関東 日帰り 出会い旅 Vol.004 /アートで町の人に出会う旅(茨城県取手市)【後編】

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【毎週土曜 6:00 更新】
東京から90分以内の日帰り圏内。その円を広げてみると、そこにはとても豊かな自然や、新鮮な景色が広がっています。身近なようでまだ知らない「関東の田舎」で、地元を愛するみなさんと触れ合いながらの、楽しい週末旅はいかが? 今回はアートな町、取手編の第2回。旅人は編集者/プランニングディレクターの磯木淳寛さん!



東京駅から電車で約60分。都心のベッドタウンとして発達した取手市にはいくつもの大きな団地が並んでいる。1991年には東京藝術大学の取手キャンパスが開設。このことをきっかけとして、感性の豊かな若者やアーティストも多く移り住むようになり、近年では住民ぐるみのアートの町としても新たな顔も見せ始めている。



1985年生まれ取手育ち。東京と地元である取手の2拠点で活動中。東京では、“仕事の「あるがまま」”を紹介する求人サイト『日本仕事百貨』や、いろんな生き方働き方に出会う場所「リトルトーキョー」の運営を担当。取手では『取手アートプロジェクト』にて「取手アート不動産」の企画運営などに関わる。都内でチャイ屋「きみちゃい」を始めるべく準備中。

◆団地の住民がホテルマン!半年に一度だけ団地に現れる「サンセルフホテル」

午後、中嶋さんが連れて行ってくれたのは、約1900世帯もの人が住むという井野団地。最初に訪れた団地と大きな見た目の違いはないものの、ここでもとても取手らしい独創的なアートプロジェクトが行われていた。団地の空き部屋の一室をホテルに変え、宿泊客を迎える「サンセルフホテル」だ。





『サンセルフホテル』の“おかみ”を務める片山春枝さん(中央)。とってもかわいらしい方でした

おかみ:宿泊日が近づくと週1回みんなで集まってミーティングもします。私、昔からおかみになるのが夢だったので、それがこんな形で実現して本当にうれしいです。人生わからないものですね。

磯木:食事のメニューもみんなで考えたり、力を合わせてゲストをおもてなしするのは楽しそうですね。

おかみ:ゲストをお迎えする当日は、どんな方が来るんだろうとドキドキなんですが、顔を合わせるとホッとしますね。お帰りになるときには来てくださってありがとうって気持ちが溢れますしね。

中嶋さん:別れ際にはいつもゲストとハグしてますもんね。

おかみ:うん、やっぱりうれしくってねえ。『サンセルフホテル』でいろんな人に会えるのがとにかく楽しいですよ。









◆アーティストの住まい兼展覧会場『拝借景』

井野団地から車で数分。どこにでもあるような住宅街の一角に、一見してそれとわかる突飛な建物が目に飛び込んできた。アーティストの住まいであり、作品の展覧会もやってしまう、『拝借景(はいしゃっけい)』と名付けられた建物だ。



展覧会は約半年に一度の頻度で行われているそう。

磯木:こ、これは…。もはや取手にはなにがあっても驚かないと思ってましたけど、やはりオリジナリティが抜群ですね。屋根が上がっちゃってますし(笑)

中嶋さん:(笑)

磯木:『拝借景』と家の側面に書いてありますけど、ここもやっぱりアーティスト関連?

中嶋さん:そうですね。ごく一般的な賃貸の家なんですが、数人のアーティストが住みながら作品の制作を行っています。そして、作品の展覧会期間が始まるとこの家のあちこちのドアが開いて“ご自由にどうぞ状態”になるんです。やや目立ってますが今はなにも行われていないので、これが日常バージョンですね。

磯木:おうちをまるごと開放しちゃうんだ。自由な住み方ですねえ。何人くらいがここに住んでるの?

中嶋さん:メインで住んでいる人はいるんですけど、それ以外の人は頻繁に入れ替わるようです。ほかにもこの家でアーティスト・イン・レジデンスを行って海外からアーティストを受け入れたりと、活発に活動していますね。

磯木:アーティストらしい自由さが全開ですね。

中嶋さん:以前の展示の時には屋根の上に耳と目がついて、家自体がネコになっていました。

磯木:家がネコ…。いつもの風景に突然ネコが現れるんだもんね。もう、実際に展示を見に来て、自分の目で確かめないといけない気になってきました。ここは近所ではかなり有名な場所なんでしょうね。

中嶋さん:そうですね。アートに関心のある人は『拝借景』と言えばわかりますけど、“不思議な家”と認識している人も多いかもしれないです。でも、実は建築雑誌で高い評価を受けたりもしているんですよ。

磯木:へえ〜、すごいなあ。こんな個性的な町が都内からすぐそこにあるなんて、今日は本当に驚きました。ありがとうございました!



【磯木さんの「旅を終えて」】

町の中にはみ出したアートが、日常の”遊び”になる!

一見すると、真面目なのか、ふざけているのかわからない町、取手。中嶋さんにスポットを案内してもらう度にアーティストたちの遊び心に触れられ、ほかのどの町にもない不思議な魅力をひしひしと感じました。
あちこちで出会える町の中にはみ出したアートは、私たちをシンプルに楽しませてくれますし、あえて美術館などに行かなくても日常にそうした遊びがあるということが、日々の余裕になるのでしょう。そしてそのアート活動による個性が、取手を私たち旅人にとっても訪ね甲斐のある町にしています。生き物のように形を変えるアートを感じに、ちょっぴりヘンテコな取手にまた遊びに行きたい。



・サンセルフホテル
アーティスト北澤潤が発案し、取手アートプロジェクトと取手井野団地の住民有志を中心としたメンバーが取り組むプロジェクト。団地の空き部屋の一室をホテルに変え、宿泊客を迎える。

・拝借景 
数人のアーティストが住みながら作品の制作や展覧会をする家。

<協力>
・いこいーの+Tappiono
取手井野団地の中にあるカフェ&取手アートプロジェクトの拠点。

◆■著者/磯木淳寛(いそき あつひろ)


食と地域を耕す編集者/プランニングディレクター
自然と共生する価値観と地域の可能性をテーマに雑誌媒体などに取材・執筆・企画。2013年から現場に身を投じるべく、海と里山のある千葉県いすみ市に在住。地域の営みを観察し未来をつくる書き手を増やすための合宿型ライター・イン・レジデンス「ローカルライト-地域の物語を編む4日間」を主宰し、全国で開催。石巻復興町づくり情報交流館コンテンツ編集デスク。季刊自然栽培「見えないものを見る」連載中。近刊予定として『小商いで自由に生きる〜房総いすみのDIYな働き方(仮)』(2016年初秋発刊予定)。