人気ブロガーの裏の顔。真っ赤な嘘をブログに晒し続ける女の、人には言えない実態
女は、息を吐くように嘘をつく。
それは何かと敵の多いこの世の中で、力に頼らず生き抜くために備わった、本能ともいうべき術なのだ。
それゆえ女の嘘は自然であり、かつ巧妙。特に男が見破ることなどほぼ不可能である。
これは、日常の彼方此方に転がる“女の嘘”をテーマにした、オムニバス・ストーリー。
前回は高齢処女であることをひた隠しにする女・愛美をご紹介したが、今回は…?
第5話:人気ママブロガー・Aki
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学生時代の友人、真理子の結婚式についての内容で、特別多いわけではないですが。まあ、まずまずです。
それにしても、あの真理子が医者と玉の輿婚するなんて、とっても意外でした。
元々性格も頭も特別良いわけではなかったと思います。看護実習前にユニフォームの採寸をした時も、確か彼女は一番大きいサイズだったはず。
それでも医者と結婚できるんですから、世の中って不思議なものですよね。
不思議といえば、今の時代にまだブログを書いていることを、疑問に感じられる方が多いと思います。
もちろん最近は、インスタなどのSNSが主流なんてことは、わかってます。私だって、たまにインスタ使っていましたから。
インスタに求められているものって、一瞬のインパクトなんですよね。バッと燃え上がってすぐ消える、まるで現実味のない、加工された虚像。
話題のスポットで撮影された、異常なくらい鮮やかな写真と縦並びにされると、私の投稿は誰の気にも留められず、高速でスクロールされていく。そんなことが続いて、だんだん虚しくなってしまったんです。
でも、ママとしての悩みや子育てのTipsは、ひとりで抱えているよりもいろんな方と共有したい。そう思って、テストのつもりでブログを開いてみたんです
最初の半年は、ぱっとしませんでしたけど。ブロガーネームを本名の明恵からAkiに変え、心機一転した頃から読者の方との交流が盛んになってきたんです。
やっぱり、文章だとしっかり人となりが伝わるんでしょうか。悩みには共感してくださって、小さな努力も、読者さんは見逃さず褒めてくださいます。
今ではそんな皆様に支えられ、登録読者数は3,000人を軽く超えました。ありがたい話です。
そして今度、さらに嬉しいことに、一番の仲良し読者さんと直接お会いすることになったんですよ。
今までもオフ会のお誘いはほうぼうから頂いていましたけど、人見知りな私は、実際に読者さんにお会いするのはこれが初めてです。
その方、yuiyuiさんとおっしゃるんですけど。人気ブロガーで、ハーブを使った健康法を紹介されている、とっても有名な方です。
私たちは、1年前から頻繁にコメントやメッセージのやりとりで交流を深めてきました。そんな彼女から「憧れのAkiさんに、一度お会いしたいです」なんて、ブログ上でお誘いを受け、決心したのです。
お会いするからには、絶対に期待は裏切れない。
その準備で動き回っていたので、疲れてしまって今日の夜ご飯は手抜きしちゃいましたけど。
誰にでも、そんな日はありますよね。
え?夫がどう思っているかって?それは…
一方、明恵の夫はブログのことをどう思っているのか?
夫が語る、人気ブロガーの裏の顔
「…これだけ?」
妻を怒らせたくはありません。だけど、白飯と明太子だけの食卓を見て、つい声に出してしまいました。
僕だけなら我慢すればいいのかもしれませんが、5歳の娘の夕食がふりかけご飯だけなんていうのは、ひどい話だと思いませんか?
「文句あるんだったら、コンビニでも何でも行ってきたらイイじゃないっ!」
妻の姿は見えませんが、金切り声が、台所の方から聞こえます。
たっての希望でオープンキッチンにリフォームしたというのに、カウンターには古い雑誌や空のペットボトルがうず高く積まれていて、もはや何の意味もなしていません。
妻は、向こう側でパソコンに向かっているのでしょうか。苛立ちのオーラが、ダイニング全体に立ち込めています。
ーこれ以上、この家にいたくない。
茶しぶまみれのマグカップで水を飲もうとしていた娘を抱き上げて、黙って家を出ました。
「パパ、あのね。」
ファミレスからの帰り道、僕の手をぎゅっと握りながら、娘が呟きます。
「あのね、おうちではなちゃんとお遊びしたいってママにお願いしたら、怒られちゃった。」
はなちゃん。会ったことはありませんが、娘のお友達の名前です。
家を片付けるのが面倒臭いとか、そういう理由なのでしょう。娘の目から涙がポロリとこぼれるのを見て、僕の足はピタリと止まりました。
妻とは出会って半年で妊娠が発覚し、籍を入れました。世界一愛しい娘を産んでくれたことに感謝はしていましたが、もう限界かもしれません。
「デザート、食べに行こうか。」
これ以上娘に悲しい思いはさせたくない。僕ははしゃぐ娘と一緒に、そう遠くない実家に向かうことにしたのです。
わたしは、Aki。憧れのブロガー
「あの、Akiさんですよね?」
表参道に新しくできたというホテルのラウンジで、わたしを呼ぶ声が聞こえます。
頭の中で何度もシュミレーションした通り、余裕を持った仕草でゆっくりと振り返ると、そこには小柄な女性が立っていました。
「yuiyuiこと、ユイと申します。…Akiさん、想像通りステキな方ね!」
今日のために服は新調し、ジュエリーとバッグはレンタルしました。こんな機会がないと知ることもなかったでしょうが、今はいろんなシステムがあるんですね。
諸々経費はかさみましたが、期待を裏切らずに済んで、心からホッとしました。
ユイさんは、想像よりも少し年齢が上の方でしたが、それはもう盛り上がりましたよ。
過去の記事のこともよく覚えていて、たくさんお褒めの言葉を頂きましたし、子育てや仕事のことまで色々語り合い、まるで昔からの親友に再会したような、そんな感覚でした。
家に着いてすぐ、わたしは埋もれたコンセントを探し出し、急いでパソコンの電源を入れました。
yuiyuiさんからいただいた素敵なギフトのこと、新しいホテルの茶葉の種類がとっても充実していたこと、そして何より、この出会いに対する感謝の言葉。
数時間かけて書き上げた記事には、すぐにyuiyuiさんからのコメントが付きました。
『ギフト、喜んでいただけてとっても嬉しいです!ブログのタイトルの通り、楽しい子育てを実現されているAkiさん。素敵なママで娘ちゃまが羨ましい!』
ああ、良かった。yuiyuiさんにご満足頂けたようで、ホッとしました。
明恵がブログに依存し続ける、そのワケとは。
「明恵ちゃん、何で連絡してくれないのよ!」
母親というものは、なぜこうも突然なのでしょうか。
来るときには前日までに連絡してと再三再四言っているのは、こちらの方なのに。
「あちらのお母さんから連絡があって、びっくりしたわよ!明恵ちゃん、あなた、こんな汚い家にいて、頭がおかしくなったんじゃないの?!」
母が驚くのも、まあ無理はありません。娘がまだお腹にいるときに購入した建売住宅は、足の踏み場もないほど散らかっていますから。
「可愛い娘が帰ってこないんだもの、気もおかしくなるのはわかるけど。…娘を連れて旦那が実家に帰っちゃうだなんて。明恵ちゃん、一体どうなってるの!?」
私だって、自分が今どんなに辛い状況に置かれているか、よくわかっています。
あの日、娘が帰ってこないことに気付いて、私は主人に連絡しました。母親失格の私に娘は任せられないから一人で反省するようにと、あっさり電話を切られましたけど。
たしかに、あの日はあまりにも疲れて夕飯は手抜きになりましたし、掃除もあまり得意でないので、必要なところ以外は乱雑になっていたかもしれません。
だけど私だって、娘を喜ばせるために人参をお星様の形にしたり、苦手なピーマンを食べられるように細かくしてカレーに混ぜたり、色々努力しています。
好奇心旺盛なあの子が怪我をしないように、家具の角という角に全部プロテクターを貼ったのも私です。いつもおもちゃを壊してしまう暴力的な子から、娘を守っているのももちろん私。
夫は、気づきも褒めもしませんけど、別に私はいいんです。ブログでは、Akiは素敵ママとして認めて頂いてますから。
「もうこんなことのないよう、しっかりね。」
喚きながら部屋を片付けていた母ですが、近く夫と娘が帰ってくることを告げると、少し安心したように帰って行きました。
…ああ、疲れた。
床に落ちていた袋を母がテーブルに置いたのでしょう。yuiyuiさんがネットショップで販売しているというハーブキャンディーが目に入り、一粒口に運んでみました。
苦くて、全然美味しくない。こんなものが4,000円もするなんて、不思議です。
本当は、yuiyuiさんの目論見だって、私には分かってるんです。
彼女は、人気ブロガーのAkiに自分のネットショップの紹介をして欲しいだけ。そのために近づいてきたに決まってます。
だけどね、満たされた人生を送るブロガーAkiは、そんな黒い魂胆を見ようとはしません。
読者さんも、私の不幸な日常よりも、Akiの充実した毎日を求めているはず。現に、明恵の本音を綴っていたあの頃のブログなんて全然人気もないし、誰も気に留めていませんでしたからね。
だから私は、Akiになろうと決めたんです。
ブログに嘘なんて、書いていませんよ。
書かれている日常は、私ではなく、Akiのものなのですから。
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