最近ちらほら目にするようになった、副業や複業(パラレルキャリア)という言葉。その目的は本業以外に報酬を得たり、スキルアップを目指したりとさまざまです。

ニュースでは、副業を容認する企業が続々と増え、民間にとどまらず一部公務員の副業も解禁したと報じられています。

そんな中、4月4日に「Nagatacho GRiD(東京都千代田区)」で、副業をテーマにしたイベントがBusiness Insider Japan、ガイアックス、グローバル・カルテットの3社共同で開催されました。登壇者は、Business Insider Japan統括編集長の浜田敬子さん、ガイアックスの管大輔さん、グローバル・カルテット代表の城みのりさんです。

3人のトークから副業のメリットや“落とし穴”が見えてきました。イベントの内容を、前後編に分けてお届けします。前編では副業する人向けのコメントをまとめました。

【登壇者プロフィール】
・浜田敬子
朝日新聞社で女性初の『AERA』編集長に就任するなど活躍した後、Business Insider Japan統括編集長に。その傍ら、副業で情報番組のコメンテーターを務めたり、講演をしたりと幅広く活動する。

・管大輔
株式会社ガイアックスで7つの事業を統括する事業本部長を務め、副業するメンバーを多数マネジメントしつつ、自身も副業に取り組む。

・城みのり
マーケティングリサーチャーなどのキャリアを経て、グローバルリサーチ集団、株式会社グローバル・カルテットを設立。代表として数多くの副業スタッフのマネジメントにあたる。

多様な経験が価値になる背景

冒頭で触れたとおり、副業は収入を増やす手段としてだけでなく、スキルアップのためにも注目されています。確かに、ひとつの会社に勤めるのと副業をするのとでは、インプットの量や人脈の広がり方に差が出ることは予想できます。

では、どうして働き方を変えてまで自己成長を目指すのか。登壇者の3人はおもな理由として、SNSの普及などを背景に“個人”の存在感が増したことを挙げます。

個人の能力や実績が注目されやすくなったぶん、多様な経験を積んでスキルを磨きたいと考える人が増えているというのです。

実際にガイアックス以外に副業先を持つ管さんも、日頃課題に感じているスキルを補えることに魅力を感じているそう。

「ガイアックスでは部長として組織をまとめる仕事を長年やっていますが、ときどき自分にはトップの素質がないかもしれないと感じることがあって(笑)。副業では、自分が理想とするリーダーだと感じる人と共に働き、本業に生きるスキルを学んでいます。また、リーダーをサポートする仕事を経験することで、視点も変わり本業では得られない知識が備わりましたね」。

城さんは、副業をとおして自身を評価する力が身につくと話します。

「副業で弊社に参画したばかりのメンバーの中には、『自分は何もできない』と話す人が多いんです。『市場で通用するようなプロとして報酬をいただくことに不安を感じる』と。しかしよくよく話を聞いてみると、実は企業がほしくてたまらないようなスキルをもっている。その価値に本人が気づいていないんです。副業をして会社の外に出ることで、自分の仕事にいくらの値がつくのか確認できます」。

副業がもたらすのはスキルだけではありません。浜田さんは、副業はキャリアにおけるチャレンジを経済的にも下支えする手段になると話します。

「大企業からベンチャーへ転職すると、一般的には収入が下がりますよね。私も現職にチャレンジするために転職をして、年収が下がりました。今はその分を副業の収入でカバーしています。具体的には、講演会やイベントへの登壇、テレビ出演の収入は、会社ではなく私個人の報酬として受け取れるように交渉しました」。

新たなスキルを獲得するため、安心してキャリアチェンジするため……副業が注目されるのには、このような理由もあるようです。

初心者でも「自分はプロ」と自覚して

収入を増やしつつ、自分のスキルや市場価値を高めてくれると聞くと、副業が魅力的に感じられますが、誰でも簡単に成功するわけではありません。副業でよく見られる失敗について聞かれた管さんと城さんは、口を揃えて「キャパオーバー」と答えました。

本来なら体を休めるべきタイミングで働いてしまったり、タスクとスケジュールをうまく管理できなくなったりして、本業の生産性まで落としてしまう人も少なくないそう。

では、キャパオーバー問題を解決するには、具体的にどうしたらいいのか。城さんは次のようにアドバイスします。

「自分の適性やスキルを正確に把握するよう努め、現実的な工数を計算する必要があります。多くの人が、最初は見栄を張ってしまいがち。でもそれが、後々自分の首を締めることになります」。

これを受けて浜田さんは「後出しで依頼されて想定より工数がかかるケースはよくあるので、最初に業務内容をしっかり洗い出すことが大切」と続け、管さんは「クライアントとアウトプットのイメージをすり合わせておくことも必要」と付け加えました。

とはいえ、副業を始めたばかりで上記のアドバイスを完璧に実践するのはなかなか難しいもの。そこで大切になるのが、『副業であってもプロ』という自覚をもつことだと管さんは話します。

「本業に比べて副業は後回しにされがちですが、サブであってもメイン同様に責任を持って取り組むべきです。副業だろうが、クオリティーの担保は必須。言い訳は通用しません。その覚悟がないと、結果的に自分の信頼毀損になってしまいます」。

そして、どんな状況でもやりきる覚悟をもつには、やはり本当にやりたいことを見つけるべきだと続けます。

「特にやりたいことがないのであれば、無理に副業に手を出さず、本業でスキルを磨くのも手ですよ。『なんでもいいから副業がしたい!』という思いで走り出すのは危険だということは理解しておいてほしいですね」。

戦略のないボランティアで未来は描けない

スキルアップしたいけれど、仕事にするほど今のスキルに自信がない。今の仕事とはまったく異なる業種でチャレンジしたい。そんなとき、ひとつの選択肢になるのがプロボノ(スキルを活かしたボランティア活動)でしょう。しかし、3人ともプロボノには注意が必要といいます。

まず管さんは「報酬があるのとないのとでは、緊張感や得られる経験値に大きな差がある」とし、安易なプロボノは勧めないといいます。続けて浜田さんは、プロボノは“やりがい”を搾取される可能性があると指摘しつつ、「自身を値付けする力を養えるのは、プロボノではなく副業。その機会を失わないようにしてほしい」と話しました。

そして城さんは、期間を決めるべきとアドバイス。

「足がかりとしてプロボノから始めることは否定しませんが、自分がいつまでにどうなりたいかというゴールを見据え、どれくらいの期間なら無償で取り組むかを決めるといいと思います」。

決してプロボノを否定するわけではないものの、必ずしも副業と同じだけのものが得られるわけではないと注意を促しました。

(構成:中島香菜、編集:安次富陽子)