原作マンガにも多くファンがいる『ちひろさん』が、有村架純さん主演で実写化。2月23日(木・祝)よりNetflixで世界配信&全国劇場で公開される。元風俗嬢で今は田舎町の弁当屋の店員。彼女のもとへ吸い寄せられるように人が集まり、そして幸せを感じていく。言葉に変換をするとひどく魅力的な女性。でも空をつかむようなふわふわした存在でもある。そんな女性を有村さんは映画の中で見事に表現している。

人間同士の距離感の難しさが問われる時代。映画『ちひろさん』を通して、どんな感想を持ったのだろうか。自身の経験や考えとともに話を聞いた。

他人との「距離感」で悩んだこともあった20代

--ちひろさんも有村さんも29歳。同年齢として共感する部分はあったのではないでしょうか?

有村架純さん(以下、有村):うーん、共感……というと難しいですけど、私は人の基礎的な部分があって、そこから応用が効きづらい人間なので(笑)ちひろさんはちひろさんにしかないものを持っているんだと思いました。私にはまったくなかった視点を持っているのは新鮮で、勉強になるところがたくさんありました。

私、この仕事をしているから……という理由もあるんですけど、たくさんの人に会うことが多い分、距離感で悩むこともありました。確か20歳くらいのときです。自分自身にとって居心地のいい場所はどこにあるんだろう? といつも考えていて。それがやっとこの3年間くらいで見つかったんですね。だから撮影をしているときに風通しのいい生き方をしているちひろさんを演じながら、「ああ、この感じ分かるなあ」と思うことはあったかもしれません。

--距離感の取り方は具体的にどんなふうにして見つかったのでしょうか?

有村:考えてみると自分の周りにはあっけらかんとしている人が多いんです。悩んでいることがあったとしても、誰かに寄り添うことを求めていない人たち。自然と距離感を保てる人たちが集まっているんですね。だから相手が悩んでいるかもしれないと勘づいても、変におせっかいを焼かずにいられます。そのことに気づきました。

--お仕事柄、初対面のシーンが多いと思います。そういう場合の距離感はどうされているのでしょうか? 自分からコミュニケーションを取られるほうですか?

有村:時と場合によりますね。たとえば現場で経験値のない新人の子とかだったら、こちらから話しかけます。その後も関係性がよくなりますし。相手もちょっと緊張が解けて、お芝居を対等にできる環境になれるかもしれないです。ある程度、大人だったら、その人のペース、ルーティン、スタンスもある。そういった場合は無理して踏み込むことなく、しゃべりたいときにしゃべろうという感じにしています。

--『ちひろさん』は距離感の見つめ直しができる作品だと思います。演じた前後では何か変わったことはありましたか?

有村:うーん……なんかまあ、私はそもそもそんなに人に執着していないんですよね。たとえば、物を無くしちゃったときはショックだけど「今までありがとう!」という気持ちで「さよなら〜」としちゃう(笑)。「今じゃないんだな」とか、タイミングのことを一番に思う性格なのかもしれません。そのときは「もっとこうだったらよかったな」と、思うことがあっても、人との出会いや別れも全部タイミング。必要なら「また舞い降りてくる」と思える。だから人との距離感というのは、意外と潔いかもしれないです。

「まずは自分の周りにいる人たちを幸せにする」

--ちひろさんの周囲との距離感の取り方、有村さん個人としてはどう思いましたか?

有村:全然いいと思います。無理をして人に合わせる必要もないし、人を傷つける生き方さえしなければ、彼女に実際救われている人がいるわけだし。正義のヒーローになろうとしなくても、周りから「ヒーローだ!」と思われるのはすばらしい生き方。私はうらやましく思います。

--作品を見ていて「あれ?」と引っかかったのが、ちひろさんが大人にも子どもにも動物にも分け隔てなく全員に接することでした。分け隔てなく接するのは、難しいときも楽なときもあると思います。ご自身は分け隔てなく接することをどう思われますか?

有村:それができたら……人として、一番理想的な生き方ができていますよね。そんなコミュニケーション能力が自分に備わっているか? と聞かれると、私は多分足りていない部分があります。

社交的な性格ではない人も、世の中にはたくさんいます。自分の思うようにコミュニケーションを取れない人もいる。分け隔てなくっていうのは、自分の世界の中にいる人たち、その枠の中から外れた人へもサービス精神を忘れないこととか、そういったことにもつながってくると思うんです。でも、それが難しいなら、本当に自分の世界にいる人たちに対して、まず分け隔てなく大事に愛すれば十分なのかなと。そこでまた無理が生じてしまうと、生きづらくなってしまうので。

ちひろさんの生き方に私も憧れはあるけど、まずは自分の周りにいる人たちを幸せにしてからじゃないと。

--「分け隔てなく接する」ことの反対として「人によって態度を変える」という場合も。どちらが正解とは言えませんが、そういう生き方はどう思われますか?

有村:うーん、そうですね……。人によって態度を変えてしまう人がいるとして、その人の根本に何がそうさせているのかっていうのを知りたいと思いますよね。それが自分を守るため、自分を傷つけないためにそうなっているんだとしたら、それはきっとその人のいろんなことの回避術かもしれないし。でも、権力を振りかざして、押さえつけたりする。そういう態度の変化というのは、私は不必要だなと思うので。そういうのは、本当になくなってほしいって思います。

「すべてを分かってもらうのは不可能」孤独を愛するということ

--今回、『ちひろさん』では孤独もテーマの一つです。有村さん自身は「孤独」について、どんなふうに考えていますか?

有村:私はもともと「孤独」をネガティブに捉えていないです。そもそも“一生涯は孤独なもの”だと思っています。結婚して夫婦になってパートナーがいたとしても、多分、一生分かり合えることはない。「あの時はそんなこと考えていたんだ」とか、知らないことも絶対にあるし、どれだけ長くいても、年々考えてることも変わってくるわけじゃないですか。その中ですべて知って、分かってもらうっていうことは、やっぱり難しいことです。

だからこそ、人付き合いって面白いなって思います。そう考えると、人はずっと孤独で、自分の中の考えとか、すべてを分かってもらおうとは思わないけれど、それが孤独を愛するっていうことにもなるのかなって。自分が守りたいもの、「これは言いたいけど、これは言いたくない」ということや隠しておきたいこと……それもまるっと孤独を愛することにつながるのかなと思っています。だから孤独は全然ネガティブなことではない。そんなふうに考えています。

(聞き手:小林久乃、写真:宇高尚弘、ヘアメイク:尾曲いずみ、スタイリスト:瀬川結美子)

■映画情報『ちひろさん』
2月23日(木・祝)Netflix世界配信スタート&全国劇場にて公開!

出演:有村架純
豊嶋花、嶋田鉄太、van
若葉竜也、佐久間由衣、長澤樹、市川実和子
鈴木慶一、根岸季衣、平田満
リリー・フランキー、風吹ジュン

原作:安田弘之『ちひろさん』(秋田書店「秋田レディース・コミックス・デラックス」刊)
監督:今泉力哉 脚本:澤井香織 今泉力哉
製作:Netflix、アスミック・エース
制作プロダクション:アスミック・エース、デジタル・フロンティア
配給:アスミック・エース
(C)2023 Asmik Ace, Inc. (C)安田弘之(秋田書店)2014

小林久乃