蒼井優さん主演の映画『アズミ・ハルコは行方不明』が公開中です。山内マリコさんの原作小説を映画『アフロ田中』『男子高校生の日常』の松居大悟監督が映画化。アラサー、ハタチ、女子高生の3世代にわたる現代女子の人生が行き交う本作で、地方都市に住み、あるとき突然、失踪する27歳独身会社員の安曇春子を演じた蒼井さん。

会社ではイヤな上司たちのセクハラ発言に、おかしいと感じながらも何も言えない春子。また恋愛では、同級生に再会して関係を持つも、彼氏彼女とも言い切れない間柄を続けてしまう。もんもんとした日々を送る春子に「共鳴した」という蒼井さんに“30歳を過ぎた今”を語っていただきました。

「どんどん歳をとれ」と背中を押された

――演じた主人公の春子像に共感したところは?

蒼井優さん(以下、蒼井):すごく共感……というか「共鳴」しました。『アズミ・ハルコ〜』を観た友達も「自分の中に春子がいる」って言うんです。春子のように、ダサい、うじうじした、だけど何かを諦めきれない自分というのがいる、と。私も同じです。

演じるという行為には、客観性も大切です。でも、春子は本当に日常の延長でした。自分のなかの春子を引っ張り出して、カメラの前に置いたような感覚です。

――蒼井さんが30歳になって初めての作品だとお聞きしました。変化はありましたか?

蒼井:恥ずかしいからどのシーンかは秘密ですけど、自分でも観たことがない表情をしている場面があったんです。あれはきっと、30歳を超えたからこそ出せた表情。「どんどん歳を取れ」と背中を押されたように感じました。

――春子の職場の場面では、社長たちが、先輩社員さんがいないとき「安曇さんも、あぁならないようにね」と言い、「彼氏はいるの?」と聞く。また新入社員の面接へ向けては「男の子はダメだよ。お給料をちゃんと支払わなきゃいけないから」といった趣旨の、完全にセクハラと思える会話が登場します。

蒼井:ああした出来事は原作者の山内(マリコ)さんのお友達に、実際起きた話らしいんです。私は、あそこまではっきりと何かを言われたことがないし、言われないように気をつけてるところもありますね。

やっぱりまだまだ男社会。今回は女性スタッフが多かったですけど、映画の現場は力仕事も多いせいか、スタッフさんは男性が多いんです。キャストも男性中心の作品が多いと思います。そこで女性も男性と張り合いながら、「共同体」にならないといけません。

そのせいか、女優さんにはサバサバしていていわゆる「男っぽい」人が多いんですよ。それはひとつの防衛線を張っているということでもあるのかな、と。

――もし、実際にセクハラのような会話をぶつけられたら、どう対処しますか?

蒼井:世の中には、いますよね。なんでわざわざ言うのかなって人。「こんな人でもきっと、お父さんやお母さんに愛されて育ってきたんだ……」と思うことにします(笑)。人って怒りも6秒くらい我慢すると、収まるらしいんです。彼のお父さんやお母さんを6秒間、想像するうちに、怒らずに済むかもしれません。

30歳をすぎてから、一気に楽しくなった

(C)2016「アズミ・ハルコは行方不明」製作委員会

――27才の春子は突然失踪しますが、蒼井さんは失踪したいと思うことはありますか?

蒼井:失踪したくないですね。30歳をすぎてから一気に道が開けた感じがして、楽しくて。

――30歳になって、具体的に何が変わったのでしょう。

蒼井:確実に「仲間」が増えました。10代の頃は学園ものに出るから、同級生と……たとえば宮崎あおいちゃんたちと、一緒に仕事ができていたんです。でも制服を脱いだ瞬間から散り散りになるんですよね。特に女性キャストは。それから、あまり同世代の人とお仕事する機会がなくて、とぼとぼ一人で歩いていたんです。

そうしているうちに28歳、29歳くらいになって、満島ひかりちゃんや松田翔太くん、『オーバー・フェンス』で共演した松澤巧匠くんや、今回の松居監督と枝見(洋子)プロデューサーとか…また同じ年の人と仕事をする機会が増えたんです。

とぼとぼ自分だけで歩いていると思っていたら、横にちゃんと同じ年の人たちがいた。そのことに、とても感動したんです。同い年ってこんなに心強いんだって。だから今は失踪したくないですね(笑)。

●蒼井 優さんが出演する『アズミ・ハルコは行方不明』は新宿武蔵野館ほかで公開中。

(望月ふみ)