月に2回家に来て、関係だけ持って帰る浮気男。女が思いついた復讐とは
恋に仕事に、友人との付き合い。
キラキラした生活を追い求めて東京で奮闘する女は、ときに疲れ切ってしまうこともある。
すべてから離れてリセットしたいとき。そんな1人の空白時間を、あなたはどう過ごす?
▶前回:平穏な毎日にうんざり。刺激を求める28歳独身女が、ご褒美旅行で向かった先は…

Vol.21 東京では、普通のOLじゃ主役になれない?
昨年12月。私の彼氏・徹の結婚を知ったのは、たまたまフィードに流れてきたInstagramの投稿だった。
彼の顔にはモザイクがかかっている。
でも私にはわかる。この2年間、ずっとデートを繰り返してきた人の顔くらいモザイクがかかっていてもわかる。
相手はそれなりにフォロワー数もいるインフルエンサーで、私はフォローしていなかったけれど名前は聞いたことがある。
しかも彼女は、ホテルのスイートルームでプロポーズされた様子や、お揃いの指輪まで載せている。
― ……どういうこと?
頭が追いつかない。たしかに最近、彼からの連絡は減っていた。それでも私たちは付き合っているはずだった。
混乱している頭の中を整理して、ようやく私は現実を理解し始めた。
私は彼にとって、ただの“セカンド”であり“遊び相手だった”ことに…。
個性を放たないと主役ではなく、脇役や背景と化す街・東京
「え!!!徹くん、結婚したの?…莉子、嘘だよね?」
一人ではこの事実を受け止めきれず、翌日仕事終わりに親友の真夏を『ファーム スタジオ #203』まで呼び出した。こういう時に、パァッと一緒に飲んでくれる親友がいてくれるのは本当にありがたく、唯一の救いだ。

「なんで私、気がつかなかったんだろう…」
でも、不可解な点はいくつもあった。
付き合いはじめは毎週末会っていたのに、最近は多くても月に2回程度。しかも私の家に直接来たと思ったら、やることだけさっさと済ませて帰っていく…。
泊まることもあったけれど、絶対にお昼まではいない。
「『別れよう』とかも言われなかったの?」
せめてその言葉があれば良かった。でも徹は何も言わなかったし、未だに何も言ってこない。
「私って、徹の何だったんだろう…」
悔しくて悲しくて、涙が溢れてくる。
でもどこかでわかっていた自分もいる。徹は27歳の時に、華やかな人たちが集まることで有名なIT関連の会社から独立。「いつか上場をする」というのが夢だった。
周囲も派手だったし、自分もそのレベルにいきたかったのだろう。上昇志向も強く、いい意味でも悪い意味でもミーハーだった。
「女優さんが一般人と結婚した」なんてニュースを見るたびに、「いいな〜俺も上場すれば結婚できるのかな」と平気で言うようなタイプだったから。
だから彼が普通のOLの私ではなく、キラキラしたインフルエンサーの彼女との結婚を選んだことも何となくわかる。自分自身のブランディングにプラスになると思ったからだろう。

「なにその男!最低じゃない!!」
親友の真夏が私以上に怒ってくれているので、少しだけ気が紛れる。
でも真夏にも言えないけれど、自分の中ではわかっている。徹からすると、私はただの都合の良い女。
埼玉県の中流家庭出身で、立教大学卒業後は日系の有名企業に入り、今は学芸大でひとり暮らし。
年収500万の33歳。外見も中身も悪くはない。でもずば抜けて目を引くほどではもなく、特筆すべき個性や肩書もない至って平凡な私。
今回の結婚で、改めて徹から「莉子は普通でつまらないし、俺にとっては力不足」と言われた気がしてならなかった。
「なんでこうなったんだろう…私の個性って、何だろう」
「個性?どうしたの、突然」
「東京にいると、埋もれるなと思って。普通に幸せに暮らしているだけじゃ、この街には受け入れてもらえない気がして」
東京の街は大好きだ。
でも誰にも真似できないような秀でる個性や、一部の人のみに与えられたような特別なキラキラ光るオーラを放っていないと、この街ではただの脇役でしかない。
― 私、変わりたい…。とにかく徹を見返してやりたい。
私の中でフツフツと、静かな欲望の炎が燃え始めた。そして私は、ある場所の門を叩いた。
金曜の仕事終わり。私はいつもの場所にいた。
「莉子さん、あと2セットいきましょう!」
「……は、はい。でも先生、結構限界です」
ダンベルを持った手が既に震えている。でも先生は容赦ない。
「限界の先に見える未来があるんです(笑)。ほらいきますよ、頑張って!」
私が門戸を叩いたのは、パーソナルトレーニングジムだった。
最初は、ただただ辛いだけだった。運動なんて学生以来やってこなかった。別に細いわけでもないけれど、太っているわけでもないので必要ないと思っていた。
ただ確実に、20代後半の時より痩せにくくはなっている。そして昔に比べて、お尻も胸も垂れてきたのは紛れもない事実。
でもそんな現実に「まだまだ大丈夫」と言いながら、私はずっと目を背けてきた。
「莉子さん、この3ヶ月でだいぶ変わってきたじゃないですか。筋肉は裏切りませんから!」
週に2回、仕事終わりに熱血先生のトレーニングを受けているおかげで私はかなり変わった。
体重にそこまでの変化はないけれど、まずお腹が引き締まり、そしてお尻が上がった。

そして以前は疲れやすい体質だったけれど、筋トレのおかげで体力がつき、時間があるときは走るようにもなった。
ランニング中は完全に無になれる。
好きな音楽を大音量で聴き、流れゆく景色とともに季節を感じながら走ると、自分だけの時間が完成する。
「はぁ、はぁ…」
息を切らしながら走ると、ちっぽけな悩みは汗と共に流れていく。そしていつも見ている景色さえ自分の物語を彩る背景となり、特別なものに見えてくる。

「なんか…莉子、変わったね」
真夏と1ヶ月ぶりくらいに会い、真っ先にそう言われて思わず嬉しくなった。
「そう?ちょっと痩せたかな」
「体型もだけど、それより表情が明るくなった。それに可愛くなった!」
「本当に?嬉しいな〜」
トレーニングをして、走ることで自分に自信が持てるようになった。今までどこかでずっと不安だった。「私なんて」が口癖だったように思う。
でも自分だけの世界を、この大都会・東京で見つけられてから私は強くなった。
街中どこでも、走ることでそこが私だけの世界になる。
昼でも夜でも、誰にも邪魔されない自分だけの時間…。
「そういえば、最近会社の先輩から、食事に誘われて」
「いいじゃん!どんな人?」
「優しくて、すごくいい人で…」
肌寒くてツンとした空気だった冬から春を経て、気がつけば太陽の光が燦々と降り注ぐ夏になっていた。
何より徹のことなんてまったく考えず、思い出すことさえなくなった。
どこにいても関係ない。まずは自分自身を好きになってあげること。自分に自信を持つこと。そのためには何かをまずやってみること…。
そうすることで同じ景色でも、見えてくるものも気持ちも変わると気がついた。
▶前回:平穏な毎日にうんざり。刺激を求める28歳独身女が、ご褒美旅行で向かった先は…
▶1話目はこちら:見栄を張ることに疲れた30歳OL。周囲にひた隠しにしていた“至福のご褒美”とは

