マウンティング。

本来は動物が「相手よりも自分が優位であること」を示そうとする行為のことを言う。

しかし最近、残念ながら人間界にもマウンティングが蔓延っているのだ。

それらを制裁すべく現れたのが、財閥の創業一族で現在はIT関連会社を経営する、一条元(はじめ)。通称・ジェームズだ。

マウンティング・ポリスとも呼ばれる彼が、今日戦う相手とは…?

▶前回:「有名人と知り合いであること」だけが取り柄。低レベルな自慢を繰り返す女がついていた、ヤバすぎる嘘




「はぁ…。女心は難しいね」

神楽坂の『アルボール』で、思わず声に出ていたらしい。蓮が、僕の顔を覗き込みながらニヤニヤしている。

「あれ、どうした?世紀のモテ男・ジェームズにもそんな悩みがあるんだ」
「なんだよそれ。そりゃあるよ」
「ジェームズがちょっと微笑めば、世の中の全員がイチコロでしょ」
「イチコロ、ってどういう意味?」
「…どういう意味なんだろう?コロっと転がる?」

蓮となんの実りもない会話をしていると、先日会った桜から連絡が入った。

「あれ。桜ちゃんだ」
「…えっ、誰?」
「いや、ちょっとね」

彼女から連絡が来て、僕は少し浮かれてしまう。…ただ結局、今回も浮かれ損になることはなんとなく予想できるのだった。


桜から届いた、メッセージの内容とは?


Case12:息子の学校名でマウンティングする女/通報者・亜希(41)の場合


今日に限って、どうして彼女に会ってしまったのだろうか。

「亜希さん、久しぶりですね〜」

同じマンションに住む七美さんは、私より5歳くらい年下のママ友だ。

BORDERS at BALCONYのワンピースに手元にはDiorのブックトートと、派手ではないけれど、まるで雑誌のスナップにでも出てきそうな装い。

一方の私は適当な洋服で、先ほどスーパーで購入した野菜が入っているエコバッグを、思わず背後に隠す。

「七美さん!お久しぶりですね」

最近、お互いの子どもが別々の小学校に入り、以前ほど密な付き合いがなくなってホッとしていた。でも偶然会ってしまったのだから、仕方がない。

「亜希さん、最近はみんなの集まりにも全然顔を出してくれないから、心配してたんですよ〜」
「ごめんなさい、ちょっと忙しくて」
「でも、しょうがないですよね。湊くんのお受験が失敗しちゃったから…。って、ごめんなさい!失敗ではないですよね」

1人息子の湊は、この春小学校に入学した。

ただ残念ながら希望の私立には入れず、公立に進んだ。けれども結果として、息子は毎日楽しそうに通っているし、家からも近くて良かったと思っている。

でも心機一転、頑張ろうとしている我が家とは対照的に、彼女は何か言いたいらしい。

「湊くんの学校はどうですか?公立って色々と違うから、大変そうですよね…」
「意外といい学校ですよ。でも晴翔くんはすごいですよね!慶應幼稚舎に受かるなんて」

七美さんの息子である晴翔くんはお受験に成功し、第一希望の超難関校へ入学した。面倒だけれども、ここは褒めておくに限る。

「いや、普通ですよ〜。でも、これから湊くんも“不憫”ですね。ずっと公立なら、受験も多いだろうし」
「そうですね。そのぶん、勉強はしっかりさせようと思ってて」
「私立一貫校にさえ入れれば、とりあえず安心だったのに…。残念でしたね。あと何より、周りのお友達の質が違うじゃないですか」




「質、ですか…?」
「そこでしかできない人脈とかあるでしょ?特に幼稚舎は結束も固いですし。大人になってから作れる人脈とは、本質的なレベルが違うかなと思って」

今日、ここで七美さんに会ってしまったことを、本気で後悔した。

そもそも彼女とは、息子たちがもっと小さかった頃に仲良くしていたのだ。しかしお互い受験組だと知った途端、急にトゲトゲしくなった。

まるで相手の状況を探るかのような会話に、表面上の付き合い。

そしてようやく受験が終わったかと思ったら、今度は子どもが通う学校のランクで人をジャッジし、上から目線で話をしてくる。

― どれほど狭い世界で生きているんだろう?

しかし心の中でいくらそう思っても、何も言えない。なぜなら子ども同士の付き合いも少なからずあるし、ママ友と下手なトラブルを起こすことだけは避けたいから。

「学校で、その子の人生は決まるって言いますからね。親の務めとして、最低限のことはしてあげないと」

まるで、私が親失格のような言い方だ。

「ごめんなさい、夕飯の用意があるので失礼しますね」
「え〜、もう行っちゃうんですか?…そうだ!来週あたり、ゆっくりお茶でもしませんか?子どもたちの近況報告も兼ねて♡」

YESともNOとも言わず、私は軽い会釈だけしてその場を去った。

…ただ、どうにも腹の虫がおさまらなかったのだ。そして帰宅後、年下の友人である桜ちゃんに、愚痴LINEを送ったのだった。


子どもが通う学校名でマウントを取ってくるママ友を、ギャフンと言わせる方法は!?


悩みを打ち明けると、すぐに返信があった。

桜ちゃんは何かを企んでいるようで、彼女の指示のもと、七美さんを我が家へ招くことになったのだ。

もちろんそこに桜ちゃんも招待したのだけれど、彼女は特別ゲストを呼んでいるという。

「桜ちゃん、誰が来るの?」
「まぁまぁ、ちょっと待っていてくださいね。…って、キタキタ!」

インターホンが鳴ったので出てみると、小さな画面越しでもわかるくらいのイケメンが、3人も映っている。

「お邪魔します」

家に上がってきた彼らは、あまりにもカッコよかった。漫画のエフェクトにあるようなキラキラと輝く光が背後に見えたのは、気のせいだろうか。

「さ、桜ちゃん…。どちら様でしょうか?」
「こちら、私の友人のジェームズさんと蓮さん。そして瑛太さんです」
「どうも、初めまして」

あまりのオーラに、私も七美さんも圧倒されてしまっている。

「今日はお招きいただきありがとうございます。これ、ツマラナイ物ですが…」

ジェームズさんが流暢な日本語で手土産を差し出してくれたので、慌ててそれを受け取った。

「狭い家で、恐縮です…」
「とんでもないです。素晴らしい眺めですね。やっぱり高層階っていいな〜」

そう言ってニコニコしているジェームズさん。最初は私も圧倒されていたけれど、3人とも優しくて紳士的な方だったので、私たちはすぐに打ち解けた。




「桜ちゃんとは、昔からのお付き合いなんですね」
「はい。しばらくは離れていたんですけど、大学時代に再会して」
「そうなんです!でも、ジェームズさんがUC Berkeleyなのは知ってたけど…。瑛太さんはUCLAで、蓮さんはハーバード卒なんですか?」

話題はいつの間にか、それぞれの出身校の話になっていた。すると七美さんは、急に嬉しそうな表情になって語りだす。

「みなさん高学歴なんですね!…もちろん、小学校から私立に通われてるんですよね?どちらに通われていたんですか?参考までに知りたくて」

彼女の言葉を聞いた途端、3人は気まずそうに顔を見合わせる。

「あ〜。ジェームズは早々に、ボーディングスクールに入れられて(笑)。で、僕はアメリカで育っているんですが…。蓮はいつまで日本だった?」
「僕は中学まで日本だよ」
「ちなみに、どこの学校へ行かれていたんですか?やっぱり慶應ですか?」

グイッと迫って尋ねる七美さん。その様子を見て、蓮さんはフッと笑いながらこう言った。

「いいえ。僕は普通の家庭ですし、地元の公立小学校へ通っていました」
「え…?公立に?」

彼女は、蓮さんの言葉に「信じられない…」とでも言いたげな表情を浮かべている。

「でも、公立からハーバードって行けるものなんですか?」
「まぁ出身中学なんて誰も気にしないし、関係ないですよ。それより僕は地元に友達がたくさんできたので、そっちのほうが価値があるなと思いました」

桜ちゃんが彼らをこの場に連れてきてくれたことに、感謝しかなかった。

たしかに私立の中高一貫校に入れられれば、いいこともたくさんあるだろう。人脈に環境、得られる物はたくさんある。

でもそれがすべてではない。ましてやこの先、勉強を頑張るのは息子自身だ。子どもがどこの学校へ行こうと、親のランクが上がったり下がったりするものではないはず。

「桜ちゃん、ありがとう」
「いえ、私は何もしてませんから。でもこの3人、本当に素敵ですよね」

イケメンたちの横顔をぼうっと見つめながら「息子もいつか、この3人のように相手の立場になって物事を考えられるような、優しい人に育ってほしい」と切に願った。

学歴よりも大切なことがある。改めて、そう教えてもらったような気がした。

▶前回:「有名人と知り合いであること」だけが取り柄。低レベルな自慢を繰り返す女がついていた、ヤバすぎる嘘

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