『Tシャツが乾くまで』咲子はなぜ離婚を切り出した? バツ4の妻が10年抱えていた“意外な恐怖”
好きなものよりも嫌いなものが一緒のほうが安定した関係を築ける、というケースは珍しくない。加えて、充が穏やかな人柄であることも影響したのかもしれない。しかし、それだけではないように感じる。
咲子はバツ4という過去を充に隠しており、“そのことを伝えずに結婚生活を送ってくれている充に対する罪悪感”こそが、咲子が結婚生活を続けられた一番の要因のように思う。つまりは咲子にとって充との結婚生活は、幸せな時間であるのと同時に、バツ4を黙っていることへの“罪滅ぼし”のような側面を持っていたのではないか。
◆2人の未来は地獄になるのか
ただ、この均衡は充にバツ4を打ち明けたことで崩れ去る。咲子にとっては「秘密がバレたらどうしよう」という居心地の悪さは解消され、一見追い風のように思える。実際、2人が秘密を共有して以降は、“一応は”空気感は穏やかになった。
とはいえ先述した通り、咲子には根本的な自信のなさがある。結婚相手に素の自分をさらけ出し、さらには受け入れてもらった状態は、はたから見れば素晴らしい関係性に感じる。
しかし、恋愛経験が乏しく、そういった関係性を築いた経験がない人、もしくは自分に自信がない人にとっては、「いつか見限られてしまうかもしれない」という新たな恐怖と付き合っていかなければいけないことを意味する。
咲子にとって今後の充との結婚生活は、ありのままの自分を見せ続けなければいけない“地獄”が待っていると悟り、その未来に耐えかねて離婚という逃げ道を初めて自分から提案したのではないか。結局のところ、咲子にとっては「嘘を抱えている」という居心地の悪い関係のほうが居心地が良かったのかもしれない。
◆言いたいことを言わないのも重要
「嘘はダメ。でも、言いたくないことは言わなくていい」という“契り”が結婚生活の延命措置として機能していたが、充の失踪をきっかけに言いたくないことを言わなければいけなくなった。そこが2人のゴール地点だったのだろう。
嘘や言いたくないことも誰にでもある。ただ、適度にそこをぼかすことが結婚生活、ひいては人間関係には必要なのではないか。とはいえ、嘘や言いたくないことを胸の中にしまい続けることはしんどい。だからこそ、それらを共有できる月に一度、特定の場所でしか会わない存在の必要性も感じる。
<文/望月悠木>
【望月悠木】
フリーライター。社会問題やエンタメ、グルメなど幅広い記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている。X(旧Twitter):@mochizukiyuuki
