就労状況にある女性の57%が非正規雇用という現代。非正規雇用のなかで多くの割合を占める派遣社員という働き方。自ら望んで正社員ではなく、非正規雇用を選んでいる場合もありますが、だいたいは正社員の職に就けなかったため仕方なくというケース。しかし、派遣社員のままずるずると30代、40代を迎えている女性も少なくありません。

出られるようで、出られない派遣スパイラル。派遣から正社員へとステップアップできずに、ずるずると職場を渡り歩いている「Tightrope walking(綱渡り)」ならぬ「Tightrope working」と言える派遣女子たち。「どうして正社員になれないのか」「派遣社員を選んでいるのか」を、彼女たちの証言から検証していこうと思います。

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今回は、都内で派遣社員をしている丸岡綾乃さん(仮名・24歳)にお話を伺いました。スラっとしたスタイルに、ラインストーンがついたぴったり目のカットソーを着こなしていた綾乃さん。女子アナの青木裕子さんに似た風貌で、これまでの派遣女子とは違った印象を受けました。

綾乃さんは、大学時代は就職活動を行なわず、大学院の修士課程へ進学。しかし、所属したゼミの教授とソリがあわず、中退してしまいます。社員登用のある会社に入社しましたが、数か月で退社。自分らしく働ける職場を求めて、派遣社員を選んだそうです。

 「大学で美術史学を専攻していたので、学芸員の資格は持っています。院でも美術史を専門に研究していたのですが、モラトリアムの期間を延ばしたかったと言うか。特に興味があって進学したと言う訳ではなかったんですよ」

大学時代よりも講義のコマ数が少なく時間の融通が利いたため、イベントコンパニオンのバイトや、クレジットカードの販促スタッフに精を出した綾乃さん。その結果、いくつか単位を落としてしまうことに。

 「学部の頃と違って、出席にうるさいんですよね。自分の指導教員だった教授は、モラハラが酷くて。アカデミックな事を言ってたわりには、教授が飲んだコーヒーカップを洗うのを命じられたり」

 しかし、修士課程を一年で中退した綾乃さんに襲い掛かったのは就職と言う難題。

「大卒が受けられる新卒採用にエントリーできない企業が多数だったんですよ。これにはびっくりしました。第二新卒で応募しようにも、就職経験もないし。下手に院に進学せずに、留年すればよかったと後悔しました」

 そんな綾乃さんに救いの手を差し伸べたのは、広告デザインを請け負っている制作会社だった。

「最初はバイト契約で、その後に社員登用するという条件で採用になりました。画像加工ソフトを使えなかったので、無給で土曜日も出勤し、会社のパソコンを使って練習しなければならなかったんですよ」

 未経験可といえど、自分から進んで技術を身に着けなければ仕事にならないDTP業界。

「上司が女性だったのですが、できないと定規で叩いてきて。ちょっとしたことでも癇に障るみたいで“無駄話はいいからちゃんとして”が口癖でした。あるファッション誌で読モっぽい事をしていたのですが、それが上司に見つかっちゃって。“こんな暇あるなら、もっと仕事して”と言われてカチンときてしまって」

綾乃さんは、試用期間中で退職してしまう。

「辞めるなら早い方がいいなって思って。特に未練はありませんでした」

派遣で仕事が続かない特徴として、「すぐ退職」を決めてしまうというのがあります。綾乃さんの場合は、実家暮らしと言う保険が拍車を掛けました。

 「大手の派遣会社を中心に、数社登録をしました。派遣って、就業先と事前の面接は禁止されてるんですよ。でも“顔合わせ”と言って、担当の人と会う場が設けられるんですよ。ずっとクレジットカードの販促をやっていたので、派遣の“顔合わせ”は得意でしたね」

読モの経験もあり、第一印象の良さには自信があるという綾乃さん。

 社会人経験のない綾乃さんが待ち受けていた現実とは? 〜その2〜に続く。