さらに、その発信力を本業の研究に役立てたいという思いもあるのだとか。

「愛玩動物である犬猫の病気の研究には、どうしても国から予算が下りづらい現状があり、僕ら獣医学研究者にとって大きな課題となっています。最近はクラウドファンディングで研究支援を募るケースが増えているので、このアカウントを通して自分の研究を知ってもらうきっかけになればと。

 国全体としての優先度は低くても、飼い主さんにとってペットは家族も同然。将来的には飼い主さんたちと一緒に研究を進めていけたらいいですね」

◆愛猫に長生きしてもらう秘訣とは

 にゃんとす先生いわく、猫に長生きしてもらう秘訣は「猫の幸福度を高めること」だという。

「幸福度を高めるには、本能を満たしてあげることが大切です。おすすめは、食事に遊びを取り入れること。狩猟本能を駆り立て、ストレス軽減や認知症予防に効果があるのではと考えられています。にゃんちゃんは製氷皿にフードを一粒ずつ入れて、前足で取り出して食べる遊びがお気に入りです」

 また、マタタビに関する非常に興味深い最新研究があるという。

「マタタビの依存性などを心配する声も多かったのですが、昨年、岩手大の宮崎雅雄教授らの研究チームが、マタタビの安全性を世界で初めて明らかにしました。また、マタタビの幸福感の正体であるネペタラクトールには、蚊を寄せ付けない効果があることも判明し、感染症から身を守っていた説が浮上しています」

◆「猫ブーム」に抱く複雑な思い

 近年の空前の猫ブームには、にゃんとす先生も複雑な思いを抱いているそう。

「猫業界が盛り上がることは喜ばしいのですが、多くの企業が猫に関する商品の開発や販売に参入する流れが生まれており、その中には獣医師の視点から『ちょっと良くないなぁ』と思う商品もあるのが正直なところです。

 見極めは難しいので、引き続き正しい知識の発信をしていけたらと考えています。猫のために良いものを作ろうとしている企業さんとの取り組みなども進めて、本当の意味で猫に優しい製品を増やしたいです。ブームによるこの猫への熱量が保護猫や殺処分問題などにも向かうと良いですね!」

「不治の病で苦しむ犬猫を救いたい」。ニャンとも壮大な夢を実現するために、日々にゃんとす先生の研鑽は続く。

【獣医師・研究者 獣医にゃんとす先生】
国立大学獣医学科を卒業後、臨床経験を重ね、獣医学博士号を取得。現在はとある研究所で難治性疾患の基礎研究に従事。猫情報を発信するXアカウント:@nyantostos

<取材・文/姫野桂>

【姫野桂】
フリーライター。1987年生まれ。著書に『発達障害グレーゾーン』、『私たちは生きづらさを抱えている』、『「生きづらさ」解消ライフハック』がある。Twitter:@himeno_kei