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写真上:BLESS/小金沢健人《夏のBLESS》2014年(部分)
丸亀市猪熊弦一郎現代美術館での展示風景
撮影:ホンマタカシ

FASHION-modeにて不定期連載中の「journal by林央子」。以前掲載の『水戸芸術館「拡張するファッション」展で行われたパスカル・ガテンのワークショップ報告』に引き続き、林央子の著作『拡張するファション』(スペースシャワーネットワーク)を元に企画された「拡張するファッション」展が巡回中(会期:6月14日〜9月23日)の四国・香川県 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(MIMOCA)で、展示や作家との交流から林央子が捉えた“新たな視点”を数回にわたって紹介していく。

いよいよ、23日(祝)までとなったMIMOCAの「拡張するファッション」展。水戸と丸亀で半年にわたり開催されてきた展覧会がまもなく終了する。今回は、丸亀の展示設営中に他の参加作家から「あのTシャツ、いいね」「欲しいな」と話題になっていたBLESSのHoliday T-shirtについて、その制作コンセプトや背景をインタビューした。

展示会場でBLESSの新作<No51 Silent Servant>にかけられていたHoliday T-shirtはスタッフやデザイナー、彼らの親しい友人たちが体験した休暇中のスナップショットを全面にプリントしたもの。よく見ると、必ず撮影者の脚と膝が写っている。くつろいだポーズをとっている人、つまり撮影者がはいているのは必ず、前シーズンのBLESSの「新作」パンツである(自分たちやスタッフはいつも最新コレクションを着用しているから)。

仕事の時間はストレスでいっぱいだからこそ、Holidayの時間を大事にすること。デザイナーたちやスタッフ自身とその周囲の親しい友人を、彼らのラインの一部にひっそりと取り込んでいくこと。それはBLESSのこれまでの思想から一貫していることである。過去にも、BLESSというロゴをいろいろなスタッフが手で刺しゅうしたジーンズが生まれたり、前のコレクションファブリックを使った”Last Season’s T-shirt”という製品が生まれたりしているが、最近(2008年以降)彼らがコンスタントに発表し続けているのが、”Holiday T-shirt”だ。
彼らの意図は理解しているつもりだが、あらためて何故”Holiday T-shirt”なのだろうか?

--毎シーズンコンスタントに発表し続けているこれらは、BLESS初のT-shirtラインなのですか?
BLESS デジレ・ヘイス&イネス・カーグ そう言うこともできますね。でも布地はジャージーではなく、とても薄いコットン・ヴェイルです。ですから、とても軽くて、着心地が良いのです。

--6月に丸亀の設営中にあなたたちが着ていて、生地に触れてみたらその薄さとやわらかさにびっくりしました。
BLESS デジレ・ヘイス&イネス・カーグ 非常に高品質なコットン・ヴェイル100%でできています。この素材をとても気に入っているのは、洗濯すればするほど柔らかくなることです。まるで、雲を着ているような感じです。軽さと柔らかさが混ざり合って、ホリデーの、今にも消えて行きそうな美しい瞬間を素敵に留めているのです。

--休暇の写真をフォトフレームに飾る、パソコンやiPhoneの待ち受け画面にする、という以外にも素敵な方法を見つけたわけですね。そしてこのT-shirtがあることで、BLESSのルックに色や柄がさりげなく混ざり合うというスタイリング上の妙味もあるんだな、と気づきました。
BLESS デジレ・ヘイス&イネス・カーグ 私たちにとって重要なことは、コレクションを作りあげるという観点よりも、「個人的な思い出や個人の繋がりを、着る物にしたい」という欲望のほうがまず先にありました。でもたしかにあなたの視点も正しくて、私たちの、落ち着いた雰囲気の服装にこのT-shirtのモチーフが転がり込んでくるということは利点でもあります。

--私の印象に強く残っているのはDINASOUR T-shirtで、パリの自然史博物館の恐竜展示場で撮影されたものです。男の子をもつ母親が休日に撮ったということがよくわかります。私も子供が小さいころよくそういう場所にいきましたから。
BLESS デジレ・ヘイス&イネス・カーグ その写真を誰が撮ったかということは重要ではありませんが、どの写真をT-shirtにするかという決断を行う上で重要なのは、その瞬間その時間を一緒に生きた家族や友達と、その瞬間や眺めをシェアしたいという欲望からきているのです。

--MIMOCAの設営のため、来日した際に撮影した写真もHoliday T-shirtになるそうですね。忙しい設営の合間をぬって出かけた金比羅詣でに、あなたたちはかなり感激していました。
BLESS デジレ・ヘイス&イネス・カーグ ちょうどデザインを起こしたところで、2015年2月に発売予定です。

雲のような着心地のBLESS のHoliday T-shirtは、一瞬の記憶を親しい仲間とシェアするための服。Timeless Comfortという、服や身の回りのプロダクツを産み出し続けるBLESSの思想の一つのあらわれでもある。

(text / nakako hayashi


拡張するファッション
期間:2014年6月14日(土)〜2014年9月23日(火・祝)10時〜18時(入館は17時30分まで)
会場:丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(香川県丸亀市浜町80−1)
URL:本展詳細はこちら

1988年、ICU卒業後資生堂に入社。宣伝部花椿編集室(後に企業文化部)に所属し、『花椿』誌の編集に13年間携わる。2001年よりフリーランスとして国内外の雑誌に寄稿、2002年にインディペンデント出版のプロジェクト『here and there』(AD・服部一成)を立ち上げ、2014年までに11冊を刊行。著書に『パリ・コレクション・インディヴィジュアルズ』『同2』、編著に『ベイビー・ジェネレーション』(すべてリトルモア)、共著に『わたしを変える”アートとファッション” クリエイティブの課外授業』(PARCO出版)。展覧会の原案となった著書『拡張するファッション』(スペースシャワーネットワーク)に続いて2014年には、展覧会の空気や作家と林央子の対話を伝える公式図録『拡張するファッション ドキュメント』(DU BOOKS)が発売された。



水戸芸術館「拡張するファッション」展で行われたパスカル・ガテンのワークショップ報告

丸亀市猪熊弦一郎現代美術館「拡張するファッション」展 ホンマタカシとPUGMENT

「日々の生活が、アートになる」スーザン・チャンチオロ:MIMOCA「拡張するファッション」展より

Cosmic Wonderのあたらしいかたち :MIMOCA「拡張するファッション」展より