。

ちなみに、亡くなった日から遡って3年以内に贈与された財産も、相続財産とみなされますので注意が必要です。相談者さんは生前贈与も検討されているようですね。生前贈与の注意点については次回以降で詳しくお話します。

故人のお墓、仏壇などには原則、相続税はかからない

まず、お墓や墓地、仏壇など祭祀に関する財産は原則として相続税がかかりません。ただし、投資の対象や商品として引き継ぐ場合には相続税の対象となります。少し前に話題になりましたが、相続税対策などと言って、純金の仏壇などを作っても非課税とはなりません。

加えて、故人の葬儀をした際に、勤務していた会社から弔慰金や葬祭料・花輪代などを受け取ることもあります。これは亡くなった方が生前に持っていた財産ではありませんから、常識の範囲内であれば相続税の対象外となります。しかし、金額が高額となる場合には退職手当金等とみなされ、相続税計算の対象となることがあります。

一方、会社の同僚や友人、知人等からの香典は、いただいても原則として相続税の対象とはなりませんが、香典返しは葬式費用の対象外となり、葬式費用として差し引くことはできません。

また、相続により引き継いだ財産を国または地方公共団体、その他特定法人に寄付した場合、その分の財産は非課税となります。

香典は相続税対象外だが、香典返しは自腹。



■賢人のまとめ
故人がさまざまな財産を有していても、相続できる財産と相続できない財産があります。 そ し て 、相続できる財産の中でも相続税の対象となるものとならないものがあります。 相続税の計算ではまず、相続税の対象となるプラスの財産とマイナスの財産を合算しそこから葬式費用を差し引きます。そして基礎控除を超える部分について相続税がかかります。ご両親の財産でどんなものが引き継げるのか、相続税の対象となるのか調べてみましょう。

■プロフィール

女子マネーの達人 森井じゅん

1980年生まれ。高校を中退後、大検を取得。レイクランド大学ジャパンキャンパスを経てネバダ州立リノ大学に留学。留学中はカジノの経理部で日常経理を担当。

一女を出産し帰国後、シングルマザーとして子育てをしながら公認会計士資格を取得。平成26年に森井会計事務所を開設し、税務申告業務及びコンサル業務を行なっている。