カプセルホテル風に仕切られたドミトリー。2段ベッドの上段には階段も

写真拡大

1年365日、いつでも旅行者を新鮮な気持ちで出迎えたい。そして、一人ひとりに心に残る特別な1日を過ごしてほしい。そんな願いを込めて命名された「SOCIAL HOSTEL365(ソーシャルホステルさんろくご)」は札幌のゲストハウス。旅人同士だけでなく、旅人と地域の人も交流できるトラベラーズラウンジを併設したゲストハウスを「ソーシャルホステル」と名付け、新しいジャンルの宿泊施設として広めたいと考えたのは、二人のオーナー・佐々木壮一さんと大畑俊介さんだ。

ゲストと地元の人が交流できる1Fラウンジで、さまざまなイベントを開催

今年で開業して3年。これまで数多くの交流イベントが催されてきた。宿の前でひなたぼっこをしながら通行人に挨拶する「おはようテラス」に、朝のランニング。英会話と日本語の勉強会と飲み会を兼ねた「NOMIKAIWA」。朝のランニング企画。キャンドルナイトに音楽ライブを開催したり、十勝の牧場から仕入れた肉や、スタッフが作るメキシコ料理などをメインにパーティーを開いたり。日本の家庭料理を作るお料理ナイトや書き初め、初詣など、日本文化に親しむ機会も、海外から訪れた旅人たちに喜ばれた。

 気が付けば、滞在中の旅人と地元の人が親しくなって飲みに行ったり、観光に出かけたりするようになった。海外から来日して住み込みで働き始めたヘルパーが、キッチンで日本人スタッフと一緒に仲良く食事を作って、ブログにアップすることも。旅行者とスタッフと地元の人。それぞれが交流を重ねながら、新しいコミュニケーションの場を生み出してきた。

佐々木さんと大畑さんは、中学生時代から長い付き合いの親友同士。佐々木さんは十代の頃に上京し、働いてお金を貯めては、アジア、アメリカ、オセアニアなど世界各国を旅してきた。札幌に戻ってきてからは、旅行系フリーペーパーを発刊するなど、旅と関わり続けられる仕事を探し、ゲストハウスとカフェを運営する会社で働き始める。

佐々木さんは海外のバックパッカー生活の楽しさも、ゲストハウスで働くやりがいも知っていた。一方、大畑さんは札幌の大学を卒業後、サラリーマン生活を送り、もっと面白い仕事がしたいという願望があった。ゲストハウスで旅人と交流する楽しさを生き生きと語る佐々木さんに、大畑さんはある日突然「一緒に宿をやろう」と言いだした。

佐々木さんは旅人にとって大切なのは、人と人との出会いだと考えていた。自分自身の旅を振り返った時、思い出すのは現地で出会った人たちのことばかり。親切にしてくれた人に、道を案内してくれた人。札幌のゲストハウスで働き始めてからは、旅人の楽しい話を自分たちスタッフしか聞けないのはもったいない、地元の人にも聞かせてあげたいと思うようになった。その一方、札幌は北海道旅行の通過点という感覚で、小樽や富良野などに向かう旅行者が多く、札幌を旅人にとってもっと魅力的な街にしていくにはどうしたらいいのだろうとも考えていた。

佐々木さんはこう思った……。札幌を訪れた人に札幌で友達を作ってもらえばいい。そうすれば、また札幌に来たいと思ってくれる。旅行者が地元の人と仲良くなれる場を作ろう。旅人が宿で講演会やワークショップなどを開いて、集まった人の参加費を宿泊費に回せるようにできたら、旅行者を金銭面で支援できるし、地元の人たちは普段接する機会のない人から非日常的な面白い話を聞ける。

どんなゲストハウスをやりたいか、イメージは固まったが、佐々木さんも大畑さんも、まだ20代なかば。資金はない。銀行から融資を受けられるような実績も担保もない。それでもオープンに漕ぎ着けられたのは、人の輪に助けられたおかげだ。

必要な資金の1割程度の金額ではあったが、クラウドファンディングで109人もの人たちが支援してくれた。改装してゲストハウスにできるような一戸建てはなかなか見つからないが、札幌で長年愛された老舗とんかつ専門店「とんかつ井泉」の住居兼店舗を使えることになった。知り合いの業者さんがハンマーやバールなどの解体道具と、産業廃棄物を捨てに行くためのトラックを貸してくれた。何人もの友達が、解体工事や塗装を手伝ってくれた。工事中の現場に遊びに来て、差し入れを置いていってくれた人もいる。ロゴを作ってくれたのは、イギリス在住の友人だ。そして、2014年12月。二人の夢を形にした地域交流型ゲストハウスがオープンした。

これまでになかったスタイルという点では、客室の設計もユニークだ。上下2段の寝棚にカプセルホテル風の間仕切りを設け、ダブルベッドサイズの広い空間でプライバシーを保てるように工夫した。さらに断熱材で防音性を高め、すべてのユニットに荷物の収納スペースや照明、コンセントを設けている。上段の人は上り下りしづらいはしごではなく、階段を使える。佐々木さんが海外で60軒近いゲストハウスに泊まった時、気になっていた狭さや物音、開放的過ぎて落ち着かない雰囲気を、少しでも居心地が良くなるように変えたいと、プロの建築士に相談した成果だ。

心地良いスペース。楽しい出会い。宿を離れてからも続く交流。旅人に贈りたい幸福の種は、着実に芽吹いている。「ありがとう」「また来るね」。そう告げて旅立つゲストたちのうちの誰かがここに帰ってきて、スタッフとして旅人を迎える日がまた来るのだろう。

SOCIAL HOSTEL365(ソーシャルホステルさんろくご) ■住所:札幌市中央区南5西9-1019-16 365ビル2F ■電話:011・206・8569 ■時間:IN15:30〜23:30/OUT11:00 ■宿泊料:1人1泊3,650円〜(北海道ウォーカー・三本木香)