いつかは結婚して子供を産みたい。でも先輩ワーママを見てたら「大変すぎてムリ……」と尻ごみしちゃう。そんなアラサー女性は少なくないはず。

マタハラ、保活、マミートラック……仕事と育児の両立は、日本では大きな課題となっていますが、それは女性の社会進出が進んでいるアメリカ・ニューヨークでも同じなんだそう。

今回は、東京の比じゃないという、過酷すぎるニューヨークのワーママ事情について現地在住のママライター、椿慶子(つばき・けいこ)さんにレポートしていただきました。

保育園に月23万円は当たり前

保育園不足が問題になっていますが、子育てが大変なのは、日本に限ったことではありません。

アメリカでは、Pre-school(プレスクール)という小学校が始まる前の半日だけの幼稚園(通常4歳か5歳からスタート)があります。かろうじて、これが政府運営で無料になるケースがある州もありますが、それ以前に働くために子供を入れる、通称デイケアと呼ばれる私立の施設は全額負担が基本です。そして物価の高いNYC(ニューヨークシティ)では、その額が平均して2000ドル以上、日本円にして23万円(2017年3月為替レート)程度というから、ワーキングマザーには、大変な負担なのです。

23万円も払うんだからそれなりのクオリティをと、日本人である私などは期待してしまうのですが、手厚く面倒を見てくれるというよりは、勝手に遊ばせているだけのところが多いです。

デイケアの施設自体にも政府からの援助があるわけではないので、施設側はいたってビジネスライク。ランチ、スナック、飲み物は親が持参。昼寝は子供がしたいだけさせ、おむつ替えの頻度も最低限……。

それでも9時から6時勤務が基本のニューヨークワーカーは、子供をデイケアに行かせない限り仕事を続けられません。たまたま親が元気で近くにいたりする人(少数派)以外は、泣く泣くバカ高いデイケアに子供を入れるしかないケースがほとんど。

“近所のおばちゃん”に子守りを頼んでも13万円超

ニューヨークで働く誰もが、このような額を支払える訳ではありません。

給料のほとんどがデイケア代で消えてしまう……と泣く泣く仕事を諦める女性も少なくはないのが現実。よほどの上流家庭ではない限り、特に子供が二人以上いる家庭は、女性が子供が学校に上がるまで、家で面倒を見る方々が多いのも納得です。

それでもどうしても仕事を続けなければいけないという女性にとって、他に選択肢は……? というと、マンハッタン外の地区に多い、通称「ファミリーデイケア」と呼ばれるサービス。要は近所の移民のおばちゃんが家でやっている子守制度です。おばちゃんとアシスタントで12、13人の子供を見ているケースがほとんど。そんな素人ビジネスでさえ月1200ドル(13万5000円)以上だから驚きです。

またナニーシェアといって、働くワ―ママ友とベビーシッターをシェアする人も最近増えてきています。こんな状況だからこそ、一緒に苦労と負担を分かち合えるのは不幸中の幸い、大変よいことですよね。

破格のベビーシッターだけど…

残業でお迎えが遅れてしまう時などに大変便利なのが、ベビーシッター。しかし、安心して預けられるベビーシッターを探すのも、価値観が多様なニューヨークでは非常に困難です。

履歴書でバックグラウンドチェックをして、犯罪歴なし、最低でも英語が話せて時間を守ってくれる人……ついでに簡単なごはんを子供に作ってくれる人、といった“常識と良識がある人”を求めると、最低でも時給25ドル(2700円)以上は払わないといけません。ニューヨークには、年収1000万円以上のベビーシッターもいるというから驚きですよね。

「育メン」か「稼ぎメン」以外の男とは結婚できない

このような過酷な子育て事情の中で、自分は何もしない子供のような夫、いくら外で働こうが家事と子育ては女性の仕事!という感覚の男尊女卑の夫(もしくは事実婚のパートナー)を持てば、女性の方はプッツンと糸が切れてしまうでしょう。

そんな夫を抱えながら結婚生活を続けられるのは、「おしん」のように耐え続ける女性……なのかもしれませんが、アメリカで“耐える”というスタイルは、決して美徳にはなりえません。

というわけで、パートナーが子育てに超協力的な育メン、もしくは稼ぎのよい稼ぎメンで奥様に寛大……という状況でもない限り、頑張るワ―ママにはとてつもない負担がかかってしまいます。育児と仕事のバランス感覚をめぐりモメて、挙句の果てに離婚となる夫婦も少なくありません。

女はつらいよニューヨーク

アメリカでは、マタハラやセクハラが日本に比べて断然少ないようなイメージがありますが、実際のところ、女性に対するマタハラ、セクハラ、モラハラも日常的にたくさん起きていますし、裁判にまで持ち込む強気な女性も日本より多いです。

上司が子育ての苦労に理解があるという場合はとてもラッキーですが、成果主義のアメリカ、ましてやさらに実力主義のニューヨークでは、子供がいるからといって、仕事で大目に見てもらえることはほとんどありません。だからアラサーやアラフォーで「結婚したい」「子供を産みたい」という夢や希望があっても、思いきり働こうとすると最終的に“子なし”を選択する女性がニューヨークに多いのも納得です。そして、このような環境では、男性も負担を躊躇して、結婚や子供に足踏みしてしまう傾向があります。

どこの国でも、結婚、妊娠、出産、育児は一筋縄ではいきませんが、その国の制度や男性に理解があると女性の負担がかなり軽減されるのは確かです。いつか、自分たちの子供が親になる時代には、そんなふうになっていますようにと祈りつつ、ひたすら突き進むしかないニューヨークのワ―ママ事情でした。

椿 慶子