がんを患い余命宣告された母に24時間付き添う女子高生…経験者が描くヤングケアラーの過酷な実態【作者に聞いた】
ヤングケアラーとは、本来大人が担うと想定されている家事や家族の世話などを日常的に行っている、子供のことを指す。近年、社会問題としてメディアでも取り上げられるようになり、ヤングケアラーという言葉を耳にしたことのある人も多いだろう。しかし、ヤングケアラーの経験を持つ漫画家・相葉キョウコ(@kyoko_ar)さんは「認知は広がってきたものの、認知しかされていない」と指摘する。
これまで恋愛漫画を中心に手がけてきた相葉さんが、自身の経験を活かし、ヤングケアラーという社会問題に切り込んだ「ヤングケアラー みえない私」(ヤングジャンプコミックス)。家族の介護などのために当たり前の生活を送ることができず、周囲の大人からも目を背けられた「みえていない」子供たち。そんなヤングケアラーの実情を描いた本作の単行本が、集英社から9月19日に発売された。
今回は収録作品のなかから「母親が倒れた女子高生の話」をご紹介。さらに、作者の相葉さんに、ヤングケアラーの現状に対する素直な想いや、漫画を描くうえでこだわった点、読者から寄せられた印象的な反響などについて話を聞いた。
■「早く死なないかな」学校に行けず受験も断念…身も心もボロボロに
高校3年生の夏、主人公・松永千里の心は期待で満ちていた。卒業後の新生活に向けて物件を調べ、バイト帰りに友人とファミレスで将来を語り合うこともあった。しかしその年の冬、千里の生活は一変する。がんを患っていた母の容態が悪化し、入院することになったのだ。医師から告げられた余命は2カ月。祖父母や親戚、弟も病室に駆けつけたが、倒れた母の面倒は千里が見て当たり前という態度。学校を休み、受験もあきらめ、病室に泊まり込んで母に付き添う日々が始まった。
千里はいわゆる“長男教”の家庭で育ち、いつも愛情は弟にばかり向けられてきた。病室に寝泊まりする千里が、本来であれば受験を控えた大切な時期だということを、気にかける大人は誰もいない。まるで見えていないかのように扱われる自分のことを、千里は「透明な存在」と表現する。そして、1人でケアを担う千里に、母から「どちら様?」とショッキングな言葉が放たれる。1人暮らしをしていて1年以上会っていなかった弟のことは、認識できているにもかかわらず…。
さらに、周囲の大人が発する心無い言葉も、千里のメンタルにダメージを与えていく。心身ともに追い詰められ、「早く死なないかな」と心の中でつぶやく千里。しかし、すべてが終わったとき、“透明人間”だった千里に変化が起こる。最後に千里に色をつけ、この世を去っていった母。亡くなる直前、母が千里にかけた言葉とは…?
■たくさんの「みえない問題」を可視化した作品
――ヤングケアラーをテーマに作品を描こうと思ったきっかけを教えてください。
元々私自身にヤングケアラーの経験があり、当時日記代わりに携帯のメモに書いたものがひょんなことから担当の目に止まりました。最初は漫画で描くことを想定はしていなかった内容なのですが、ここ数年ようやく「ヤングケアラー」という言葉を自分自身も聞くようになり、少しずつ認知が広がってきた今こそ自分も問題に踏み込んでみようと思いました。
――ヤングケアラーの現状についてどう思われますか。
認知は広がってきたものの、「認知しかされていない」というのが正直な感想です。もちろん行政サービスが何もないとは思いませんし、地域ごとの相談会窓口が設けられ(これ自体は素晴らしいことだと思います)、一人で抱え込まない環境は以前の何倍も整ったと思います。しかし、いくら相談窓口ができたところで、誰かが介護を手伝ってくれるわけでもありません。また、大人と違って子供には「有給」や「○○休暇」「○○手当」といったものがありません。学校の授業も待ってはくれません。
相談窓口でメンタルのケアや現状をよくするアドバイスを受けることはできても、家庭内で何か大きな変化があるのかというと、当時の自分の環境を思い返す限り、何も無いのではないかと思えてしまいます。ヤングケアラーと密接な教育機関などでも、教員や生徒へのヤングケアラー問題へのアンケートでは「関心はある」とされるのですが、「じゃあ関心があるから何なんだ?」「何をしてくれるの?」というのが現場の声ではないかと考えています。
物理的な人手の確保、無理なく学業などに取り組める時間の確保、家庭環境に左右されずに進路を決められる自由さなどは、いくら家庭外の周囲の大人に理解や関心があっても、子供の力ではどうにもならない問題です。「○○をすれば解決する!」という問題ではないのは重々承知のうえですが、「具体的(物理的)な対策」を一刻も早く、今まさに追い詰められている現場の子供に届けたいと思います。
――重いテーマであると思います。漫画を描くうえで苦労した点、こだわった点などがあれば教えてください。
ヤングケアラー問題というと、どうしても「介護が大変」という印象を持たれがちですが、子供ゆえの「大人とのやりとり」問題に目を向けてほしいと思いました(個人的には物理的な介護よりも、家庭や学校で生まれる周囲の大人との意識や意見のすれ違いの方が大変だった記憶があります)。
特に「進路の妨害」は、当時の自分自身にとっても比率の大きかった問題であり、「ヤングケアラー=単なる介護問題」ではないことを多くの人に知ってほしいなと一番強く感じた部分でした。「ヤングケアラー みえない私」でも、それぞれの主人公に進路問題を抱えさせています。また、「頑張ってしまう子供」という、なかなか問題として扱われないであろう部分を問題視したいなと思いました。
親も大変なのを理解して「自分も頑張らなければ」というのを、いつしか「自分を犠牲にしてでも頑張らなければ」にしてしまうような、そんなヤングケアラーも多いのではないでしょうか。そして、良くも悪くもその図式の上にギリギリ成り立ってしまう家庭が多いのではないかと思います。このたくさんの「みえない問題」を可視化したいなと思いました。
――作品に対していろいろな反響があったのではないでしょうか。印象に残っているものがあれば教えてください。
とても真面目なコメントをたくさん頂きました。「自分もヤングケアラーだった」という方も多く、同様の問題を抱えていたり、もっと酷かった体験談などもありました。また、「作品内に出てくる周囲の大人に腹が立つ」という意見も多く頂きました。これはとても表現したかった部分で「手は出さないのに余計な口を出す大人」がどれだけヤングケアラーのメンタルを圧迫するかという、外部からは絶対に見えず、どんな行政サポートもどうすることもできない、まさに「みえない」問題を描けたのではないかとうれしくなりました。
――今後の活動についてお聞かせください。
まったく別のテーマで現在連載準備中です。今まで恋愛漫画をメインに活動していたのですが、今回社会問題というまったく新しいテーマに挑戦できたので、この経験を活かして今後もさまざまなものに挑戦していきたいと思います。
「ヤングケアラー みえない私」(集英社 ヤングジャンプコミックス)は現在発売中。
取材協力:相葉キョウコ(@kyoko_ar)/集英社

