にゃんちゃん
 今、日本は空前の猫ブームだ。近年では犬の飼育頭数を猫が上回り、その数なんと900万頭超(※)。人々を魅了してやまない猫の魅力とは何なのか、獣医師で研究者の獣医にゃんとす先生に語ってもらった。

(※2023年時点。一般社団法人日本ペットフード協会調査より)

<本記事は、『別冊SPA!猫が好きにもほどがある』より一部抜粋し、再編集しています。>

◆かつては犬派だったにゃんとす先生

 猫の飼い主向けの情報を発信し、SNSのフォロワー数が計13万人を超える獣医にゃんとす先生。猫好きを自任し、猫にまつわる書籍も出しているにゃんとす先生だが、以前は断然犬派だったとか。きっかけは捨て猫だった愛猫・にゃんちゃんとの出会いだったそう。

「獣医学科2年生のとき、ある先輩が大学構内に捨てられていたのを保護したのが、生まれて間もないにゃんちゃんでした。飼い主募集の一斉メールが届き、長年猫を飼ってみたいと思っていたのですぐさま挙手。

 2週間ほど先輩が面倒を見てくれている間に、必要なアイテムを揃えてからお迎えしました。数時間ごとにミルクをあげなくてはいけないので、授業やバイトとの両立が大変で。バイトの昼休憩で急いで帰宅して、自分の昼食は返上して20分でミルクをあげてまたバイトへ……といった生活をしていました」

 今は12歳の立派なシニア猫に成長したにゃんちゃん。にゃんとす先生を魅了するのは時折見せる素顔だとか。

「犬の『大好き!』とグイグイくる感じもいいのですが、猫と暮らしはじめたら程よい距離感と、僕にだけ見せてくれる甘えん坊でわがままなところにやられてしまいました(笑)」

◆にゃんちゃんの忘れられないエピソード

 そんなにゃんちゃんの忘れられないエピソードがあるそう。

「研究者になる前は、在籍していた病院で僕がにゃんちゃんの健康チェックをしていたんです。診察中はものすごくお利口で、看護師さんたちに褒められるほどでした。今の研究所に移ってからは、僕が診察できる環境ではなくなったので普通に患者として動物病院に連れていきました。

 すると、診察室内から今まで聞いたことがないような叫び声がギャ〜ッと聞こえてきて。『そっか、今までは僕が診察していたから大丈夫だったんだね』『まだ知らない面があったんだな』と。ごめんよ、と思いながら、いとおしさも増した出来事でした」

◆不治の病に苦しむ犬猫たちを救いたい

 現在にゃんとす先生は「不治の病で苦しむ犬や猫を救う」という夢のため、とある研究所で研究に取り組んでいる。

「あらゆる動物のがんなどの難治性疾患のメカニズムについて研究しています。犬猫の薬は人間用の薬を流用するのが通常なので、新薬などの導入にどうしても時間がかかってしまうのがネックなんです。

 もちろん安全性は担保したうえではありますが、人間よりも動物のほうが治験を行うハードルが低いので、新しい治療を先に動物でできたらと考えています。動物での臨床結果をもとに人間の治療に応用するほうが効率的ですし、なすすべなく命を落としてしまう動物も減らせるんじゃないかと思うんです」

 海外ではすでにそういった事例もあるという。

「アメリカではヒトの小児がんに対する新しい治療法を、犬の骨肉腫で臨床試験を行うというプロジェクトが進んでいます。日本でもこういった事例をつくれたら、病気に苦しむ人間も犬猫も新薬をもっと試せるようになるはずです」

◆発信し続けることで研究を知ってもらうきっかけに

 研究で忙しい中、発信を続けるのには理由がある。

「夜間救急で働いていたころ、猫にとっては猛毒のユリを食べて運ばれてきたり、異物を誤食した猫の開腹手術をしたりしていました。知識さえあれば防げる事故や病気で、助かるはずの命が助からないケースを目の当たりにして、’19年頃からXで発信を始めました」