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「あれ?次の防犯パトロール、担当だったかな……」
そう、手紙をもらった記憶はあるのだ、でも、スケジュールを転記しそびれる、手紙は紙の山の中へ。よくあること。

「あれ?牛乳買ってきてって言ったのに……」
そう、確実に言ったのだ、でも、夫の記憶は持続しない、伝達事項は忘却の彼方へ。よくあること。

そんな生活の中の誰でもぶつかる「ちょっと困ったこと」を、さらっと手助けしてくれるアプリがある。お手紙管理の「おたよりBOX」そしてメモ共有の「Frognote」だ。

■これ助かる!が形になった「おたよりBOX」と「Frognote」


この「おたよりBOX」は、以前当サイトでも紹介して反響の大きかったアプリ。プライベートや仕事現場のペーパーレス化が進む中、保育園・幼稚園・小学校で「大量なお手紙」に直面して困惑するお母さん層に響いた。

プリントを撮影し、画像としてアーカイブしておくというだけのシンプルなアプリだが、手紙ごとに設定できる日付と通知機能をうまく使えば、リマインダーとしても活躍してくれる。



一方の「Frognote」は、メモを共有できるアプリ。家庭内の「やることリスト」って意外と多い。キッチンのホワイトボードに書き留めているような「ちょっとしたメモ」を夫婦で共有するのにぴったり。「言ったでしょ」「いや聞いてない」がだいぶ減らせそうだ。

リストを消し込んだりメモを更新したりするとプッシュ通知してくれるので、例えば「買い物リスト」を共有して、買ったらリストから削除するルールにしておけば「牛乳だけ私が買ったから他のものお願い!」という状況が瞬時に伝わる。


どちらもかなり機能をしぼりこんであり、使い方も簡単だ。

■え?ニフティだったの?


百花繚乱のアプリ業界では、個人やスタートアップの小さな会社が高品質なアプリをリリースしているケースが多い。そんななか、インターネット業界の老舗・ニフティという企業が、この軽快なアプリをリリースしたというのはなかなか意外だった。

開発の舞台裏はどんなことになっているのだろうか。ニフティ株式会社のWEBサービス事業部で話をきいた。

■アイデアの出どころは?


やはりこういうアプリのアイデアは、子育て当事者から出ているのでは……と尋ねてみると意外にもそうではなかった。

例えば「おたよりBOX」は、若手男性社員の「保育園のような『完全アナログな世界』にネットの技術を入れて便利にしたい」という発想が発端になったのだという。当初は園側からの発信も視野に入れていたそうだ。

保育園へのヒアリングや調査を通して、発信側ではなく受けとる親側に視点が絞られ、「『完全アナログな世界』を便利にする」というコンセプトはそのまま、「おたよりBOX」へとつながっていく。

■子育て社員のリアルな「言いたい放題」でブラッシュアップ


それでも開発当初は、「今とはだいぶちがう」ものだったそうだが、ここで社内の子育て社員に声がかかる。実際に使う立場からリアルな声を聞くためだ。

「忙しいとときにこんな操作絶対しない!使わない!」
「なんでピンク色?母親って年齢幅広くてこの年になるとピンクって感じでもね……」
「これ、子どもが二人いたらどうしたらいいの?」

……等々、率直な声が飛び交い、ブラッシュアップが重ねられ、現在の形になっていったという。

育児当事者の「現場感」は重要だ。スマートフォンとガラケーの割合や、スマートフォンの「使いこなし度」の実態、母親の年齢層の広さ、等をリアルに見て肌で感じて知っている。本物の「お手紙」資料も豊富だ。

サービス設計や開発の現場では、想定するユーザーにこうしたヒアリングをすること自体は珍しいことではないが、社内で身軽に、かつ気軽に意見をぶつけあい、反映させられる強みは大きいだろう。

実際、社内「母親」モニターとして他のプロジェクトに参加する時は、「他人として遠慮なく意見を言う」ようにしているそうだ。そして、自分の本来の担当プロジェクトでは、他の社員に客観的な意見を求めることも多いという。

■社内の風通しのよさ 〜子育て社員の働きやすさがすごかった!


社内の風通しがとてもいい印象だ。このカルチャー、どこから来るのだろうと、子育て中だという同社WEBサービス事業部の片寄仁美さんと野口綾子さんのおふたりに働きやすさについて尋ねてみた。

聞いみてびっくり。それぞれ3人のお子さんと、2人のお子さんのお母さんで、なんと、育休〜職場復帰を2回ずつ経験されていたのだ。そして現在も、時短+週3回の在宅勤務の真っ只中だという。ということは、取材に立ち会っていただいた今日は貴重な出社日……。「そうですね、だから出社日はほとんど打ち合わせで埋まります。在宅のときはひたすら作業に集中している感じ。パソコンと携帯があれば仕事上困ることはありません。」

上司であるWEBサービス事業部長の後藤信彦さんも、「オフィスのなかでも在宅勤務の方がいるのはごく自然で、あまり特別に意識していませんね。『今日は自宅か』という程度で、制度を使うのもごく普通のことです。」後藤さん自身も子育て真っ只中のお父さんだ。

同部署の約100名中40名が女性。そのうち11名が子育て中のママ社員だそうだ。「とにかく、子育てをしながら仕事をする環境がものすごく整っている」とおふたりは声をそろえた。



■風土と質は比例する


なんだか妙に納得してしまった。シンプルで使いやすいアプリが生まれた背景には、こんな風土があったのだ。多様な社員が長いスパンで働き続けられて、多様な意見を日常的に交換しあえるからこそ、細やかな生活者視点が生き、機能を絞り込むことができたのだろう。

後藤さんのお話では、ユーザーに安心して継続的に使ってもらえるサービスを育てたいということだ。暮らしや生活の中の課題がちょっと楽になって、使う人の笑顔が増えることを大切にしたいというその視点が、アプリの開発にもにじみ出ている印象だ。

■多様な展開も期待


シンプルさが勝負の「おたよりBOX」「Frognote」とは少しアプローチが異なるが、「シュフモ」というチラシチェックアプリも人気だ。アプリとしては珍しい、ガラケー時代から続く息の長いサービス。



近所のスーパーのチラシをぱぱっとチェックできるこのアプリが、このたびリニューアルしたので注目だ(9/15、Android版のみ先行リニューアル、iOSは10月中を予定)。「牛乳/170円」のように自分が設定したラインを越える安値がチラシにでたら教えてくれる機能や、その日の特売品で作れるレシピの紹介など、提案型の買い物支援アプリに進化しているそうだ。

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多様な社員の働き方を応援するニフティという会社には、多様な社員が持つ生活者の視点が大きな財産になった。細やかな視点が生かされたサービスを、これからも期待したい。

おたよりBOX
http://otayori.nifty.com/
Frognote
https://frognote.nifty.com/
シュフモ
http://shuf.jp/

狩野さやか
ウェブデザイナー、イラストレーター。企業や個人のサイト制作を幅広く手がける。子育てがきっかけで、子どもの発達や技能の獲得について強い興味を持ち、活動の場を広げつつある。2006年生まれの息子と夫の3人家族で東京に暮らす。リトミック研究センター認定指導者。