コーヒーで旅する日本/東海編|50年後も変わらず、おいしいコーヒーを届けたい。「coffee uno」
全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも名古屋の喫茶文化に代表される独自のコーヒーカルチャーを持つ東海はロースターやバリスタがそれぞれのスタイルを確立し、多種多様なコーヒーカルチャーを形成。そんな東海で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。
【写真を見る】客席は、ソファが並ぶテーブル席とハイカウンター席。奥に見えるのが焙煎室だ
東海編の第34回は、三重県鈴鹿市の「coffee uno」。店主の樋口晶生さんは、名古屋・池下の「ペギー珈琲店」でスペシャルティコーヒーについて学び、2018年に独立した。店では浅煎りから深煎りまで10種類前後の豆を焼き、すべてシングルオリジンで提供。深煎りは深煎りの、浅煎りは浅煎りのよさをわかりやすく感じられるように焙煎や抽出をする。店を営む樋口さんの想いは、「50年後も変わらず、おいしいコーヒーを届けたい」ということ。スペシャルティコーヒーを扱う理由も、味や品質はもちろんだが、サステナビリティや持続可能な生産環境といった点まで重視している。
Profile|樋口晶生(ひぐち・あきお)
1987年(昭和62年)、三重県鈴鹿市生まれ。コーヒー好きが高じて、自宅でもハンドドリップで淹れるようになり「社会人になったらコーヒーの仕事をしたい」と志すように。飲食店経験を積むためにカフェやレストランなどで働いたあと、名古屋・池下の「ペギー珈琲店」の門を叩いた。2018年、出身地である三重県鈴鹿市で、コーヒー生産者や豆の個性にフォーカスした「coffee uno」をオープン。2022年には、三重県四日市市に、バリスタやパティシエにフォーカスした2号店「tsukuroi」をオープン。
■「30歳までにコーヒー店をオープンする」目標を達成
近鉄白子駅は三重県鈴鹿市内で唯一の特急電車が停まり、利用者の多い駅。鈴鹿サーキットや海辺のレジャーなどに出掛ける観光客も多く利用する主要駅の1つだ。「coffee uno」は、駅の西側に延びる商店街の一角に、2018年にオープンした。
「店名は、息子の名前から取りました」と話すのは、店主の樋口晶生さん。現在は奥さまの晴加さんと数名のスタッフと一緒に店を営業している。古道具やアンティーク家具が置かれ、ドライフラワーや流木などが飾られた空間はどこかノスタルジックで、男性的かつ硬派な雰囲気も漂う。大型スピーカーから流れるBGMが優しく響き、居心地がいい。
店内を見渡していると、Tシャツや手ぬぐいなどのオリジナルグッズが目に留まった。コーヒーのラベルやタンブラーもかわいいものばかり。「三重県出身のイラストレーターが手がけるブランド『きいろの戸口』さんなど、クリエイターさんにお願いして作ってもらいました」と樋口さん。ちょっとしたギフトにも喜ばれそうだ。
「学生時代からお気に入りのコーヒー店に通いながら、30歳までにはコーヒー店を開業したいと思っていたんです。カフェやレストランで4年働いて飲食業の経験を積み、同時進行で個人的に焙煎した豆をいろいろな人に飲んでもらい、勉強していました。それから、スペシャルティコーヒーに特化した店があることを知って、名古屋・池下の『ペギー珈琲店』で働きながらスペシャルティコーヒーの考え方を学びました」
着実にステップアップを重ねた樋口さんは、目標通り、30歳になった2018年に「coffee uno」を開業した。
■飲み口は優しく、でも豆の特徴がはっきりとした味
「coffee uno」のラインナップを見ると、シングルオリジンばかりが約10種類並んでいる。メニューリストには浅煎り(フルーティ)から深煎り(ビター)までおおよそ味わい順に表記され、直観的に選びやすい。「浅煎りはトップスペシャルティを1、2種類、レギュラーを2、3種類、中煎りと深煎りは2種類程度のバランスになるようにしています。深煎りのマンデリン、中煎りのブラジルとグァテマラは、農園が入れ替わりつつもほぼ定番です」と話し、飲み比べたときのわかりやすさを意識して豆を選んでいる。
店の奥に焙煎所を設け、日々、ここで焙煎を行う樋口さん。タイミングがよければ、ガラス越しに焙煎風景を見ることもできる。焙煎機は井上製作所の4キロ釜を使用。「焙煎機選びは、サイズ感もそうですが、変更できるファクターの多さが決め手になりました。ダンパーやドラムの回転数、排気量などをチェックしながら、焼き方を調整しています。リアルタイムで温度や時間をプロットしてくれるので、以前のデータを呼び出して照らし合わせながら作業することもできます」
樋口さんの理想は、「飲み口は優しくて飲みやすいんだけど、豆の特徴はしっかり感じられるところを狙って焙煎する」こと。豆の特徴をよりわかりやすく伝えるため、店での抽出方法にもこだわりがある。
■味のバランスがよく、フレーバーも表現できる
「coffee uno」にはエスプレッソメニューはなく、ハンドドリップがメイン。深煎りはネルドリップ、浅煎りと中煎りはハリオV60で抽出している。グラインダーにもこだわり、「コーヒーの甘さや風味が出やすい」と、ディッティング社のラボスイートを採用した。
「深煎りに関してはちょっとトロッとした感じの質感を狙っているので、マルタのネルフィルターを使っています」と聞き、マンデリンの深煎りを淹れてもらった。醍醐味であるコクと苦味を感じながらも、飲み口は非常に優しい。自然と「あぁ、おいしい」と呟いてしまう、ホッとさせる味わいだった。
一方、「浅煎りや中煎りではなるべくクリアな味わいを意識しているので、バランスよく仕上がるハリオV60を使います」と樋口さん。豆のラインナップを見ても柑橘系、パッション系、すっきり系などフレーバーに特徴が出せるものが多いので、お湯の抜けがよくクリアな抽出が得意なハリオV60はぴったりだ。
■スペシャルティコーヒーを身近に楽しんでほしい
「coffee uno」のコーヒーラインナップはシングルオリジンのみだが、2022年にオープンした2号店「tsukuroi」ではブレンドのみにしている。これには、1号店と2号店でしっかりとコンセプトを分けることで、スペシャルティコーヒーをより幅広い層に知ってほしいという狙いがあった。
「1号店では豆の生産者や焙煎にフォーカスしましたが、バリスタやパティシエにフォーカスしようと始めたのが2号店です。メニューラインナップも大きく異なり、『coffee uno』ではフードはトーストやちょっとした自家製スイーツのみ。『tsukuroi』は厨房設備がしっかりしているのでスイーツに力を入れており、カフェラテなどのエスプレッソメニューも加えました」
「さまざまな切り口からスペシャルティコーヒーを広めていきたい」と意欲的な樋口さんに、今後の展開について尋ねた。
「今は、『50年後も変わらずおいしいコーヒーを飲めるようにしていきたい』というのが一番大きな想いですね。スペシャルティコーヒーの定義としてはスコアなど味への基準がもちろんあるんですが、自分の中では生産者の顔が見えること、持続可能な生産環境を支援していくこと、という点を大事に思っています。農家さんが継続的にコーヒーを生産できれば、うちも継続的においしいコーヒーを届けることができます。こういった点もしっかり意識しながら、豆を仕入れていきたいです。アフリカや中米など現地視察もぜひ行きたいですね!」
■樋口さんレコメンドのコーヒーショップは「エジソン休憩所」
「おすすめしたいコーヒー店はたくさんありますが、今回はコアなファンが多い三重県亀山市の『エジソン休憩所』をご紹介します。倉庫をDIYで改装した空間は温かみがあり、素敵な雰囲気。店主の日向野さんの人柄もおもしろくて大好きです。以前は日向野さんの先輩の豆を使っていたそうですが、ここ1、2年で自家焙煎に切り替わりました。スイーツやパンもおいしいですよ!」(樋口さん)
【coffee unoのコーヒーデータ】
●焙煎機/井上製作所半熱風式4キロ
●抽出/ハンドドリップ(ハリオV60、ネル)、水出し・ミルク出し(夏季限定)
●焙煎度合い/浅煎り〜深煎り
●テイクアウト/あり
●豆の販売/100グラム750円〜
取材・文=大川真由美
撮影=古川寛二
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