愛犬リリーと私
 2010年にTBSに入社し、『朝ズバッ!』『報道特集』などを担当したのち、2016年に退社したアンヌ遙香さん(40歳・以前は小林悠として活動)。

 20年間生活した東京をあとにして、故郷北海道で自然や犬との気ままなシンプルライフを楽しむアンヌさん。本連載では、40代の今だから感じる日々のあれこれを綴ります。
 第94回となる今回は、ある映画作品をきっかけに「持ち家か、賃貸か」について綴ります(以下、アンヌさんの寄稿です)。

◆スリラー映画『隣人たち』を見て

 私の最近の人生のテーマ。持ち家か、賃貸か。

 この度そのことを深く考えさせられる映画を拝見し、思考がぐるぐるしているわけです。アン・ハサウェイとジェシカ・チャステイン主演のスリラー映画『隣人たち』。7月24日より全国で順次公開されています。

 舞台は1960年代のアメリカ。クラシカルなファッション、美しい住宅街、絵に描いたような穏やかな暮らし。その景色だけでも十分見応えがあるのですが、この映画は「隣人」という、誰もが避けて通れない存在を題材にしています。(少々ネタバレ含みかねないのでご注意ください)

 隣同士に暮らす二つの家族。アン・ハサウェイとジェシカ・チェスティン演じる母親同士は親友で、子ども同士も同い年で大の仲良し。家族ぐるみでパーティーを開き、お互いの家を自由に行き来するほど親密な関係でした。

 しかし、ある日、その平穏は突然終わりを迎えます。

 アン・ハサウェイ演じるセリーヌの息子が木に巣箱を取り付けようとして転落し、命を落としてしまうのです。たまたまその現場を目にしていて助けようとした隣人のアリス(ジェシカ・チェスティン)でしたが間に合わず、それ以降アリスはセリーヌから憎まれているのではないかという感覚を抱くようになります。

 そこから物語は、「事実」と「思い込み」、「直感」と「妄想」の境界線が少しずつ曖昧になってゆきます。

◆持ち家に感じる「怖さ」とは

 原題は『Mothers’ Instinct』。つまり「母親の直感」。

 女性の「なんとなく嫌な予感がする」という感覚は、(私の経験値では)ほとんど当たっているわけですが、その直感は、本当に危険を知らせるサインなのか。それとも悲しみや過去のトラウマが生み出した妄想なのかが物語ではなかなかわかりにくくなっており、最終的にそれはある悲劇へとつながっていきます。

 最後まで目が離せない傑作スリラーでしたが、私がつくづく感じたのは……「お互い早く引っ越ししていればこんなことにはならなかったろうに……もっと早く決断していれば……」ということ。

 今、私の中で「家を買うか、賃貸で生きるか」は大きなテーマになっています。

 40代になると、「そろそろ持ち家を」という話は嫌でも耳に入りますし、老後を考えれば、持ち家は安心材料になるのは確か。家賃を払い続けるより、住宅ローンを返したほうが資産になる、という考え方も理解できます。そのとおり。

 一方で私は、「ものや場所に縛られることの一種の怖さ」ということを考えてしまうのです。

◆家は安心を与えてくれると同時に、人生を固定してしまう

 私はこれまで何度も、ものの手放しや大々的な整理整頓をしてきました。

 東京から北海道へ戻るときも、たくさんの物や事柄を手放したっけ。仕事柄、過去には数々の現場を体験してきたことも相まって、「物は自分を豊かにする一方で、時には自分を縛るものにもなる」と考えるようになったのもたしか。

 生きる場所の選択は、人生においてもっとも重要な選択の一つともいえます。実際、私は20年間暮らした東京を離れ、北海道へ戻る決断をし今に至りますが、あのとき、さまざまな「モノや事柄」を手放したからこそ現在の生活があります。