恋人や結婚相手を探す手段として浸透した「マッチングアプリ」。

接点のない人とオンラインで簡単につながることができる。

そう、出会うまでは早い。だけど…その先の恋愛までもが簡単になったわけじゃない。

理想と現実のギャップに苦しんだり、気になった相手に好かれなかったり――。

私の、僕の、どこがダメだったのだろうか?その答えを探しにいこう。

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Episode10【Q】:石橋 光一、30歳。
美女と付き合いたいけど、落とし方不明。


「あ〜、楽だわ。最高」

僕は、泡が多めの雑なビ―ルを飲み干す。

「千紗は気を遣わなくていいし、雑多な雰囲気の店でも平気だしな」

「あのぉ、私も一応レディなんですけど」

そう口を尖らせたのは、会社の同期の千紗。

赤坂の韓国料理店で、店員を待たず自らサムギョプサルを慣れた手つきで切っていく。

その姿は、なんとも頼もしい。

「光一さ、こんなところで私と飲んでていいの?アプリで出会った超絶美女はどうしたのよ」

「あぁ〜優子ちゃんね。たぶんフラれた」
「たぶんって?何かやらかしたの」
「聞く?長くなるけど」

僕は、サムギョプサルに箸を伸ばすと「まだ」と制す千紗に、優子のことを話すことにした。




一般人離れした美女


― やっば!めちゃくちゃ美人。どタイプすぎる…!

優子から「いいね」をもらったとき、僕はしばらく息をするのを忘れた。

僕は、広告代理店の営業職。身長も高いし、顔も悪くない。モテないわけじゃないし、食事会も頻繁にある。

けれど、こんなに顔面が整っている女性には、社会に出て一度もまだ会えていない。

― もしかして…サクラ?

そう疑ってしまうほど、優子は美しかった。

わかっている。こういう女性はお金持ちとしか付き合わない。

だから、迂闊に手を出すと痛い目に遭うか、恥をかくか。またはその両方を味わうことになるだろう。

― でも…

それでもいいから、僕は彼女に会ってみたかった。人生観が変わるような気がしたからだ。



優子を食事に誘ったらすぐにOKがもらえたので、僕は、ホテルに入っている高級鉄板焼きレストランを予約した。

― おぉ…

レストランの前で待ち合わせたのだが、彼女のオ―ラは半端なかった。

「優子ちゃんって、モデルさん?いや、女優さん?とても一般人に見えないんだけど…」

「ありがとうございます。でも、ただの会社員ですよ〜」

彼女はそう答えたが、明らかに誰よりも目立っている。

食事中もチラチラと優子を見ていたが、食べ方も綺麗だった。




「ホテル内にして正解だったなぁ。普段からこういうところ、来てるでしょ」

緊張のせいか、中身のない話しかできない。

「え…っと…時々かなぁ。でも、きちんとした場所でいただくのは好きですよ。気持ちがリセットできるので」

優子は、ちゃんと自分の言葉で答えてくれるのが嬉しかった。

― こんな人が彼女だったら、幸せだろうなぁ。

「優子ちゃんって、本当に彼氏いないの?」

僕は思い切って聞いてみた。


まだチャンスはある?


「うん。いないけど…どうして?」
「いや、美人すぎるからだよ〜。本当にただの会社員?」

彼氏がいないという返答にテンションが上がり、質問をストレートにぶつけてしまう。

「うん。まぁ、若い頃は副業で夜の仕事をしてたけど、そんなのみんなやってるでしょう?」

「あ〜〜。なるほど。そりゃ、そうだよね」

「光一くんは、夜やってた女性は無理なひと?」




この会話の流れで、優子の気分を悪くしてしまった気がする。緊張すると、いつもこうだ。

「ううん、それはないかな。むしろ尊敬する。大変な仕事だと思うし、誰でもできることじゃないから」

「優子ちゃんが働いてたのって、六本木?やっぱり銀座?」

「……銀座だけど」

僕は失点を何とか取り戻したくて、彼女を褒めることに必死だった。

それが伝わっていたのかはわからない。

結局、2軒目に誘うこともできず、僕らは恵比寿ガーデンプレイで解散した。

― だけど、まだチャンスがあるのならば…

僕は祈る気持ちで、優子にメッセ―ジを送信する。

『光一:優子ちゃん、今日はありがとう!すごく楽しかった。もしよかったらまた会ってくれませんか?』

その祈りが天に届いたのか、優子からはすぐに返信が届く。

『優子:私も楽しかった^^ ぜひぜひ。会いましょう〜!』

― よかったぁぁあ。

『光一:じゃあ、お店探して連絡するね』

僕は「今度こそ」と気合いを入れて、銀座の寿司屋を予約した。




夏のボーナスの使い道を決めていなかったが、美女にごちそうできるなら、本望だ。

しかし、優子は喜んでる様子はなかった。

もちろん食事は楽しんでくれたが、思うように会話が弾まなかったのだ。

そして帰り道。

「あのね、光一くん。私高い店じゃなくても全然いいんだよ」

タクシーを待ちながら、優子に言われた。

「もんじゃ焼きとか、餃子にビ―ルとか!そういうの大好きだし、だから…」

僕がサラリーマンだから、気を遣ってるのだろう。それが悔しかった。

「またまたぁ〜。そうは言っても、実際連れて行かれたら、ガッカリしちゃうでしょ。それに、こんなにきれいな人をカジュアルすぎる店に連れて行けないよ」

銀座上がりの美人会社員。

きっと、経済力がある男性としか付き合ってきていないし、そういう人が好みなのだろう。

「そっか。ありがとう」

優子は悲しげに微笑み、タクシーに乗って帰ってしまった。




「さらに、LINEPayでその日の食事代が送金されてきたんだよね。そこでジ・エンド」

黙って聞いていた千紗は、ジョッキを置いて言う。

「…なんだ。それだけ?諦めるの早くない?」

「いや、もういいんだよ。しょせん僕には釣り合わないお姫様だったから」

「そんなにいい女なの?盛ってない?」

「大丈夫。間違いなく千紗よりは綺麗だから」

「は?喧嘩したいの?」

「ごめんなさい。そうじゃなくて、千紗は可愛い系でしょ。種類が違うからさ」

千紗は納得がいっていない態度で、チャミスルを注文した。

今夜はとことん飲むようだ。

「千紗と付き合ったら、楽しいかな?楽しいとラクって同じ?」

あまりタイプではないが、よく見たら千紗も顔のパ―ツが整っているし、歯並びも綺麗だ。

彼女にするには悪くない。アリ寄りのアリだ。

しかし、千紗には「しらん、てか無理!」と一蹴されてしまった。

「だよな」

僕はこの先、美女を落とすことは不可能なのだろうか?

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優子の本当の気持ちは…