超軟水の町で造られる日本酒とビールを堪能【長野県・信濃大町】で呑み歩き満喫の2日間

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長野県大町市。信濃大町は北アルプスの雪解け水が湧き水となる水の街。特に町特有の超軟水で造る日本酒は “大町三蔵” と呼ばれる3軒の蔵元が仕込みます。そこにクラフトビールも加わって、2024年9月14日(土)と15日(日)にはイベント「北アルプス呑み歩き」を開催。お酒好きなら見逃せない2日間です。

モンドセレクション最高金賞を受賞した水


実は大町の水を飲んだことのある人は意外なほど多いハズ。それもそのはず、2022年5月から市内ではサントリー天然水「北アルプス」の工場が稼動。さらに大町の水は2018年からモンドセレクションで3年連続受賞し、2020年には最高金賞を獲得するなど、世界的にもその美味しさが評価されています。



▲北アルプスを望む “水の町” 信濃大町 <画像提供:大町市役所>

北に白馬、南の安曇野にはさまれた大町は、立山黒部アルペンルートの長野側の出発点。特に信濃大町は、北アルプスの雪解け水が一番最初に湧き出る “水の町” です。



▲商店街にある蛇口からは超軟水の水が出て、自由に飲むことができます

水に含まれるミネラルが多いものを硬水(硬度300以上)、少ないものが軟水(硬度100未満)で、20以下を超軟水と言いますが、信濃大町の水道水はさらに柔らかい硬度5ほど。JR信濃大町駅から南北に伸びる本通り商店街は、道を挟んだ東側に『女清水(おんなみず)』、西側が『男清水(おとこみず)』と異なる水を引き、女清水は柔らかく、男清水は少しだけ硬い水。商店街には蛇口も設けられ、飲みくらべもを楽しめます。



▲レストラン「創舎わちがい」のお水は男清水が使われます

東側の『女清水』は標高900mにある居谷里湿原の湧き水で、西側の『男清水』は標高3,000mほどのアルプスの上白沢の湧き水を、それぞれの水道水に使います。酒蔵は3軒とも商店街の東側にあって女清水を仕込み水に使い、西側にあるブルワリーは男清水を使います。



▲高品質の酒米を生産 <画像提供:大町市役所>

大町やその周辺の田んぼにもこうした湧き水が使われるため、美味しいお米が育ちます。酒米の産地として、市内にはお米を精米する日本最大規模の工場「アルプス搗精(とうせい)工場」が稼動。ここで特別純米酒(精米歩合60%)や純米大吟醸酒(精米歩合50%)など、お酒の種類に合わせた精米も行います。

お酒好きには堪らない2日間「北アルプス呑み歩き」


2024年9月14日(土)と15日(日)に、3軒の酒蔵とブルワリー1軒の、種類豊富なお酒の味を¥3,000ほどで楽しめる「北アルプス呑み歩き」を開催。14回目となる今回は「信濃大町三蔵呑み歩き」から「北アルプス呑み歩き」にイベント名を変更。従来の酒蔵3軒にブルワリー1軒が加わってパワーアップしています! ※ブルワリーのビールは最初の1杯が無料です。



▲各蔵が用意する様々なお酒の味を¥3,000で満喫 <画像提供:北アルプス呑み歩き実行委員>

さらに今年は大町市で3年に1度行われる「北アルプス国際芸術祭2024」が、9月13日(金)から11月4日(月・祝)まで開催。国内外のアーチストの作品を街の至る所に展示。アートとお酒を楽しめます。



▲2日間行われる「北アルプス呑み歩き」 <画像提供:北アルプス呑み歩き実行委員>

イベントの参加費用は9月14日(土)¥3,000、9月15日(日)は北安醸造がお休みのため¥2,500円。また北アルプスブルワリーのビールは最初の1杯が無料で、2杯目からは有料となります。



▲いーずら大町特産館

イベントに参加するなら事前にイープラスでチケットを購入し、当日は本通り商店街にある「いーずら大町特産館」でチケットを見せてお猪口を受け取り、酒蔵とブルワリーを巡ります。ここでは地元のお土産はもちろん、大町三蔵のお酒やブルワリーのビールも売っているので、帰りにはぜひ寄っておきましょう。

水にこだわる信濃大町ならではの酒蔵


市野屋は1865年(慶応元年)創業。仕込み水は蔵がある女清水のほかに、男清水と、立山黒部アルペンルートの長野側、電気バスが走る関電トンネルの中に湧く “黒部の氷筍水(ひょうじゅんすい)” の3種類を主に使います。世界展開を進める生酛と山廃の『RYUSUISEN』をはじめ、『金蘭黒部』、『市野屋』。そして今人気の『氷筍水』をラインアップ。



▲大町商店街の東側に面した古い建物が市野屋です

明治時代の町屋や天井の高い土蔵が今も残るほか、麹室を新設し、分析器を導入するなど、酒造りの近代化を進めています。



▲秋田杉でできた麹室

2年前に完成した麹室。秋田杉の香りに満たされていて、1年目は杉の香りが強すぎたため、本格使用は昨年(2023年)から。春の新酒では感じるか感じないか程度の杉の香りがしたのだとか。



▲醪(もろみ)造りの様子を説明する佐伯佳之社長

仕込みタンクには麹や蒸した米、水が入れられ、1カ月ほどかけてアルコール発酵を行います。生産計画に合わせて、タンクごとに米や水、酵母の違うお酒を作ります。杜氏の大塚真帆氏が目指すのは、香りが華やかすぎると料理に合わせづらくなるため、香りを残しながら、旨味を出した酒造りなのだとか。



▲『 RYUSUISEN 生酛造り 純米大吟醸 ひとごこち』

2022年に市野屋に入社した杜氏の大塚真帆氏は、以前勤めていた京都伏見の酒蔵で生酛造りを復活させた方。そこで今回は、得意とする生酛造りのお酒を選びました。酒米は長野県で開発された “ひとごこち” で、精米歩合49%。フルーティな香りで、微発泡。ジューシーで甘酸っぱい味は口当たりがよく、それでいてしっかりした旨味が感じられました。

米にこだわる大町テロワール


白馬錦酒造の創業は明治39年(1906年)。2024年8月に薄井商店から、それまで自社の銘柄だった白馬錦酒造に社名を変更したばかり。7キロ圏内の農家と契約し、美山錦、ひとごこち、金紋錦、山恵錦など、長野県で開発された酒米を選びます。仕込み水はもちろん蔵がある女清水。ワインや料理などで、土地や風土などを表わすテロワールというフランス語がありますが、まさに米、水、土地にこだわった “大町テロワール” を意識する酒蔵です。



▲蔵の入り口に架かる杉玉

本通り商店街より1本裏手に入った道にある酒蔵です。『白馬錦 金紋錦 純米大吟醸』が令和5年度の新酒鑑評会で金賞を受賞しました。



▲秋の酒造りを待つ広い仕込み蔵

4月になると北アルプスの山中にある七倉ダムのトンネルに、大町産の美山錦で作られた純米吟醸酒を搬入。温度が一定で光が差さず、振動のないトンネル内で4カ月熟成し、秋に出荷される『純米吟醸 雪中埋蔵』も人気です。さらに2024年に新登場した瓶内二次発酵のスパークリング日本酒『 STARS AND SPARKLES 』は、試飲会でも大好評の一本だとか。



▲仕込みタンク内の発酵を均一にする櫂入れを実演する杜氏の松浦宏行氏

杜氏の松浦宏行氏は石川県南西部にある山中温泉の酒蔵の出身で、兄が今も酒蔵を経営。松浦氏自身も昨年、新酒鑑評会で金賞を受賞しましたが、目指のは食卓に自然に並ぶお酒。「普段使いのお酒を家で楽しみながら飲んでいただきたい」とのこと。



▲『白馬錦 純米酒(ウサギギク)美山錦』

杜氏の願いに合わせて、お手頃な純米酒を選んでみました。酒米は長野県で品種改良され、日本で3番目に多くのお酒に利用されている美山錦。北関東や東北など、寒冷な土地で作られています。大町産の美山錦は精米歩合65%で、女清水で仕込みます。優しい当たりで、甘味と旨味が膨らんで、サラリとしたクリアな後味が残る心地のいいお酒です。

井戸水と水道水を使い分け、米の味にこだわる酒蔵


北安(ほくあん)醸造は創業以来お米の旨味をしっかり感じるお酒造りをしています。お米はひとごこちをメインに、金紋錦や山恵錦など、長野県で開発された酒米を、大町とその南隣にある松川村で生産。注目は、松川村在住の杜氏が米農家であること。1年を通じて杜氏自ら米造りと酒造りを行っていて、そんなストーリーもお酒の美味しさを引き立てます。



▲一部に創業当時の建物も残っています

創業101年を迎えた北安醸造は大正12年(1923年)創業。社名の北安(ほくあん)は、大町市周辺をさす北安曇野から由来。ちなみに、南にある安曇野市は南安と呼ばれます。



▲蔵の梁には建築に携わった大工の棟梁の名前が残っていました

101年前に建てられた蔵。2階は麹を冷ます広い空間を確保。そのため柱がなく、冬に数100トンの雪が積もる重い屋根を、天井の梁を三角に組んだトラス工法で支えています。



▲伊藤敬一郎社長の左にあるのが、それぞれ水道水と井戸水を引き入れるホース

洗った酒米に水を吸わせるとき、温度が13度でほぼ一定している井戸水を使い、米が吸水する時間を管理しています。そして仕込み水には水道水の女清水を使用。地下100mから汲み上げている井戸水の硬度は10から11、水道水は5で、数値としてはほぼ差がない超軟水ですが、酒造りには微妙なちがいが出るのだとか。



▲大黒様の笑顔が目印。『北安大國 純米酒 五十九』

蔵の近くに2mを超える大黒様の石像があることにちなんだ『北安大國 純米酒 五十九』は、松川村産のひとごこちを59%まで磨いた純米酒。北安醸造の定番酒として値段もお手頃です。呑み心地のいい甘口で、酸味のバランスもよく、幅のあるコクを感じられます。このほか大黒様が持っている打ち出の小槌をラベルに描いた季節のお酒もおすすめです。

のど越し抜群のビールも超軟水仕込み


2020年にモンドセレクションの最高金賞を受賞した信濃大町の水。「その水でビールを作ったら絶対に美味しいハズ」と考え、2019年7月にオープンした「北アルプスブルワリー」。男清水が引かれる本通り商店街の西側に、醸造所兼ビアレストランがあります。



▲木造のモダンなお店「北アルプスブルワリー」

ヘッドブルワーは東京の名喫茶店「カフェバッハ」で修行し、カフェオーナー兼焙煎士という異色の経歴。長年水にこだわってきたことから、大町の水を活かした呑みやすいビール造りにこだわります。特に注目はインターナショナルビアカップでカテゴリーチャンピオンに輝いた『 Caffee Punch(コーヒーパンチ)』。ビール用にブレンドしたコーヒー豆は、浅煎りにロースト。コーヒーの香りがするビールです。



▲『 Caffee Punch(コーヒーパンチ)』

コーヒーパンチはあくまでもビール。そのため、コーヒーの香りのみをつけていて、味は超軟水の水を活かしたスッキリとしたビールです。つまり、飲む直前にコーヒーの香りを楽しみ、飲んでいるときはビールの味、後味はビールで、コーヒーの余韻がしっかり残るという一杯。コーヒーの味がするように感じるのは、香りによるところが大きいのだとか。鼻をつまんで飲むと、ビールです。



▲季節のビールや限定ビールも用意

お店では水の良さを活かしたビール造りに徹します。軟水はラガービールに適していて、のど越しがよく、スッキリと飲めるビールが出来上がります。逆に硬水が適していると言われるペールエールにも超軟水の男清水を使うため、スッキリとした味に仕上がるのが特徴です。



▲個性の異なるビールを用意

『氷河ラガー』『氷河ペールエール』のほかに、『氷河IPA』や黒ビールの『氷河スタウト』をラインアップ。ビール造りに使われる男清水は、北アルプスの標高3,000mほどにあるの上白沢の湧き水から引かれます。

地元の味を楽しめるレストラン


ランチは本通り商店街にある古民家を改築した創作料理のお店「創舎わちがい」がおすすめ(要予約)。特に「北アルプス国際芸術祭」の開催期間中に提供される特別メニュー『芸術祭 塩の道お祭り御膳』は、郷土の味を活かした創作料理。他では味わえないメニューが並びます。



▲古民家を改装したレストラン「わちがい」



▲緑豊かな庭に面した座敷席

『芸術祭 塩の道お祭り御膳』は、地元豆腐店が作ったおぼろ豆腐に、ジューシーなほど出汁がよくしみた凍み大根、創作感満点の柿ジュレサラダが前菜です。小鉢はえご寄せと、餅を水に浸して凍らせ、寒風で乾燥させた「氷餅」とお豆腐を混ぜて団子にした「凍り餅まんじゅうあんかけ」。そこにオリジナルのうどん「わちがいざざ」と、デザートの「水ゼリー」が加わります。



▲期間限定料理『芸術祭 塩の道お祭り御膳』¥3,000 ※お酒は別料金

メインのうどんはお店オリジナルの「わちがいざざ」。長野県産の小麦粉を、男清水で練り上げたコシのある生細麺。スルスルっと軽やかでのど越しがよく、たいへん清らかなうどんです。デザートには、リンゴのコンポートが添えられた、水だけで作ったクリアなゼリーを用意。まさに大町の水を楽しむメニューでした。



▲オリジナル麺「わちがいざざ」

もし「わちがい」が満席なら、大町市のご当地メニュー『黒部ダムカレー』を用意するリーズナブルなカフェやレストランもあります。お店によって味や盛り付けが違うので、こちらも食べ歩きしてみては?

信濃大町の超軟水を仕込み水に、長野県で誕生した酒米で作られる地酒の街、信濃大町。驚くほど軟水の水で作られたお酒は、一度は飲んでおきたい体験です。しかも2024年9月の14日と15日に開催される「北アルプス呑み歩き」は、大町三蔵と1軒のブルワリーの多彩な味を満喫できるお得なイベント。お酒好きなら、この2日間を見逃さないでくださいね。<text&photo:湯川カオル子 予約・問:https://alps3kura.jp>