NHK朝ドラ『風、薫る』で目を引く38歳俳優。“完璧な貴公子”を作り上げた意外な経歴と地道な努力
高貴な佇まいを武器にする古川だが、高貴と尊大の裏に葛藤をもつ役柄がよく似合う。圧倒的な貴公子像を造形するための、地道な努力がある俳優である。
◆高貴な役が似合う古川雄大
古川雄大ほど、貴公子という言葉が似つかわしい俳優は他にいないだろう。実際、ミュージカル界の貴公子と称されることがある古川は、現在放送中の連続テレビ小説『風、薫る』においても、高貴な佇まいがとにかく印象的である。
古川が演じるのは、主人公たちが看護婦として勤務する、帝都大病院の外科教授・今井益男役だ。第7週第32回、何とも厳めしい総回診場面で初登場する。廊下をぞろぞろ歩く外科の面々が付き従う。その先頭に立つ今井が、一糸乱れぬ動きで病室に向かう。
ただ1つ特異に動くものといえば、美しい弧を描く眉毛。時折、くいっと眉山が上がる。これが見事にエレガントな曲線となる(主人公が看護に苦戦する頑固な患者役の野添義弘もまるで古川につられるように眉毛を一瞬上げるショットがある)。
どこからか聞こえる鐘の音と廊下の窓から今井の顔に差し込む日差しも神々しい雰囲気を演出。誰がどう見ても、高貴な役が似合う俳優だ。
◆ミュージカル俳優の登竜門と異色の経歴
『テニスの王子様』を(2.5次元)ミュージカル化した、いわゆる「テニミュ」出演を足掛かりにした古川だが、出世作は2012年のミュージカル『エリザベート』だった。1992年のウィーン初演から20周年という節目に、古川はオーストリア皇太子ルドルフ役を得た。
ルドルフは、皇帝フランツ=ヨーゼフ1世とその妃エリザベートとの間の子であり、歴史の潮目の中で父とは政治的に反目した。そうした重厚な葛藤のキャラクター性を表現する必要があり、ルドルフ役はミュージカル俳優の登竜門といわれたりもする。
そして皇太子という高貴な役柄が、貴公子俳優・古川雄大のターニングポイントといえるだろう。有名ミュージカル作品で重要な役を掴む前には、こんな異色の経歴もある。高校卒業後、事務所に所属した古川は、テーマパークのダンサーとしてパフォーマー経験があった。
◆地道な努力によって造形された貴公子像
学生時代は、クラシックバレエを習っていた。2021年放送のNHKドラマ『カンパニー〜逆転のスワン〜』(BSプレミアム)では、バレエを習っていないのに『白鳥の湖』(それも新解釈!)のジークフリート王子役に担ぎ上げられる、人気アイドル・水上那由多役で出演している。ドラマ内でもやっぱり高貴な役柄が似合うのである。
同作はKバレエ カンパニーが監修している。芸術監督(現在はK-BALLET TOKYO総監督)である熊川哲也にとって、『白鳥の湖』は「熊川バレエの代名詞」と評されるほど重要な演出レパートリーである。
同カンパニーの宮尾俊太郎も世界的バレエダンサー・高野悠役で出演し、バレエ素人の水上のことを認めようとしないのだが、水上も自分は何万人も入る会場でファンをわかせられるのだと食い下がる。
だが高野が言うようにバレエは「付け焼き刃のレッスン」でできるものではない。練習する中で水上もそれなりに葛藤する。ルドルフ役同様、高貴(であると同時に尊大なところもある)な分だけキャラクターの葛藤は大きくなる。
古川はこうした高貴な葛藤を演じるのがうまい。最初は主人公たちのことを見下し、鼻で笑っていた今井役でさえ、第13週第65回あたりから静かな人間味(葛藤)がうまれていた。
ただ単に、王子様のようなビジュアルであり、高貴な佇まいがあればいいわけではない。役柄の葛藤をきちんと表現するための細かな役作りや分析に裏打ちされてこそではないのか。
神は細部に宿ると言葉でいうのは簡単だけれど、古川雄大が体現する完璧な貴公子像は、地道な努力によって造形されたものなのだ。
<文/加賀谷健>
【加賀谷健】
イケメン研究家 / (株)KKミュージック取締役
“イケメン研究家”として大学時代からイケメン俳優に関するコラムを多くの媒体で執筆。アーティストマネジメント、ダイナマイトボートレース等のCM作品やコンサートでのクラシック音楽監修、大手ディベロッパーの映像キャスティング・演出、アジア映画宣伝プロデュースを手掛ける。他に、LDHアーティストのオフィシャルレポート担当や特典映像の聞き手など。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。
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