“血のつながりのない”親子の強い絆。養子を真っ正直にオープンに語ろう。
望まない妊娠をしたり、さまざま事情で子どもを産み育てられないと悩む母親がいる一方で、不妊治療を続けたものの、なかなか子どもを授かることができない夫婦がいます。両者の橋渡しとなり、特別養子縁組をあっせんする民間団体「NPO Babyぽけっと」の代表・岡田卓子さん(写真右)は、ご自身もお子さんを養子に迎えたお母さんでいらっしゃいます。

今回は、「子育て世代の生命保険料を半額にして、安心して赤ちゃんを産み育ててほしい」という思いで開業し、業界で初めて付加保険料の開示をするなどしてオープンな情報公開につとめているライフネット生命が、岡田さんに特別養子縁組の実態と親子の絆について伺いました。

「Babyぽけっと」の活動は、中京テレビのドキュメンタリー番組【マザーズ「特別養子縁組」母たちの選択】で、大きく取り上げられたこともありますね。

テレビの反響は大きかったです。放送から2年経った今もこの動画を見て駆け込んでくる妊婦さんは少なくありません。

彼女たちが産み育てられない事情はさまざまですが、大半の子は家庭環境に問題があるようです。家出をして1年以上ネットカフェを転々としているうちに、妊娠をしてしまったとか。「長い間、大変だったでしょう?」と聞くと「いや〜、ネカフェもまんざらでもないっスよ」って(笑)。こうした子たちは、ほとんどが一度も病院を訪れていません。気がついたら妊娠後期に入っていたという場合もあるし、たとえ妊娠に気づいていたとしても行けない、言えない、お金がない。ですから、私たちは彼女たちを受け入れてくれる協力病院と出産まで安心して過ごせる場所を確保する必要があります。

飛び込み分娩に近い出産は、病院側もリスクを背負う覚悟が必要ですね。

協力病院は全国にありますが、すべて個人院。「私たちが全責任をとりますから」とお願いしています。やっかいな仕事でしょうに、母子手帳が真っ白でも「いいから、いいから」と言ってくださる先生もいます。このほか支援体制として、「Babyぽけっと」には妊婦を保護するための母子寮もあります。

養子縁組は、恵まれない境遇で生まれた子どもにとって“最高のプレゼント”とも言われています。そこには自分を守ってくれる親がいて、安心して眠れる家や温かな食卓がある。一人で苦しんでいる妊婦さんには「大丈夫、育ててくれる人がいるんだよ」と、伝えてあげたいです。

「Babyぽけっと」は積極的に情報公開しています。会を通じた生みの親と育ての親の交流もあり、珍しいケースだと感じました。これも生みの親御さんに対するアフターケアなのでしょうか?

私たちを頼ってくる妊婦さんから、「こんな私の子をもらってくれる人なんているんですか?」と尋ねられることがたびたびあります。そのときは「養子を心から待っているご夫婦がいるんだよ。お願いだからその一組のために産んでちょうだい。一生あなたは感謝されるのよ」と伝えています。

そうかといって、養子縁組を果たしたら生みの親との関わりはもうおしまいというわけではありません。子どもを手放した親は、同じくらいの年齢の子を見るたびに「うちの子もはいはいをしているのだろうか? お話ができるようになったのだろうか?」と何度でも想像します。一緒にいた時間はほんのわずかでも、母親の子を想う気持ちは消えないんですね。

3〜4カ月に一度、育ての親に簡単な子どものアルバムを作ってもらい、それを私たちから生みの親へと渡しています。生みの親は、そのアルバムをお守りのように持ち歩いているといいます。毎日わが子の写真を眺めていて、新しいアルバムが来るのを心待ちにしているそうです。「今は何も買ってあげられないけれど、1才の誕生日には何かプレゼントしたい。だからお金を貯めているんです」って、そういった話もよく聞きます。

わが子の成長ぶりを見たからといって、生みの親たちが「子どもを返してくれ」と言うことはありません。それというのも、育ての親の元で、わが子が幸せそうにしているからなんですね。自分だったらここまで幸せにしてはあげられなかった、養子に出してよかった――どの親もそう言います。

アルバムは、生みの親が「もういいですよ」と言ってくるまで送るようにと、育ての親にお願いしています。今の幸せは、生みの親がいたからこそ享受できるものだから、生みの親がどんな人であっても感謝しましょうと。

一個人で特別養子縁組のあっせん団体を立ち上げるのはかなりの労力と知識が必要です。なぜ「Babyぽけっと」を運営するようになったのですか?

私と夫は子どもに恵まれなかったんです。それでも子どもを育てたいという思いはずっとあって、それで乳児院にいる子を養子に迎えることを考えたわけです。ところが里親登録をしたら、なんと41番目。自分の前には何十組も養子縁組を待っている夫婦がいたんです。里親の先輩から「4年も5年も待って、結局あきらめてしまう人も多いのよ」と聞いて、えー!! と驚きましたね。

欧米では里親制度が一般的です。たとえばオーストラリアでは施設にいる子の9割以上が養子縁組されているのに対し、日本は1割にも満たない状況です。てっきり、里子の数に対して里親希望者が圧倒的に足りないのだと思っていました。

まったく逆です。たくさんの里親希望者が子どもを待っているんです。日本の里親制度には、子どもが生みの親との縁を切り、育ての親が唯一の親となる「特別養子縁組」、実親との法的な親子関係が残る「普通養子縁組」、一時的に施設の子を預かる「養育里親」があります。

日本では、生みの親が子どもを育てることを優先しています。生みの親が育てられる環境になるまで、一時的に施設や里親に預かってもらうという考え方が基本。ですから、新生児や乳児が養子として出されることは滅多にありません。いちばん多いのは2才〜3才未満の子ども。このころになると、ハンディキャップや病気の有無がおよそ確認できるという理由もあります。

日本の里親制度では、相性が合わなかったり病気が分かったりして育てるのが困難になったら施設に返すことができるんですね。どんなに里親が待っていようと、子どもの健康状態が確認できてからでないと委託しないという施設が大半です。

こうした状況では、子を迎える順番はいつまでたっても回ってこない。何とか方法はないかと里親OBを尋ね回ると、当時広島にあった、民間の「ベビー救済協会」から新生児を譲り受けたというご夫婦に行きつきました。そちらで協会の連絡先を教えてもらって、協会宛てに思いのたけを綴った手紙を送ったんです。その数週間後、会長さんから「ぜひお会いしたい」と連絡があり、現地に飛びました。

4時間くらい会長さんと面接したら、「5日後に生まれる赤ちゃんがいるから、あなたに出しましょう!」とポーンと言われて。嬉しいけれど驚きましたよ。ちょっと待って、すごく欲しいけれどせめて家族と相談させてって(笑)! その赤ちゃんが、今の私の娘です。13歳になります。

それから恩返しのつもりで、ベビー救済協会のお手伝いをすることになりました。あしかけ2年、コーディネーターを勤めているうちに知っちゃったわけですよね、ベビー救済のすばらしさを。会長がご高齢だったため、広島の協会は休止することになりました。そこで2004年、見よう見まねで、地元の茨城で特別養子縁組のあっせん団体を立ち上げたんです。その後、スタッフも増えて名古屋に支部を置くなどし、昨年6月に法人化しました。

ネットでも積極的に情報公開をされていて、養子についてホームページから相談できるのも素晴らしいですね。ところで、養子に出してから、生みの親と子どもが対面することはあるのでしょうか?

私たちが開催する「真実告知のシンポジウム」の交流会で、生みの親と対面を果たすことがあります。基本的に、生みの親に会わせるのは20歳を過ぎてからとレクチャーしていますが、どうしても生みの親のほうが会いたいという場合、言葉の話せない2才ごろまでならOKとしているんです。言葉ができると「このお姉ちゃん、誰?」と子どもが聞くことがありますから。「誰だろう? えーと、あなたの本当のお母さんだよ」と言うわけにもいきませんしね。

生みの親のなかには、幼い年齢で産む子もいるんですね。私が赤ちゃんを迎えに行くと、最後にギューッとわが子を抱きしめて、泣きながら引き渡すんです。だから私も「がんばって立ち直ったら、来年、シンポジウムで会えるからね」と約束する。そうすると「本当ですか? この子にまた会えるようにがんばります」とホッとした表情になります。一年経つと、生みの親たちも強くなっていますから、養子との対面が心の傷になることはありません。

育ての親が養子に「真実告知」をするのは何才くらいが適当なのですか?

養子縁組をした家族のなかには、真実告知をしない親もいますが、私たちは真実告知をすすめています。隠していてもいずれわかるもの。たとえ周囲にかん口令を敷いたところで、戸籍謄本をとればわかります。告知の時期は子どもの性格や発育にもよりますが、3才〜小学校に入る前までが適当。1回で終わるものではないから、真実告知の本や経験談を参考にして、少しずつ話していきます。

養子は生みの親の存在を知った時に、会いたい、自分のルーツを知りたいと思うわけです。たとえば「第二反抗期」にあたる思春期に真実告知をしてしまうと、子どもは激しく反発するかもしれません。また子どもが30代、40代といい大人になってからでは、生みの親が亡くなっている可能性があります。「生みの親に会いたかった」と育ての親を恨むことになりかねない。何より、親からではなく周囲の人から真実を聞かされてしまうことが、養子にとって一番悲しいことです。

子どもがショックを受けるのは、幸せであることの裏返し。育ての親がきちんと真実を伝えることが大切です。大丈夫、しっかりと抱きしめてあげれば乗り越えられる。それで養子家族の絆はいっそう強くなるんです。いっしょにいるうちに血のつながりなんか越えていきますよ。だって、帰る家はそこにしかないんですから。

親子のきずなは血のつながりを超える。多くの養子縁組を成立させてきた岡田さんの言葉だけに、深く心に響きます。また、なんとなく隠してしまいがちな「養子」について、ここまでオープンに対応されていることで、産みの親も育ての親も、そして子どもも幸せになれるというところに、感銘を受けました。本日はありがとうございました。

「Babyぽけっと」の公式サイトには、里親家族のエピソードや写真が公開されています。おじいちゃんに抱っこされてのお食い初め、1才のお誕生日、七五三、一生懸命に書いたサンタさんへの手紙……。そこにはたしかな家族の幸せがありました。


聞き手:川端麻清(ライフネット生命 マーケティング部 ウェブライター)
5才の子供がいるワーキングマザー。ライフネット生命の子育て部所属。

今回のような育児インタビューは、新米パパママのための特集『育児はいつも、波乱万丈( ̄▽ ̄)』というコーナーで連載中です。次回もお楽しみに!

■記事協力:ライフネット生命
http://www.lifenet-seimei.co.jp/

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取材・文章:中澤夕美恵 企画・編集:谷口マサト