毎年、冬の寒さが本格化すると、「流行注意報」や「猛威」などのキーワードとともに、インフルエンザについてのニュースをよく耳にします。大人はどういったことに気をつければいいのでしょうか。大阪府内科医会理事で今井内科小児科医院(大阪府狭山市)の今井真院長に、予防接種や受診の目安など、「インフルエンザの4つの疑問」について尋ねてみました。

インフルエンザ予防接種の受ける意味は?

--はしかや結核のワクチンとは違って、インフルエンザは「毎年」のように予防接種を受けるように勧められるのはなぜですか?

今井医師:はしか(麻しん)の予防接種や結核を予防するBSGワクチンを毎年受ける必要がないのは、ウイルスに対する免疫が長く続くからです。

インフルエンザワクチンの場合は、予防効果が期待できるのは、接種した2週間後〜5カ月程度までと考えられています。また、インフルエンザのウイルスは大きくA型、B型、C型の3種に分類され、特にA型は、毎年少しずつ変異しながら流行を繰り返します。そのため、その年ごとに予測してワクチンが作られます。

これらの理由によって、インフルエンザウイルスへの免疫を保つために、毎年、流行する前に予防接種を受けることが推しょうされています。

--予防接種を受けてもインフルエンザにかかることがあるそうです。接種の意味はあるのでしょうか?

今井医師:「予防接種を受ければ、絶対にインフルエンザにかからない」というわけではありません。先にお答えしたとおり、接種してから免疫ができるまでに2週間ほどの時間がかかることや、予防接種の型と感染したウイルスの型が完全に一致するとは限らないからです。

さらに、体内に侵入したインフルエンザウイルスは増殖します。それを完全に抑えることはできません。

ただし、ワクチンを打っている場合はウイルスが増殖するのを抑えるので、インフルエンザにかかっても軽症ですむ、また、肺炎や脳症などの重い合併症にかかるのを防ぐことができるわけです。

病院に行くタイミングは?

--高熱が出たら、インフルエンザだと思ってすぐに病院へ行った方がいいですか?

今井医師:発熱をしたからインフルエンザだとは限らず、風邪の場合もあります。症状が比較的軽く、自宅で安静にして療養できる場合は、受診しなければならないというわけではありません。

また、問診をしてインフルエンザに感染した可能性がある場合は、のどや鼻をぬぐって簡易検査を行いますが、発症後すぐはウイルスの検出量が少ないため、「陰性」になる場合もあります。半日経過しても熱が下がらなければ、翌日にもう一度受診して再検査を指示する医師もいます。簡易検査はあくまでも診断をサポートする検査で、最終的には症状と流行の状況などを総合して医師が診断します。

ただし、「半日以上、38度以上の高熱が続く場合」は、早めにかかりつけ医や内科を受診しましょう。けいれんしている、意識がもうろうとしているなどの救急の状況でなければ、深夜の夜間救急を受診する必要はありませんが、水分の摂取を忘れずに、日中、医療機関が開業している時間帯に受診しましょう。

熱が下がったら出社してもいいの?

--インフルエンザに感染後、熱が下がったら出社してもいいですか?

今井医師:一般的に、安静にしていれば熱は1〜3日程度で下がりますが、インフルエンザウイルスは発症後3〜7日間は体内に残っていると考えられます。「熱が下がったから、インフルエンザが治った」とは言えません。

学生の場合は、学校保健安全法で「発症した後5日を経過し、かつ、解熱した後2日(幼児にあっては、3日)を経過するまでは出席停止」と定められています。

おとなが会社に行く場合についての法律はありませんが、熱が下がってもせきやくしゃみが続いている場合はなるべく出社を控えて、2日程度は安静にしましょう。

どうしても出社の必要があるという場合は、必ずマスクを着用して周囲の人へうつさないように配慮しましょう。

また、熱が下がってもせきがひどくなる場合は、細菌による気管支炎を合併している可能性があるので、再度、医療機関を受診してください。

おとなにとっての必須の予防法は?

最後に今井医師は、おとながインフルエンザを予防するための注意点について、次のようにアドバイスをします。

「通勤で、大勢の人が集まる交通機関や場所に行くことが多いでしょう。インフルエンザの主な感染経路は、せきやくしゃみで口から出る水滴による『飛沫(ひまつ)感染』です。これを浴びないよう、また発しないように、外出時は『マスクを着用』して、帰宅後は石けんで入念に手を洗いましょう。

また、体の抵抗力を高めるために、日ごろから十分な睡眠と、栄養のバランスが整った食事を心がけることが、おとなにとっての必須の予防法と言えるでしょう」

インフルエンザの流行する型は変異するので予防接種は毎年受けておきたい、予防接種を受けても発症することがある、熱が下がっても完治したと勘違いしない、症状があるうちは出社をひかえる、なにより日ごろの生活習慣が重要であるということです。正しい情報を知っておき、予防や対処をしたいものです。

(取材・文 岩田なつき/ユンブル)