田中六五を手掛ける白糸酒造の田中克典さん

写真拡大

蔵元から直接学べる日本酒のオンラインテイスティングイベント「SAKE(日本酒)x NOMY(学)」の第10回が、6月20日(土)に開催された。ゲストとして登場した白糸酒造の8代目・田中克典さんと、福岡を代表する酒販店・住吉酒販の庄島健泰さんから、“福岡の定番酒”を目指した人気銘柄「田中六五」誕生のきっかけが語られた。

【写真】田中六五にぴったりのグラスで乾杯

「SAKE(日本酒)×NOMY(学)」は、毎回異なる日本酒の蔵元をゲストに招き、オンラインミーティングアプリ「Zoom」を通して蔵元の口から人気銘柄の魅力や酒造りのこだわりを聞くことができるイベント。参加者には事前に蔵元自慢の日本酒が届けられ、自宅にいながらテイスティングを楽しめるのも特長だ。

福岡県糸島市の白糸酒造は1855年創業の老舗酒蔵。従来の看板銘柄「白糸」と並び同蔵の新たな顔となったのが、田中さんが立ち上げた「田中六五」だ。テイスティングでは、ベーシックな「田中六五」と、福岡発のファッションブランドとコラボした「MINOTAUR INST. × TANAKA65」の2本が登場。グラスごとに香りや味わいが変化する魅力や、酒器選びのコツが語られた。

「グラス選びの一番シンプルな考え方は、お酒の味のボリュームと、グラスのボウル(本体)のボリュームをそろえるイメージ。すっきりしたお酒なら細いグラスが合いやすい。反対に、ワイドな飲み口のグラスはお酒を口に含んだ際に香りもたくさん入ってくるので濃い酒に合いますが、すっきりした酒だと香りに対して味が痩せて感じてしまう。味と香りのバランスがちょうどいいものが、その酒に適したグラスです」(庄島さん)

今回テイスティングで使用したのは、JAPAN CRAFT SAKE COMPANYの日本酒用グラス「TOKYO」シリーズ。田中さんは同シリーズのうちボウルが大きく飲み口が小さい「春」での香りの立ち方が田中六五に合っていると話し、「持っていない方は、飲み口が閉じていて、ボウルがふっくらとしたワイングラスがいいと思う」(田中さん)とおすすめの酒器を教えてくれた。

また、同銘柄は全国でも入手困難な人気を誇りながら、現在でもシェアの65%が福岡市内で消費されているのが特長の1つ。イベント内では、いわば地産地消の酒とも言える田中六五が誕生するきっかけも語られた。

「東一」で知られる佐賀の五町田酒造から福岡に戻った田中さんは、五町田酒造時代の師である勝木慶一郎さんの紹介で庄島さんと出会い、新銘柄立ち上げに動き出したという。その際、勝木さんの「田中は自分の蔵の持つ魅力を分かっていない」というアドバイスが田中六五の地元志向を後押しした。

「勝木先生は『目の前に山田錦の田んぼが広がっていて、車で20分のところに福岡市内という大きな商圏がある。なのになぜ中央(東京)を向く必要があるのか』とおっしゃっていて。福岡という大きな市場がある割に九州の日本酒がそれほど育っていないとは僕も感じていましたし、酒蔵にとっても信頼して卸せる先がないと育っていかないと思っていたので、そうした(福岡を中心とした)ブランドに育て上げていくことになりました」(庄島さん)

そうした地元への思いは、「田中六五」という銘柄名にもこめられていると田中さんは話してくれた。

「田中六五の“田中”は僕の苗字ではなく、糸島の山田錦の田んぼの中にある蔵、つまり“田ん中”が由来なんです。精米歩合64%の東一に負けない酒を造りたいという気持ちで、田ん中でとれたお米を65%精米したお酒だから“田中六五”。“田中六十五”から“十”を抜いたのは、銘柄の名前を住吉酒販と同じ四文字にすることで、タッグを組んで一緒にやっていくという意味をこめています」(田中さん)

さらにイベントでは、Zoomの機能を利用した視聴者からの質問も多く寄せられた。「田中六五はどんな博多料理に合いますか?」と聞かれた田中さんは「田中六五は受け身な酒で何でも受け入れられると思っているんですが、博多料理で言えば、がめ煮のちょっと油が多めな感じ、鶏油のようなものにも合うと思います」とコメント。また、「酒造りでもっとも重要だと考えている工程は?」という質問には「蒸し」と即答。「生の物に火を入れて物質を変化させるわけで、その変化のさせ方がよくないと後に響いてしまう。米洗いなども重要ですが、蒸しはすべての決め手です」(田中さん)と答えた。

このほか、蔵元がおすすめする佐賀県・三原豆腐店の豆腐チョコレート「ICE TOFU CHOCOLATE」とのペアリングや、昔ながらの製法であるハネ木搾りの魅力など、約50分間のイベントは盛りだくさんの内容となった。

6月28日(日)には「山の井」ブランドの会津酒造から渡部景大さんをゲストに招いたVOL.11、7月5日(日)には「富久長」今田酒造本店の今田美穂さんと「遊穂」御祖酒造の藤田美穂さん、両女性蔵元による対談形式のVOL.12がそれぞれ開催予定。日本酒好きはもちろん、これから日本酒に触れたいという人にもおすすめだ。