◆ドラマのため、2か月で10キロ以上の減量も

 それでも玉森さんは自分のため、グループのため、実直に己を磨くことをやめませんでした。一昨年の『あのクズを殴ってやりたいんだ』(TBS系)で元ボクサーを演じた際には、ドラマ撮影とグループ仕事を同時進行しながら、味のないささみやスープでカロリーを制限し、2か月で体重を10キロ超も減量。女性を沼らせるクズ男を好演しました。

 ただ、どんなに自分を鍛錬しても、当たり作品やハマり役に出会えなければ正しい評価を得られないのが厳しい俳優の世界。前期日曜劇場『GIFT』(TBS系)では、本筋の車いすラグビーとは関係ない役柄で、母親役の山口智子さんと共に物語に必要ないのではないかと言われたこともありました。

 玉森さん自身は音楽を志す青年を生き生きと表現していたのですが、車いすラグビーチームの味方、敵、スタッフなど登場人物が多すぎたため、異質な存在になってしまったのかもしれません。

◆『マイ・フィクション』主人公と重なる苦悩

 そして7月よりスタートした主演ドラマ『マイ・フィクション』。周囲の企てなのか、主人公が記憶障害なのか、それを演じているのか、観る者には不明瞭で、不穏な空気感と共にありふれた日常が壊れる恐ろしさを描き、回を増すごとに注目度が上がっています。

 主人公は、愛する妻や職場の人々に自分の存在を証明しようと立ち回りますが、自身の記憶と他者の記憶がすれ違うばかり。

 玉森さんは他者から押し付けられる二つの人格を行き来しながら、平凡な男の崩壊と再構築という極めて難しい役を、表情や声色に細微なグラデーションをつけありありと体現しています。

 この主人公の苦悩や葛藤は、玉森さんの長年の下積みや脇道を歩かされたグループでのもがきがあるからこそ、リアルに描けるのだと思います。

◆24年という歳月をかけて美しく進化

 そして、玉森さんが俳優として培ってきた透明感や儚さが、主人公の「信じてほしい」という切実さを増幅すると同時に、彼を応援したい気持ちと疑ってしまう気持ちを視聴者に同居させている。単純に怒ったり叫んだだけでは成し得ないことを、繊細な表現の積み重ねによって成立させているのです。

 24年という歳月をかけて、泥臭く、しかし美しく進化を遂げた玉森さん。どんな困難にも全力で取り組んできたからこそ、玉森さんがこの作品、この役をたぐり寄せた。

 そして今作で、ただのアイドル俳優ではなく、物語の中心になれる実力派主演俳優として、正しく再評価されているのだと思います。あとは、種明かしでガッカリすることなく、今作が評判通りに美しい着地を見せてくれることに期待したいと思います。

<文/こじらぶ>

【こじらぶ】
ライター・コラムニスト。上智大学大学院外国語学研究科修了・言語学修士。ドラマ、男性&女性アイドル、スポーツ、エンタメ全般から時事ネタまで。俳優、アイドルなどのインタビューも。X: @kojirabu0419