バスでおばさんが“ハンバーガーとポテト”を食べ始めた! 匂いに困る乗客を救ったのは…小さな女の子の「可愛いひと言」
今回は、バス内でそんな光景に出会った女性のエピソードをご紹介しましょう。
◆バスでいきなり、ファストフードを食べ始める女性
ある日の午後、佐藤美結さん(仮名・32歳)は、買い物帰りの路線バスに揺られていました。
窓の外にはゆるやかな街並みが流れ、車内はどこかのんびりとした空気に包まれていたそう。
ふと視線の先に入ったのは、窓側の席に座るひとりの女性でした。
◆車内に広がる、あの匂いと違和感
「すると突然、50代ぐらいの少し派手めなスカーフをしたおばさんが、大きな紙袋からハンバーガーとポテトを取り出して、どこか慣れた様子で食べ始めたんですよね」
自分のセンスを大切にしていそうな雰囲気のその女性は、まるで自宅のリビングにいるかのように自然な手つきで包装を開いていきます。
袋を開けた瞬間、ふわっと広がる強めの匂い。
「ああ、あの匂いだってすぐ分かるやつです」
嗅いだだけでお腹が空くようなファストフードの匂いは、一瞬で車内に広がりました。女性は周囲を気にする様子もなく、スマホを片手に、ポテトをつまんではゆっくり口に運び、小さく満足げに頷いていたそう。
「悪い人ではなさそうなんですが……ここで食べなくてもよくない? 感がすごかったんですよね。他の乗客も、コソコソざわついていました」
視線を向ける人、ひそひそと囁き合う人。しかし誰も注意することはなく、どこか見て見ぬふりの空気が流れていました。
◆小さな一歩と、まっすぐなひと言
その時です。前の座席に座っていた小学校低学年くらいの女の子が、ぴょこんと立ち上がりました。小さな体で一歩前に出ると、迷いのない足取りで女性の方へ近づいていきます。
じーっと女性の手元を見つめながら「ねえ、それ、マックのポテトでしょ?」と、まっすぐな声で話しかけました。
「おばさんが不思議そうに『そうだけど……』と答えると、女の子は、ぱあっと顔を明るくして『私も大好き! その匂い、みんなお腹すいちゃうね』と遠慮のない言い方で、ただ好きが溢れている感じが伝わってきましたね」
無邪気でまっすぐで、少しも悪気のない言葉。その笑顔に、女性の表情もふっとゆるみました。
◆やさしく伝える、もっといい選択
女の子はさらに一歩近づき、少し首をかしげながら「でもここだと、ゆっくり食べられないし、持って帰って匂いも全部独り占めした方がいいよ。もったいない」と優しく続けたそう。
その言い方は、まるで「もっといい楽しみ方があるよ」と教えてくれているような響きでした。
「その言い方がまた絶妙で。注意でも否定でもなく……上手いこと言うなと感心してしまって。私はおばさんがこの後どうするのかに目が釘付けになってしまったんですよ」
女性は一瞬だけ周りを見回します。さっきまで気にしていなかった視線の存在に、ようやく気づいたようでした。そして自分の手元のポテトを見て、少しだけ照れたように苦笑いを浮かべたそう。
◆空気が変わった、やさしい結末
「そうだね、そうしようかな。お家でゆっくり食べる方がいいよね」そう言うと、女性は素直にポテトの袋を閉じ、丁寧に紙袋へ戻しました。その仕草には、どこか可愛らしさすら感じられました。
女の子は満足そうに「そのほうが絶対おいしいよ!」と、うんうんと頷きながら嬉しそうに自分の席へと戻っていったそう。
「するとおばさんは次の停留所に着く前に、女の子の方を見て『教えてくれてありがとね』と小さく笑ってバスを降りていって……やっぱりおばさんはマイペースなだけで、悪い人じゃなかったんだと確信したんですよね」
その後の車内は、不思議なくらいやわらかい空気に包まれ、さっきまでのざわつきは消え去り、どこか穏やかな一体感のようなものが流れていました。
「女の子は、何事もなかったみたいに窓の外を楽しそうに眺めていて。なんだか、それがすごくかっこよく見えたんですよね」
小さな一言が空気を変えた、優しい出来事。その余韻は、しばらく車内に残り続けていたのでした。
<文・イラスト/鈴木詩子>
【鈴木詩子】
漫画家。『アックス』や奥様向け実話漫画誌を中心に活動中。好きなプロレスラーは棚橋弘至。著書『女ヒエラルキー底辺少女』(青林工藝舎)が映画化。Twitter:@skippop

