フリーアナウンサーとして活躍する岩佐まりさん。母親が60歳で若年性アルツハイマー型認知症を発症し、シングル介護を続けています。20年近く介護をするなかで気づいたことや、支えてくれる夫との出会いとは?(全3回中の3回)

【画像】「運命でしかない!」20年以上の時を経て結婚した初恋相手の夫と映る岩佐まりさん「お似合いです」(全10枚)

介護をブログで発信したのは息抜きのため

── お母様が60歳で若年性アルツハイマー型認知症を発症し、20代からご自身で介護をされています。そのことについてブログで発信されていますが、きっかけはなんだったのでしょうか?

岩佐さん:ブログで母の介護のことを発信し始めたのは、実は私の息抜きのためです。介護を始めたのが20代だったのですが、その頃は周りに介護のことを話せる友人なんていなくて。誰かに私の話を聞いてほしい!という気持ちで、ブログを書くようになりました。

母の介護の様子をブログに綴った

── 反響はいかがでしたか?

岩佐さん:はじめはプライバシー保護のために、母の顔にモザイクをかけて、写真をアップしていました。でも笑顔で楽しそうに一生懸命過ごしている母の顔に、モザイクをかけるってどうなんだろう…と思うようになって。素敵に笑う母の本当の姿をみんなにも見てほしくて、モザイクなしで投稿するようにしました。そうしたら、アクセス数が一気に増えて、反響も非常に大きくなったんです。

ツラいだけの内容だとおそらく誰も読んでくれなかったと思うのですが、心に余裕ができてからは母の行動を愛おしく思うようになって、文面も明るくなったので、それもよかったのかもしれません。

介護をしていたことで夫と20年ぶりの運命の再会

── 2020年にご結婚されましたが、旦那さんも介護には協力的なのでしょうか?

岩佐さん:夫とは親を大切にするという価値観が同じでした。介護についての知識はありませんでしたが、親が病気になったり、介護が必要になったら、支えるのが当たり前という考えの人。そのため私の母といっしょに住むことも、スムーズに受け入れてくれました。

夫は母の介護を受け入れてくれた

今では病院への送迎はもちろん、おむつ交換などもできるようになって、サポートしてくれるように。そういえば、実は夫と知り合ったのは、母の介護がきっかけなんですよ。

── どういうことですか?

岩佐さん:夫は中学校の同級生で、お互いに初恋の相手でした。半年くらいおつき合いした後に私が彼を振って終わったのですが、彼は「なんで僕は振られたんだ」と私のことをずっと気にかけてくれていたようで(笑)。それであるとき私のブログを見つけて、彼の提案で彼の会社が私に介護関係の講演依頼をしてくれたんです。

講演当日も彼は姿を見せず、講演の依頼の連絡を直接くださったのも別の方だったので私は気づいていなかったのですが、後日ブログを通じて彼から連絡があり…。驚きましたね。「じゃあ、せっかくだから久しぶりに会おう」という話になったんです。

── それは運命的ですね!

岩佐さん:彼は20年以上も私を覚えていてくれたそうで、改めて「つき合ってほしい」と言われました。でも当時、彼は大阪で私は東京。介護のこともあるし、私は遠距離恋愛する気はなかったため、「結婚するならいいよ」って(笑)。そしたらそうしようって言ってくれて、私が母といっしょに大阪に引っ越すことになったんです。まさに0日婚です。

当時はつらかった症状も「今ではあの頃に戻りたいくらい」

── それはまさにお母さんのおかげかもしれないですね。心強いパートナーもできてよかったです。

岩佐さん:そうですね。介護疲れでストレスを抱えて、息抜きで始めたブログがまさかこんなふうに繋がっていくとは思いもよりませんでした。振り返ると、母に暴言を吐かれたり、自宅からいなくなって徘徊していたときなどはすごくつらく感じましたね。でも、今となってはそれが懐かしいくらい。

母はできることが徐々に減っていきました。歩くこと、話すこと、箸を持つこと、飲みこむこと。私の名前だけは最後まで呼ぼうと頑張って「まりちゃん」「まり」「まー」となりましたが、最後は話せなくなりました。


食事も箸が持てなくなり、スプーンが持てなくなり、飲みこむことができなくなり、現在は直接、胃に栄養剤を流し込んで生きています。だから暴言を吐くくらいしゃべることができたり、徘徊するくらい歩けたあの頃が今は懐かしい。当時はそうは思えなかったけれど、今はあの頃に戻りたいくらいです。

── ご自身で介護できたのは、資格をたくさん取っていたからですね。

岩佐さん:将来のことを考えて、母が元気なうちに取ろうと思い勉強しました。たとえば車椅子での移動。以前はトラブルなく移動できるか不安で、車椅子に母を乗せて電車に乗るのが怖かったんです。母といっしょに暮らし始めて病気について知らないことも多く、それが本当に情けなくて…。それで資格や知識があれば安心して暮らせると思い、取ることにしました。

介護職員初任者研修、全身性ガイドヘルパー、認知症介助士、認知症ライフパートナー2級、あとは通信大学に4年通って社会福祉士の資格も取りました。社会福祉士は支援を必要とする人の相談にのったり、医療・福祉サービスに繫げる仕事なので、母を介護することとは直接関係はないのですが、これを取っていろいろと周りの人にアドバイスができるようになりました。

最近では同世代の友達でも介護について悩む人が出てきました。そういう人もたちを含め自分の経験や資格を通して得た知識を、今後はまわりの人のために役立てられたらと思います。

PROFILE 岩佐まりさん

1983年、大阪生まれ。2002年にタレントとしてデビューし、現在はフリーアナウンサー、司会者、リボーターなどとして活躍。2009年に母親が若年性アルツハイマー型認知症を発症し、シングル介護をしている。2023年に出産、1歳児の母。

取材・文/酒井明子 写真提供/岩佐まり