―なんで“にゃんにゃんOL”を選ぶの!?

ハイスペ男子の結婚式で、こう思ったことのある高学歴女子は多いのではないだろうか。

お嬢様女子校から東大に入り、コンサルティング会社でマネージャーになるべく仕事に邁進している大西夏希(28歳)もその一人。

一流大学に入り、一流企業で仕事を頑張ってきた自分は、婚活なんかしなくても自然と結婚できるはず ……。

そう思っている夏希が、結婚できない本当の理由とは―?

同業者のマリから誘われたクルージングでの出会いに期待するが、ミスコン美女軍団に圧倒され、自分の市場価値を見誤っていたと落ち込む夏希。

無意味なお食事会を断り港区お爺さんで傷を癒そうとするが、留美に「一見、無駄に思えることでも価値があったりする。」と諭される。

会社の研修で武田と再会し、キャリアと家庭の両立に悩み結婚相手を見つけられずにいる姿にときめくが…。




夏希はめずらしくデパートをウロウロとしていた。

社会人になってからというもの、いくつかの決まったブランドで黒・紺・グレーのスーツばかり買っていた為、こうやってフロアを周遊するのは久しぶりだ。

先日の研修でピンクという色が女性性を表すようになったのは、ごく最近だというエピソードを聞き、今まで苦手意識を持っていたテイストのファッションに挑戦してみようという気になったのだ。

男に媚びたくないという鎧が徐々に取れかけ、変わりに柔らかさや華やかさを纏いたくなっていた。

おずおずと、いつもとは違うフロアの婦人服売場に行ってみると、そこには朋子のようなにゃんにゃんOLが溢れていた。セール終盤の時期で、所謂モテ服が文字通りたたき売られている。

―50%引きにしても売れないモテ服か…。私はどうなんだろう。

そんな疑問が浮かび上がると、一気に購入意欲も萎えてしまった。

夜はゼミの同窓会だが、まだ時間がある。お茶でもしていこうかとエレベーターを昇り、喫茶店のある特選工芸品フロアに向かった。


高学歴女子の市場価値は骨董品の域に達していた!?


高学歴女子を骨董品と同じ目線で愛でる港区お爺さん


美しい工芸品を横目に、フロアの端にある喫茶店を目指す。すると松本さんによく似た初老の紳士が骨董品を愛でている姿が目に留まった。

実用性などは一切省みず、己の主張をこれでもかと具現化した骨董品の数々。

男性に媚びたくないと自分のスペックを高める努力ばかりしてきた自分の姿と重なる。

先程まで50%引きにしても売れないモテ服にはなりたくないと思っていたが、むしろ自分は骨董品になりつつあるのか。

…イヤ!骨董品にはなりたくない!!

慌てて下の階に引き返し、Theoryでレースのトップスを買うのが、夏希にできる精一杯だった。




中目黒の『いふう』に向かう為タクシーに乗った途端、ドッと疲れが出た。ゼミの同級生には海外勤務も多く、今日は夏希を入れて6人の小規模な集まりだ。

2階に着くと、幹事の希を取り囲むように男子が座っていた。夏希からすると、希はビジュアルもキャリアも中の上といったところだ。

新卒で外資金融に就職したものの、あまりの激務に体調を崩し3年もしないで退職。今は、当時の上司の立ち上げたファンドで秘書的なことをやっているらしい。

「時間、あるから。」

そう言って、毎回、同窓会の幹事を引き受けてくれている。

「予約取るの大変だったでしょ?」

男子たちが希を労う。たかがお店の予約で大袈裟な…と夏希は思う。

「そんなこと無いよ。パートナーに急に会食を依頼されるのより全然ラク。」

事も無げに言う希に、男子が声を被せにかかる。

「いや、ここ2、3年で予約が取れない店は、ますます予約が取れなくなってる気がする。」

その言葉に、男子が全員頷いている。なんでも、彼女からインスタに載せて自慢できるお店でのデートをせがまれ、忙しい仕事の合間をぬって予約するのに苦労しているそうだ。

東大の同級生で皆エリートと言われる彼等だが、年収は1,000万円前後。予約の取れない店に顔が利くほどの財力も経験値も無いのだ。

「希ちゃんみたいに理解ある子が彼女だったらなあ。」

冗談めかした口調で盛り上がる男子たち。すると、唯一の既婚者である商社マンの直樹が神妙な面持ちで言うのだった。

「いや、ホント、俺も希みたいな子と結婚すれば良かったよ。」


普通の女がハイスぺ男子にモテる訳とは?


年収3,000万円を要求する美人より、年収1,000万円で喜び続ける普通の女の方がモテる


直樹の妻は、MARCHのどこかの大学のミスコンに出場していた美人だ。見た目に関しては希とは格が違うのは認めざるをえない。いつ駐在の話が出ても良いようにと、直樹が26歳、奥様は24歳で結婚したと記憶している。

「うちの嫁なんて、給料はずーっと右肩上がりで増えていくと思ってるみたいなんだよ。でもさ、会社に入って5年も経てば、社内での自分の限界値って見えてきちゃうじゃん。悔しいけど。」

男子全員が頷くのを見て直樹は続ける。

「商社マンで年収3,000万円いくのなんて、ほんの一握り。努力だけでは超えられない壁があるっていうのを分からない嫁はしんどいよ。」

「その点…」

直樹は少し言い淀みながら言葉を選んでいるようだった。

「希は外銀で一度大変な思いをしているから、“出世して”ばっかり言ってこなそうじゃん。」

「ふふっそうだね、そうかも。」

希はおかしそうに笑っている。その様子からは、数年前の激務だった当時のトラウマを完全に乗り越えたことが覗える。




「お前らも、予約が取れない店に連れて行ってとか平然と言ってくる女には気を付けた方が良いぞ。弱みを見せられる関係じゃないと、結婚生活を続けるのは大変だから。」

そういう直樹は、最近はもっぱらスナックの常連になっているらしかった。



弱みを見せられる関係かあ…。

お土産に握ってもらった雲丹ごはんを食べながら、夏希は一人暮らしの部屋のソファで、研修後の武田さんとの会話を思い出していた。

…武田さんは自分に弱みを見せてくれた気がする。ということは脈ありなのだろうか?

思いきってランチにでも誘ってみようかしら…と携帯に手を伸ばす。しかし、断られたらどうしようと思うと、メッセージを送るのが躊躇われた。

そこに千春からLINEがきた。

“夏希、今度の水曜日空いてる?女子大の友達がね、外銀とお食事会するって!!夏希も良かったら来ない?”

正直、武田さんのことが気になり、あまり気乗りしない。しかし、先日の留美の忠告もある。

“お誘いありがとう。是非、ご一緒させて。”

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