恋人や結婚相手を探す手段として浸透した「マッチングアプリ」。

接点のない人とオンラインで簡単につながることができる。

そう、出会うまでは早い。だけど…その先の恋愛までもが簡単になったわけじゃない。

理想と現実のギャップに苦しんだり、気になった相手に好かれなかったり――。

私の、僕の、どこがダメだったのだろうか?その答えを探しにいこう。

▶前回:「直接会う前に電話しよ?だって…」マッチ後、初デート前に女がビデオ通話を要求してくるワケ




Episode03【Q】:牧野香織、34歳。
私は高級志向な女だけど、アプリでは隠している。それなのに…モテないのはなぜ?


「香織ちゃん、来週はいつ空いてる?」
「え?」

私は、北条一志の顔を見た。

どうせ次はない。そう思い、何も期待もせずに臨んだ今日のアポ。

だからその場で次のデートに誘われるなんて予想外すぎて、ドギマギしてしまう。

「忙しい?」
「いえ。えっと…水曜と金曜も空いてます…」

私は、赤ワインの入ったグラスをテーブルに置いた。

「じゃあ、水曜にしよう。っていうか、香織ちゃんって、他にデートしてる人いる?いたら嫌だなぁ」

― それって…。

「もしかして、私のこと気に入ってくれています?」
「もちろん。もし他に彼氏候補がいても、それはそれで燃えるけどね」

北条一志は、目尻に細かいシワを寄せながら微笑んだ。

ここ最近、マッチングアプリでは惨敗だったのに…。彼はなぜ、私のことを気に入ってくれたのだろうか?


3ヶ月前


「はぁ…」

これで、何度目だろう。

私はロッシュ ボボアのソファに寝転びながら、返信のないLINEのトーク画面を見つめて、ため息をついた。

「ハイスペックな会員が多いから香織向きだと思う」と、友達から言われて始めた某マッチングアプリ。




マッチングして、メッセージのやりとりをしたのは6人。食事に行ったのは4人。

しかし、その4人とは一度食事に行っただけで終わっている。

4人の職業はバラバラだったが、世間ではハイスペともてはやされる会社勤めの男たちだったと、記憶している。

2度目のデートに誘われないというのは、私に魅力がないと言われているのと同じこと。

多少のことでは動じない私も、4人連続でこれが続くと、ちょっと落ち込んだ。

― 私って、そんなに可愛くないかなぁ…。

バスルームに移動し、鏡で全身を眺めた。

でも私も本当はわかっている。男性から敬遠されるのは、外見が理由ではないということを。

返信がないLINEのトーク画面を閉じ、私は、FARFETCHやYOOXで買い物を始めた。

ネットで服を買うことは、趣味であり、ストレス発散でもある。

私は、ハイブランドの服や靴やバッグ、高級なレストランやホテルが大好きなのだ。




だから、デートに行った4人の男性たちからは“お金がかかりそう”な女として、レッテルを貼られたのだと思う。

― ぜんぶ、自分で買ってるんだけどなぁ…。

自分が稼いだお金でブランド品を買っているのは、紛れもない事実だ。

しかし、たとえそうだとしても、会社勤めの一般男性はそんな解釈はしてくれない。

特にアプリで出会い、お互いによく知らない段階では疑われても仕方ない。

― 仕事は順調なのに、恋愛だけはうまくいかない。…っもう!

私は、バスタブに浸かりながらマッチングアプリを開いた。

『将来を見据えて、真剣にお付き合いができる方と出会えたら嬉しいです』

これが、今の私のプロフィールだ。

簡素すぎる文章にしたのには、ちゃんと理由がある。私は、会社を経営しているのだ。


会社員を辞めて独立したのは、今から6年前のこと。

人工ダイヤを使ったジュエリーブランド「KAOMAKI JEWELRY」を立ち上げた。




私は、まったくの初心者だったから、経営学やデザインの本は死ぬほど読み漁り、起業してから1年は寝る間もなく毎日がむしゃらに働いた。

そして手探りだけど一生懸命に事業を進めていくうち、その気になれば、経営やデザインが未経験でもどうにかなるものだとわかった。

近年は毎月の黒字が安定してきたので、ご褒美に好きなものを買って、自分のモチベーション維持にしている。

そんな私も、気がつけば34歳。

仕事は楽しいが、これからの人生を共に歩むパートナーが欲しい。

それなのに…。彼氏ができる以前に「2度目のデートに誘われない」という問題に直面しているのだ。

彼らと食事をすると、なぜか、自分を偽ってしまう。

「香織ちゃんって、赤ちょうちん系のお店でも大丈夫な人?」
「あ、はい。時々行きますよ(本当はめったに行かないけど)」

「代官山アドレスに住んでいるの?すごいね」
「大したことないです。会社から補助出るので(って言わないと、面倒くさそう)」

「その靴、高そうだね」
「……(高いって、いくらから?)」

女性が稼いでいることは、悪いことじゃない。

なのに、それを隠さなければいけないことも、好きな格好で食事に行けないこともストレスだった。

そして、自分を偽るのがだんだんつらくなってきたのだ。




― もうアプリの紹介文も全部、変えちゃおうかな。

私は、思い切ってプロフィールをすべて削除し、書き直した。

『KM 34歳
職業:会社経営、ジュエリーデザイナー

はじめまして。人工ダイヤを使ったジュエリーブランドの会社を経営しています。

自分では到底作れない料理をいただけるレストランや、ホテルでリフレッシュすることが大好きで、仕事のモチベーションを保っています。

ずっと1人で走り続けできたので、これからは大切な人と併走したり、休んだりしながら人生を楽しみたいです』

その直後、マッチしたのが北条一志、47歳だった。

むしろ彼としかマッチングしなかったので、アプリを使って男性と会うのはこれで最後にすることにした。

ポンポンとやりとりがスムーズに進み、会う日もすぐに決まった。

そして、当日。

わたしは、白いブラウスとデニムのシンプルなコーデに、ロジェ ヴィヴィエのビジューサンダルを合わせた。

ネックレスとピアスは、自分のブランドのもの。

手にはカルティエのトリニティリングと、腕時計はピンクゴールドのパンテール。

バッグは、主張しすぎない黒のピコタンにした。

今までは、デート相手に遠慮していた装い。でも、今日の私は、自分が本当に好きな格好だ。

北条が予約をしてくれたのは、西麻布にある『うしごろエス』だった。




「こんばんは、北条です」
「はじめまして。牧野香織と申します」

時間ぴったりに現れた彼は、これまで会ってきた男性たちとはどこか雰囲気が違った。

体にフィットしたセットアップは、一目でオーダーメイドだとわかる。年相応のブランドを身につけ、清潔感もある。

しかも彼は、あえて最初からフランクに接してくれた。

「へぇ。人工ダイヤモンドね。ダイヤの鉱山って、紛争の資金源になるとか言うもんね」
「そうなんです!それに人工ダイヤを製造するときのエネルギーって、天然ダイヤを発掘するときの約半分らしくて…」
「おお、すごいね。めちゃくちゃエコじゃん」

私の仕事の話にも興味を持ってくれ、会話は途切れることがなかった。

「そのサンダル、最近港区でよく見るんだよな。はやってるの?」
「え?えっと…そうなんですかね。純粋にデザインが素敵なので、買いました」
「確かに。めちゃくちゃ可愛いし、似合ってるね」

北条は、どこのブランド?とも、高いの?などとも言わない。

それが当たり前なのだろうが、私にとっては、その些細なことが嬉しかった。

「とても、美味しかったです。ごちそうさまでした」
「美味しかったね。こちらこそ忙しいのにありがとう」

会計は、その場で北条が払ってくれたので、私はお礼を言った。

北条から、次回の誘いを受けたのはその直後だった。

「香織ちゃん、来週はいつ空いてる?」

― うそ!2度目のデートに誘われた…!

今日のデートは、自分好みの格好をしていたし、会社経営の話も隠さず話した。会計時にはお財布さえ出していない。

それなのに北条はニコニコしている。

彼はいったい、私のどこに魅力を感じてくれたのだろうか。

▶前回:「直接会う前に電話しよ?だって…」マッチ後、初デート前に女がビデオ通話を要求してくるワケ

▶1話目はこちら:狙い目の“新規会員の男”と初デート!途中までは順調だったが…

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高級志向な女性の魅力とは…?北条が香織に惹かれたワケ